悪いがん治療 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
現代のがん治療薬は科学的有効性を論じる事が目的化されてしまい、科学的有効という評価と実生活感覚で求められる治るという印象からはどんどん乖離してしまった。 今のがん治療は効くか効かないかわかりにくいものにまで、「科学的に有効」というお墨付きをつけて治療薬として取り扱っているが、試験デザインでごまかしている治療法も実は多い。 著者、及び翻訳者は何もがん治療を否定しているわけではなく、本当に有効な治療法を見極めるにはリアルタイムで第一線の情報を評価しあえと言う。製薬会社や御用達研究者の言い分がまかり通らないためにも、結論付けられた治療薬評価をそのまま受け取るなという警鐘も兼ねた医療批判書。
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医事新報の仲野先生のコラムで紹介。著者は疫学・統計学科准教授の腫瘍内科医。がんの薬は値段が高すぎ、効果は小さすぎるという問題提示。ずっと抱いていた疑問に対する答えをきちんと与えてくれてすっきりしたとのこと。
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大学の血液腫瘍内科医として勤務しつつ、医療政策の研究も行う著者が、がんの治療薬の承認を巡る医療政策の問題点を示した著作。 メディアでは様々ながんの治療薬が「これまでにない画期的な新薬」として取り上げられるが、そうした報道には注意した方が良い。一見、治験のような厳格な臨床試験を通...
大学の血液腫瘍内科医として勤務しつつ、医療政策の研究も行う著者が、がんの治療薬の承認を巡る医療政策の問題点を示した著作。 メディアでは様々ながんの治療薬が「これまでにない画期的な新薬」として取り上げられるが、そうした報道には注意した方が良い。一見、治験のような厳格な臨床試験を通じて”効果”があるというエビデンスがあるものでも、その”効果”の定義が何かは非常に重要な論点である。 本書ではその”効果”について、臨床的エンドポイントと代理エンドポイントという2つの専門的な概念を分かりやすく説明してくれる。臨床的エンドポイントとは、余命の延伸効果など、本質的に患者のためになる指標を指すが、往々にしてこの臨床的エンドポイントを把握するには相当の年数が必要となる。そのため、実際にはもう少しショートタームで把握できる代理エンドポイントが用いられる。これはがんの新薬でいえば、腫瘍のサイズを減少させるという指標が選ばれることが多い。 代理エンドポイントと臨床的エンドポイントの強い因果関係があるのであれば、代理エンドポイントに基づく新薬の承認は問題にはならない。しかし、その因果が不明確なまま、代理エンドポイントに基づく承認が安易に規制当局によって行われているということ、その結果として本当の”効果”、つまりがん患者の余命を伸ばすような臨床的エンドポイントの効果がない新薬が承認され、高額な医療費(往々にしてこうした新薬の薬価は高く設定される)が費やされている、というのが本書での大きな問題提起である。 そのための解決策としては、厳密な臨床的エンドポイントに基づく承認をルール化すること、製薬会社から規制当局に関する直接・間接の影響力を排除するようなルール整備を行うこと、など、医療政策上のイシューとしての解決策が提示される。 がんの新薬開発を巡る医療政策の一面を知る上で、非常に自身にとっては有益な一冊であったし、恐らく異論・反論もある世界なので、異なる立場の論考も含めて知りたいという気がしている。
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