クライ・マッチョ の商品レビュー
なんか20年くらい前に読んだような気もする。話はシンプルでいてドラマチック。いかにも映画の原作になりそうな作品。ちょっと自分はこういう「さあ泣けさあ感動しろ」って苦手なんだよね。こういう大げさな感じの雰囲気、本当に必要か?好きか?と思いながらも、結構、精神的にダメージ食らった。子...
なんか20年くらい前に読んだような気もする。話はシンプルでいてドラマチック。いかにも映画の原作になりそうな作品。ちょっと自分はこういう「さあ泣けさあ感動しろ」って苦手なんだよね。こういう大げさな感じの雰囲気、本当に必要か?好きか?と思いながらも、結構、精神的にダメージ食らった。子供はできたが死産してしまった30後半の男性と、産まれてしまったが父親が身近にいなかった少年のロードムービーで、段々としこりが取れてきて、心が通い始めるのは、なかなかしんどい。後半は本全開にしないで読んでました。(そんなに苦手か?)
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中年男性が主人公のロードノベルとなると、どうしても『コックファイター』が頭に浮かんでくる。道具立ても似ているところがあって、でもマイクの心の動きがよく描かれてていい味出してます。
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クリント・イーストウッドという生涯の憧れだった映画俳優が、91歳になるというのに、新作映画で主演も監督も請け負っていることにまず驚愕した。原作ノヴェルとして新たに翻訳され発掘されたこの作品は1975年の作品だ。ぼくがに三日に一回というペース(深夜の5本立てなども含む)で映画館と...
クリント・イーストウッドという生涯の憧れだった映画俳優が、91歳になるというのに、新作映画で主演も監督も請け負っていることにまず驚愕した。原作ノヴェルとして新たに翻訳され発掘されたこの作品は1975年の作品だ。ぼくがに三日に一回というペース(深夜の5本立てなども含む)で映画館という映画館のスクリーンに噛り付いていたアメリカン・ニューシネマの時代に映画人の誰からも振り向かれることなく、映画化もされなかった本作が、今、この時期に翻訳されるとは! まさにイーストウッド映画のお裾分けのように、映画を未だ観ていないぼくが原作に出会えた。しかも映画は上映中。完全に同期しているのだ。 ちなみにイーストウッドと言えば、セルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタン、続いてドン・シーゲル監督に始まったダーティ・ハリーという恰好いい憧れのガンマンという印象が強かった。しかしその頃にも『センチメンタル・アドベンチャー』などのロード・ムーヴィーでリアルで弱い男というディープな役も演じていたので、彼の人間的厚みは、監督業を請け負う以前から実はとても強く感じていた。 監督としてもビッグヒットを連続させたし、イーストウッドが好むタイプ映画はヒューマンで、哀愁に満ちていて、暖かい血が流れているレアな印象が強く、それでいてセンチでロマンティックで、心を摑むものばかりだった。とりわけ小学校の頃からカウボーイの代名詞として最初から好きだったぼくのような夢見心地人間には。 さて本書はそんなイーストウッドのイメージそのままの物語として読める一作である。しかも、どちらかと言えば、先に挙げた『センチメンタル・アドベンチャー』の系列なのである。主人公はかつてヒーローだったものの、負傷して引退を迫られるロデオ・カウボーイ。話はシンプル。ロデオの興行主は、老いた主人公マイク・マイロに引退を言い渡し、その直後、別の仕事として、メキシコ人の妻との間にできた息子の誘拐を持ちかける。国境を越えてメキシコへゆき、少年を誘拐してテキサスへ帰ってくるというミッションである。 とはいえ、巻頭は派手なアクション・シーンに始まる。警察の銃撃を受けて国境付近でトラックを疾駆させるシーン。そして、本章はその三か月前から改めて語られる構成となっている。ロード・ノヴェルのスタート。言葉の通じない異国への旅。 ディテールが豊かである。情緒的で、純文学的ですらある。マイクの心の振幅、これまでの人生や今後への不安が語られる。主人公は、メキシコの地での新たな経験を通して、次第に心の中に歪みが膨らんでゆくのを感じてゆく。 メキシコ人の少年ラフォとの合流。彼らが追跡から逃れて身を隠す小さな町の家族との出会い。野生馬と並走するトラック。美しいシーン。夜には暗すぎる路地裏。狭い道。貧困層。犯罪者集団。テキーラとサボテンの国である。展開にスピーディさはなく、揺れ動く心的スリルや新しい文化や人々への出会いへの驚きの方が強い。メキシコという土地での粗っぽくも新しい体験や予想外のできごとに驚かされ、何かが揺れてゆく。 良い物語とは、物語を通して主人公が変わるもの、と誰かが言っていたように思う。本書の主人公マイク(ぼくの中ではイーストウッドそのものでしかないのだが)が、どのように変わってゆくかというところに、豊かな読みごたえを感じる。良い物語の骨格をしっかりと備えた作品なのだ、これは。娯楽サービス満点の昨今の人気ミステリーがいつか失ってきてしまったものを、むしろ改めて感じさせ、ああ、ぼくはこっち側(本作)の人間で、こういう読書が好きなのだ、と改めて自覚させられた一作なのだった。 なかなか表現しにくいけれども、今のぼくにとっては、完璧なタイプの(その代わり古い)小説である。本書が半世紀も後に日本語に翻訳された幸運、さらに未だ観ぬ映画作品への期待が残されている幸福に、改めて感謝、そして何よりも、Viva! Eastwood!
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