私説 春日井建 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
長年の親友による回想記。春日井建が三島由紀夫の引き立てで一躍寵児となった当時の(ちょっと異様な感じがするほどの)経緯とか、'60年代の文学青年たちが交遊する雰囲気が描かれていて面白かった。終章近く、建にとっての(『市民ケーン』の)"薔薇のつぼみ"が明かされる箇所はなんとなく涙が出そうになった。これより数年前に短歌の弟子による評伝が刊行されているが、著者の岡嶋氏が事故で急逝したため連載最後の一章が未完に終わった。本書の著者によれば、建の病状などがひじょうに赤裸々に描かれているため、臨終の場面をリアルに描かれることを拒否した建が、書き手を忽然と黄泉の国へ連れ去ったのではないか…たしかに、そんな想像もあり得ると思えてくるほど、春日井建という人の、周囲を巻き込まずにおかない強い性質が伝わってきて、これまで何となく思い描いていたのとは違う人物像が浮かぶようで興味深い書だった。
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