八月の遺書 の商品レビュー
戦争体験を個人的な視野から描いている短編で、そこがかえってそのことの普遍性を持つ。親世代が戦争体験者である世代の、親との思想的な対立や嫌悪感、恐怖感などの個人の持つ感情を矮小化せず、避けずに見つめたからこそ、ぶれない軸が得られるのだと思った。
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最近の小説なのだけど、読んでいるとすごく昔の小説のように思えて、途中で原発事故とか新型コロナウイルスに関することが出てきて、そうだった!と思い出す感じだった。文章の雰囲気がそのように思わせるのか?
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戦争の作品では、戦闘シーンは多く描かれ、戦争に組み入れられた兵士、軍属の心情は常に定式化した「護国」「天皇陛下万歳」など画一化した語彙が列ぶ。本書では、兵士や軍関係者の心情が、嗅覚なども含めた五感を刺激する表現で迫ってくる。南京虐殺、特攻、朝鮮人の強制連行、特に被害ではなく加害...
戦争の作品では、戦闘シーンは多く描かれ、戦争に組み入れられた兵士、軍属の心情は常に定式化した「護国」「天皇陛下万歳」など画一化した語彙が列ぶ。本書では、兵士や軍関係者の心情が、嗅覚なども含めた五感を刺激する表現で迫ってくる。南京虐殺、特攻、朝鮮人の強制連行、特に被害ではなく加害者としての日本人に重きをおいている点も非常に重要だと感じる。戦時国際法違反となる捕虜への惨殺と斬首した祖父との向き合い。同じ戦時国際法違反となる捕虜などへの生体解剖に関わった看護師である祖母の遺書に書かれた事実に揺れる女性医師の葛藤と向き合い。毎年8月は、原爆や空襲で被害を受けた日本人が被害にあった方々に対して喪に服す年中行事となっているが、本当にそれで良いのか。アジア・太平洋戦争では日本の軍隊によって50を超えるアジア・太平洋地域の国々の方々に筆舌に尽くしがたい加害を行ったことにも哀悼を捧げる8月にする必要があるのではないだろうか。 閑話休題 2021年1月12日に「週刊文春」「文芸春秋」の編集長などを務めた作家の半藤一利さんが亡くなった。生前のしんぶん赤旗の連載では、「歴史は断片的なものだが、積み重ねて学んでいけば、いつか点と点がつながり線から面に広がっていく」といった様な表現をとられていた記事を思い出す。本編を読んでいても、看護師として生体解剖にかかわり、731部隊との関連が触れられていている。731部隊でいえば、2月に読んだ常石敬一さんの「731部隊全史」、今読んでいる吉中丈志さん編集の「731部隊と大学」で学んだ知識で視界が開ける。そして、作品に出てくる生体解剖を行った奥泉医師は、1月に読んだ吉田裕さん編集の「戦争と軍隊の政治社会史」で研究された、西荻窪診療所等の民主診療所内科医として勤務を続けるかたわら、中帰連の活動を通じて自身の中国での生体実験や加害としての日本軍の戦争に真摯に向きあった湯浅謙医師がモデルであろうと紹介されている。非常に私見にはなるのだが、この2点が繋がった事も、本書を読んだ意義は大きい。
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