月夜に、散りゆく君と最後の恋をした の商品レビュー
わたしの好きなもの。 朝一番の花屋。その前を通り過ぎる時の匂い。 とっておきの一輪の美女を連れ帰って、お気に入りのフラワーベースに生けるときの、あの密かな高揚感。 スンと背筋を伸ばす彼女は済ました顔でこう言っているような気がする。 『へえ、あなたがわたしの世話をするの?』 ...
わたしの好きなもの。 朝一番の花屋。その前を通り過ぎる時の匂い。 とっておきの一輪の美女を連れ帰って、お気に入りのフラワーベースに生けるときの、あの密かな高揚感。 スンと背筋を伸ばす彼女は済ました顔でこう言っているような気がする。 『へえ、あなたがわたしの世話をするの?』 そんなわたしの大好きな気高い一輪の花が、女子高生になって恋をするなんて、わたしのための物語かと思ったわ(違う 莉愛ちゃんは、いやクイーン莉愛は、気高く美しく、そして可憐で愛くるしい。 芍薬のような彼女が患う病が、ひとりの少年を惹き寄せ、ふたりがたったひとつの恋をする。 たしかにこの手のボーイミーツガールのお話は世の中に溢れている。わたしだって片手くらいのタイトルはすぐに浮かぶ。 それでもこの作品は、胸を打つのです。 花は散っていくから美しい。 永遠に続かないからこそいとおしい。 いちばん綺麗な花を記憶に刻んで散っていくなんてクイーンはにくい女の子だよ。 明日太のハートをおもうと君もなんてハードな初恋をしたんだと頭をなでなでしてあげたいけれど、たぶん彼は大丈夫なんだろう。 その名のとおり、明日を常に見ているから。 男に花の名前をひとつくらい教えておけとはよく言ったもので、明日太はひとつどころかこの世の花という花を知り尽くしているのだから、花が咲く限り、彼はクイーン莉愛を思い出し時々泣いたり笑ったりしながら、明日を生きていくのでしょう。 お気に入りの花屋に行って美女を手にウキウキソワソワしながら、店を出る。 そんな気持ちにさせてくれる素敵な一冊です。 枯れてしまった『彼女』に別れをいうのもまた、花のある生活そのもので、切なくも愛しいのでした。
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