七転八倒百姓記 の商品レビュー
山形の農家、菅野芳秀さんの「七転八倒百姓記」を読んだ。素晴らしい本だった。団塊世代で、若い頃の問いを抱えて奮闘されてきた一人だ。 農村が嫌で東京の大学に進学、成田空港建設反対闘争に身を投じてパクられた後、沖縄でウチナンチュたちの郷土への思いに触れ、「帰りたくなる故郷にしよう」と、...
山形の農家、菅野芳秀さんの「七転八倒百姓記」を読んだ。素晴らしい本だった。団塊世代で、若い頃の問いを抱えて奮闘されてきた一人だ。 農村が嫌で東京の大学に進学、成田空港建設反対闘争に身を投じてパクられた後、沖縄でウチナンチュたちの郷土への思いに触れ、「帰りたくなる故郷にしよう」と、帰郷して農業を継ぐことを決意。以来、家族農家として身を立てながら、減反問題や減農薬の取り組み、地域ぐるみの生ごみ堆肥化による地域内循環、アジアの農民との交流など、地に足のついたさまざまな社会運動に関わってきた足跡が記されている。長井市のレインボープランという生ごみ堆肥化の取り組みは前から知っていて、「先進的な考えの自治体なのかな」などと軽く考えていたけれど、こういう人が地道に輪を広げてやっと実現してきたことだったのかと目からウロコが落ちる思いだった。 日本の農業の抱える問題や、保守的な農村社会のありよう、アジアの途上国の農業の現状、そして未来の地域自給圏のビジョンなども語られているが、すべて単なる「論」ではなく、本人が行動しながら考え見出してきたものなので、とてもしっくり来る。 たまに、「団塊世代が日本をダメにした」などと言う人がいる。理想を掲げ自由を求めて社会を混乱させ責任を取らなかったみたいな意味らしい。たしかに僕の職場の上司にも、「政治の季節」にはデモ行ってたくせに、就職してからはコンサバなサラリーマンとして出世していった人がいたけど、決してそういう人ばかりではない。1960〜70年代は、それまで当たり前とされてきた価値や秩序が問い直された稀有な時代であり、その中で出会った問いを手放さずに、その後の人生において誠実に自分の現場で格闘してきた尊敬すべき人がたくさんいるのを知っている。彼らがいなかったら、この社会はさらにひどくなっていただろうと思う。当たり前とされてきたことを疑うこと、社会を構造的に捉えること、自分の立ち位置を問い直しそれぞれの現場で行動すること。これらは今こそ大切なことだ。 この本を読んで感じたことはたくさんあるのだけど、まずは地域や社会のことを自分ごととして正面から受け止め、より良くしていこうと根気よく行動し続ける姿勢に感動した。自分はとてもここまでできない気がする。 それと、地域内循環・分散・地域自治という、めざすべき社会のビジョンを机上ではなく現場の農の営みの中で描き出し、それに向けて行動してこられたこと。 さらに、保守的な農村社会の中で、考え方の異なる人たちとも関わりながら、地域を変えてきたのもすごい。 農に関心のある人、本当の「地域づくり」とは何かを知りたい人、日本や世界の未来を憂う人、この社会を変えたいと願う人すべてにオススメしたい。首都圏のサラリーマン家庭に生まれた自分は、引っ越しも多く、先祖代々の「ふるさと」がある人が羨ましいという思いもあるけれど、全世界をふるさとにし、いつか永住の地を定めてその土地の循環の中に生き、そこに深く根付きたいと改めて思った。 菅野さんは、「みんなでなろう柿の種」という。柿は熟すと木から落ち、やがて果肉は土に還るけれど、中にある種は次の世代につながっていく。世の中には、時代の役割を終えていくものと、次の時代の萌芽とがある。たとえば原発推進やリニア建設などは過去の成長路線の名残であり、消えゆくべき果肉。果肉と種をしっかり峻別し、未来を切り開く「柿の種」になる人が増えていけば、社会は良い方向に変わっていく。自分も柿の種になりたい。
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