私のいない部屋 の商品レビュー
不安、生を無効化される恐怖が身の回りにあった若い日々から模索し苦しみ、『なにはともあれ、なるべきものになった』までを綴る、したたかで美しい文章。構成が整っていて読みやすい。文学的表現や歴史や紀行文的な要素が散りばめられていて、たとえばフェミニズムに戸惑いを感じているひとにも勧めや...
不安、生を無効化される恐怖が身の回りにあった若い日々から模索し苦しみ、『なにはともあれ、なるべきものになった』までを綴る、したたかで美しい文章。構成が整っていて読みやすい。文学的表現や歴史や紀行文的な要素が散りばめられていて、たとえばフェミニズムに戸惑いを感じているひとにも勧めやすいと思った。
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レベッカ、ソルニットをフェミニストにしたのは、一つの机なのかもしれない。 もちろん、「女や子どもを殴るのは自分の権利」だとして実行してきた男と、それを受け入れてきた女の娘であったことや、その後の自分に起きた出来事も影響はあるだろうが。 机をくれた友人は、彼女を黙らそうとしたかつ...
レベッカ、ソルニットをフェミニストにしたのは、一つの机なのかもしれない。 もちろん、「女や子どもを殴るのは自分の権利」だとして実行してきた男と、それを受け入れてきた女の娘であったことや、その後の自分に起きた出来事も影響はあるだろうが。 机をくれた友人は、彼女を黙らそうとしたかつての恋人から15回刺され生還した。そして、彼女のくれた机はソルニットの「声のプラットフォーム」になった。 「説教したがる男たち」を書くことになった経緯や、その後彼女の耳に入る多くの女の勇気ある決断が書かれている。 沈黙せず声を持つということ。 「声をもつことには三つの鍵となる要素がある。それは声が聞かれること、信じてもらえること、そして重んじられることだ。」 聞かれることは、嫌がらせや脅迫によって場から締め出されないこと。 信じてもらえることは、語られたことがそれ自体の内容と文脈で判断されること。 重んじられることは、自分におきたことを明確にする権威となることだ。重要で無い人物として、言葉に何も力がないと、声は届かない。 最後に書かれた「金継ぎ」のメタファーは、なるほどなあ、いい考え方だなと思った。器が壊れたことを隠すのでなく、むしろ目立たせて、以前とは違うやり方でその器をかけがえのないものにする。 年を取ると誰しもが、「金継ぎ」だらけになる。傷の修復そのものを美しいものとする。 本当に美しいと思う。
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「ダメージはそれまでとは別の運命を人に与える。しかし自分の人生を生き、意味のある仕事をすることが妨げられるわけではない。時として、何か悪いことが起きたにも関わらずではなくそれゆえにあるべき存在になり、すべき仕事に踏み出すことがある。」 現代アメリカで偉大な書き手のレベッカソルニ...
「ダメージはそれまでとは別の運命を人に与える。しかし自分の人生を生き、意味のある仕事をすることが妨げられるわけではない。時として、何か悪いことが起きたにも関わらずではなくそれゆえにあるべき存在になり、すべき仕事に踏み出すことがある。」 現代アメリカで偉大な書き手のレベッカソルニットが、小さな部屋を借り、自らの声を見つけてゆくまでの回顧録。まるで歩くように彼女の半生をめぐってゆく。それは、無いものとされる性を生きる、不在の生を生きることでもあった。 自分の人生を見つめることが、彼女の書くことの主題につながっていく。それが、自分の生きづらさから連なり、他の虐げられた人へのメッセージになってゆく。 悲しいことがあったからこそ、痛みがあるからこそ、聞こえることもある。できることもある。 背筋を伸ばして、心の向かう方へ生きていこうと、励ましをもらった。
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シックでおしゃれな表紙の次に飛び込んできたのが原題。それらはあまりに相反しており引っかかった。(邦題も意味はほぼ同一だけど、詩的に映っちゃってどうしても響いてこない…) 話はサンフランシスコにあるアパートへの引っ越しやその地域での交流、まるで古き良きアメリカにでも触れるような情...
シックでおしゃれな表紙の次に飛び込んできたのが原題。それらはあまりに相反しており引っかかった。(邦題も意味はほぼ同一だけど、詩的に映っちゃってどうしても響いてこない…) 話はサンフランシスコにあるアパートへの引っ越しやその地域での交流、まるで古き良きアメリカにでも触れるような情景から始まるから一瞬何がテーマなのか忘れかけてしまう。しかしその中から筆者の言わんとする事が徐々に見えてきた時、これは間違いなく自分も知っておくべきテーマだと感知した。著者のことをよく知らないまま手に取っちゃったけど、妙に説得力があって言葉の一つひとつがジワジワと思考に広がっていく。これでもかと悔しさも覚えていった。 気を紛らわす(筆者はそれを「消失」と呼んでいる)方法が延々と語られた時は、著者も自分も心が虚しくなっていくのが見て取れた。 ノンフィクション作家を目指す過程では、作品名といった固有名詞とか正直分からない部分も多かったけど、読書が彼女の救いになっていたのは一番共感できたことかもしれない。と言うか、それを知れただけで今回は充分だった。 「いろいろなものの断片を組み合わせて新しい絵を描いてみたかった。その見えない世界の市民権を得たかった。私は本によって、本の中で、本のために生きたいと思っていた」 過去の著書を未読のまま、それでも何とかなるだろうといつもと同じ勢いで開いてみたけど今回は読んでおいた方が良かったかなって。そうした上でまた今作に戻るってパターンなんだなと汗 でも前述の読書やジェンダー論(「開かれること、信じてもらえること、重んじられることの欠落」)、また著者の視野を拡げてくれたQueer Cultureを目の当たりにしたことで決して無駄足にはならなかったとも言える。
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