香港 政治危機 の商品レビュー
▼東京外国語大学附属図書館の所蔵状況(TUFS Library OPAC) https://www-lib.tufs.ac.jp/opac/recordID/catalog.bib/BC10015079
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表紙は一般書だが、中身は専門書といった感じでかなり細かく書かれている印象だった。 ただその割に内容はわかりやすく、香港についてほとんど知らない私でも内容が頭に入ってきた。 難点を言うと若干複数の章で重複する内容が多く、そこは若干しつこく感じた。 ただ全般的には著者の誠実な人...
表紙は一般書だが、中身は専門書といった感じでかなり細かく書かれている印象だった。 ただその割に内容はわかりやすく、香港についてほとんど知らない私でも内容が頭に入ってきた。 難点を言うと若干複数の章で重複する内容が多く、そこは若干しつこく感じた。 ただ全般的には著者の誠実な人柄と、香港政治という専門分野に対する著者の思いの強さが感じられる内容だった。 本書の内容を基にして香港や、ましてや台湾の今後を予測するのは非常に困難であるが、中国共産党政府のこう言った問題への対応の歴史や経緯を知るという意味では参考になった。 著者の見解とは180度違うと思うが、個人的には、やはり市民側にそれなりの武力というか、力がないと、民主主義は簡単に勝ち取れないのではと感じた。 香港では、それなりの規模の抗議活動が行われ、また西側メディアによる多くの報道も行われたが、結局民主化に近づくどころか、香港国家安全法が施行され、中国の統治が強くなっている。 PLAの一部を味方につけるか、外国の軍隊の介入を受けるか、いずれにしろPLA本体と戦えるだけの力を持たない限り、どのような形で民主派がデモを行っても何も変わらないのではと感じた。
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※このレビューにはネタバレを含みます
近年見られる中国の香港に対する強硬姿勢は、習近平の路線変更によるものだとする見解が多い。しかし、筆者はこの見方を支持しない。強硬な態度をとる原因は胡錦濤政権の末期から顕著になってきた「中港融合」の弊害が出てきたことが原因の一つと見ている。2003年のSARSにより、観光客が激減した香港は、大陸からの観光客を受け入れるようになった。しかし、中国人の振る舞いは市民の反感をもたらした。 そして、20世紀末に成立した一国二制度を支える状況も大きく変わっていた。香港を資本主義システムの国として置いておくことは、中国の民主化に資すると考えた欧米諸国。香港から外貨を得られる中国。しかし、中国は民主化をするどころか権威主義を全面に出すようになった。近代化を終え、国の安全を重要視するようになった中国にとって、国際社会が香港に介入するのは望ましくない。政府はたびたび香港市民のデモによって法案の撤回を迫られたが、2020年の国安法はとうとう香港市民に見えないところで作られたものだった。
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今やデモや当局からの強い圧力で有名になった政治的な街・香港であるが、かつては日本以上に政治的に無関心な街だった。波乱の政治環境に置かれる香港で、かつてから現在に至るまで、何が起きたのか。それを時系列に詳細にまとめたのが本書である。 本書の流れは一貫しており、第1章で時系列に詳し...
今やデモや当局からの強い圧力で有名になった政治的な街・香港であるが、かつては日本以上に政治的に無関心な街だった。波乱の政治環境に置かれる香港で、かつてから現在に至るまで、何が起きたのか。それを時系列に詳細にまとめたのが本書である。 本書の流れは一貫しており、第1章で時系列に詳しく語られたあと、様々な観点からより詳細に繰り返し語る数章で成る。量が多いので、もし読書を端折るなら、第1章と、本書の大まかな執筆の直後に起こったという国安法制定について言及した終章を読めば、ある程度十分かもしれない。 もともとイギリスが所有あるいは租借していた頃も、20世紀でありながら旧態的な植民地支配が行われ、民主主義はなかった (「民主はないが自由はある」)。経済が十分に発達していないこともあり、市民も政治的関心を持っていなかった。租借の期限が近づくと、イギリスは返還を見越し、民主化を目指す。中国の反発に妥協しつつ、「いつか」普通選挙を行うことを最終目標として、香港は中国に返還される。その背景には、香港が経済的に発展し、ある程度の民主主義の保障を中国が飲まざるを得なかったことがある。 しかし、中国が経済的に著しく発展し、やがて香港の価値は低下し、民主主義を受け入れる必要性は薄れていく。民主主義は権威主義にとって非常に厄介なものであり、国内のそれを排除する向きに動くのも自然なことである。自由な普通選挙は反故にされつつあった。 一方の香港市民は、経済的に発展し政治的関心を持つようになったうえ、特に天安門事件が大きな衝撃となり、中央政府への反感を増していった。 この二者は完全に自由な普通選挙に対する争いを10年ほどで激化させていく。 そして今や、香港の民主主義は、危機的状況を超え、絶望的な状況にある。「禁書」を売る書店の関係者が本国に拉致された事件と、それを合法化するかのような逃亡犯条例の改正は、当初の相互不可侵の方針を完全に捨てたものである。さらには、恣意的な逮捕を自在に行える香港国家安全維持法が中央政府により突如制定され、押し付けられてしまった。もはや「一国二制度」の約束すら破るこの変化により、香港の民主主義・自由主義は死を迎えたといえる。 私はこれまで香港情勢に無知であったが、本書では以上のような経緯と背景が詳しく解説されており、香港情勢への理解を深めることができた。台湾問題とは異なり、中国の自治の範疇とされる問題であることから、非常に厳しい状況にあるといえるが、今後に注目していきたい。
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