魔女の暦 改版 の商品レビュー
文庫本に収録されている、2つの物語どちらも犯人が最後まで分からず面白かったが、よりどんな背景があったのか気になったのは2つ目の火の十字架の方だった。殺人の動機はそんなに凝ったものではないが、どういう背景だったのかは人間ドラマ?があって面白く読めた。
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表題作の他に「火の十字架」が収録されており、どちらも1958(昭和33)年作。これは「幽霊男」(1954)よりも後で、「悪魔の手毬唄」と同年、「白と黒」(1960)の少し前である。 戦前にはかなり密度の高い文学的文体をも用いた横溝は、戦後徐々に文体が軽くなり、昭和30年代以降...
表題作の他に「火の十字架」が収録されており、どちらも1958(昭和33)年作。これは「幽霊男」(1954)よりも後で、「悪魔の手毬唄」と同年、「白と黒」(1960)の少し前である。 戦前にはかなり密度の高い文学的文体をも用いた横溝は、戦後徐々に文体が軽くなり、昭和30年代以降は戯作的なユーモアも含む剽軽な文章へと変貌していくように思っていたが、本作もそうした「軽い文体」への移行が印づけられている。が、本巻の2編とも、そう悪くない。「幽霊男」はちょっと文章もプロットも粗雑に過ぎたが、この2編は結構良いのである。何よりも「読ませる」小説であり、やはり横溝の作品は全然完璧ではないのだけれど抜きん出て「語りのうまさ」を示していると思う。本巻を読んでいて、戯作めいていく戦後の文体は、もしかすると江戸時代から明治の初めまで多く書かれた草紙系の文学に横溝正史は幼少期から馴染んでいて、そのエンタメ文芸の伝統を受け継いでいるのではないかという気がした。 それにしても、本巻においては作者のアングラ趣味が充溢している。浅草などのストリップ劇場とかヌードダンサーを主題とし、アンダーグランドな界隈の文化を追求している。戦前においては芸妓を非常に好んで描いた永井荷風が、戦争末期の大空襲を経て根底から様変わりした東京の焼け野原に、たくましく湧き出してきた泥臭い庶民文化の新しい様相、特に浅草界隈のアングラ劇場に通い、作風も一変させてしまった過程と軌を一にしているように見える。文化のこの未曾有の大転換において荷風が老い、滅んでゆくのに対し、横溝はこうしたストリップ劇場などの怪しげな文化の中で更に生き生きとしていったのではあるまいか。 生首などを好む横溝のエログロ趣味は、本書の「火の十字架」においてめざましく炸裂している。この作品では最初に発見される死体の様相の凄惨さは、横溝作品の中でもとりわけて激烈なものだし、事件の背景にある性的な乱れや変態性も印象の強いものだ。 その後の高度経済成長を経て社会の中のアングラ部分は糊塗され隠蔽され、むしろ商品的な記号へと変わってゆくのだが、それ以前の野蛮な躍動を、本書の横溝文学は生き生きととらえているのである。
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収録された2話は、実写にするにはいろいろな意味で難しい話。 どちらもストリップ業界の話かつ男女の愛憎話だし。 特に『火の十字架』は遺体そのものがえげつない。 作中でも言われていたが、グロさではかなりのものだと思う。 犯人と被害者たちの関係性の根っこ部分もかなりえげつなかったけれども。 『魔女の暦』は、金田一探偵が間に合わない話。 彼は事件を未然に防ぐ探偵ではないからなあ。 なので、全ての殺人が終わってから唐突に解決編に入る。 こちらは本来の目的のために別の殺人を犯すその怖さが印象的だった。 殺人が起きるのに、犯人を絞り込めずやきもきしているところに更なる事件が発生。 犯人を追い詰める道筋は非常に細かった。 謎解きは後手に回ったが、金田一探偵の解決編の語りは長編と変わらぬ魅力があったと思う。 中編ながらしっかり金田一の世界が味わえるお話だった。
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「魔女の暦」、「火の十字架」収録。 どちらも浅草のストリップ劇場が舞台。そして、どちらも愛欲がえげつないというか。あと、謎の手紙から始まるところも同じかな。 「魔女の暦」の合間にある犯人のパートが映像を意識した感じがして好き。横溝作品では、あまりない書き方。
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