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ドイツの庇護権と難民問題 の商品レビュー

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2021/08/26

ドイツ基本法(とりわけArt.16a庇護権)はゼミで取り扱ったこともあってか、懐かしいというかなんとなく思い入れさえある。だいぶ学問とは疎遠になりつつあるが、最近出版されたということもあり、読んでみることにした。ちょっと長くなるが感想なりサマリーを書いてみる。(結構断片的に書いて...

ドイツ基本法(とりわけArt.16a庇護権)はゼミで取り扱ったこともあってか、懐かしいというかなんとなく思い入れさえある。だいぶ学問とは疎遠になりつつあるが、最近出版されたということもあり、読んでみることにした。ちょっと長くなるが感想なりサマリーを書いてみる。(結構断片的に書いてしまったので、適宜リライトする) 基本法第16a条(1)では「政治的に迫害されている者は、庇護権を有する。」と規定されており、いわゆる国家が難民を保護する根拠となる条文である。基本法はドイツ国内において事実上の憲法となっているが、この外国人の権利である庇護権を憲法で規定しているのは世界的にみても稀で、この条文は自国民を排除(対象外と)しているという捉え方もできる。しかし庇護権がいかにして成立したのか、その経緯を辿ってみると興味深いことにドイツ人もこの権利を享受できるという議論もなされていた。「庇護権を有する」の主体が明言されていないことで、対象がドイツ人なのか、外国人なのか、両義的な解釈が議論された。 庇護権が基本法に盛り込まれた背景は本書では2点述べられている。第一に法概念論的アプローチで、法理論的なプロセスから成立したという背景。第二に歴史学アプローチで、「反省からの寛容論」、すなわちナチスの反省という背景。読む前は後者が決定的な要因と思っており、前者のような法理論的な枠組みは考えたことがなかったので学びになった。 第3〜4章では庇護権成立の過程とその解釈の変容について考察されており、個人的にはここが一番興味深かった。まず対象の議論だが、そもそもドイツ人に庇護権を適用されるのはミスリーディングでは?と思っていたが、これを理解するには戦後の複雑な情勢を読みとく必要がある。ドイツは敗戦後、連合国側による占領を経て東西ドイツ分裂に至った。また領土の支配領域も変わった(特に東側)ことから、西ドイツ国外にドイツ人が散らばっている状況となった(基本法が西ドイツ内に適用されていることから、本国を視点している)これにより主に東欧などの共産主義圏内から西ドイツへ逃れる人々が増え、彼ら/彼女らを保護するためにドイツ人に庇護権が適用されるといったことが起きた。時代が進むとこのようなケースは減り、外国人の難民が増えるようになり、庇護権はドイツ人のみならず外国人にも有効である両義性を帯びることになった。 結章では今日における庇護権の意義が述べられている。現在ではほぼ外国人に対して適用されることは言うまでもないが、もはや難民問題と切っても切れない関係にあるだろう。2015年にはシリア難民を大量に受け入れ、国内では少なからず物議を醸し、メルケルが求心力を失うまでに発展した。庇護権の観点からみると、難民受け入れに上限を設けることは基本法上可能なのか?という議論である(まさにこの点をゼミで扱った)現在受け入れに関する手続きは庇護権が直接関与するケースは少ないそうだが、議論の本質的な部分であり続けることには変わりなく、難民受け入れにも大きく影響していくだろう。

Posted byブクログ