1,800円以上の注文で送料無料

契丹伝奇集 新装版 の商品レビュー

3

2件のお客様レビュー

  1. 5つ

    0

  2. 4つ

    0

  3. 3つ

    1

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2021/12/18

 長くても70頁程度の中篇、掌篇もあれば1頁で終わる翩篇というものまで。多様な形式で多様なお話が収められているが、どれも幻想性が高く、それが文化史家の方ならでは(?)の教養ある描写と相まってより物語世界に引き込まれる。だが大半の物語は唐突な幕引きを迎え、夢の中に置き去りにされた心...

 長くても70頁程度の中篇、掌篇もあれば1頁で終わる翩篇というものまで。多様な形式で多様なお話が収められているが、どれも幻想性が高く、それが文化史家の方ならでは(?)の教養ある描写と相まってより物語世界に引き込まれる。だが大半の物語は唐突な幕引きを迎え、夢の中に置き去りにされた心地になる。その感覚がとっても好き。

Posted byブクログ

2021/12/04

・中野美代子「契丹伝奇集」(河出文庫)の「跋」によれば、「伝奇」といふ語は「せいぜい『文学的な私小説ではな い』といった程度」(333頁)の意味であるといふ。つまり、必ずしも伝奇的な作ではないといふことである。カバーの裏表紙には「博覧強記の中国文化史家が織りなす極上の幻想小説集。...

・中野美代子「契丹伝奇集」(河出文庫)の「跋」によれば、「伝奇」といふ語は「せいぜい『文学的な私小説ではな い』といった程度」(333頁)の意味であるといふ。つまり、必ずしも伝奇的な作ではないといふことである。カバーの裏表紙には「博覧強記の中国文化史家が織りなす極上の幻想小説集。」とある。最後の幻想小説のあたりが気になるところで、これも売るためにはしかたのないことなのだらうと思ふ。 ・まづ気になつたのは巻頭の「女俑」の表記である。固有名詞と一部の語を除いて、ほとんどが仮名書きされてゐる。最初の11ペー ジ目の漢字、章題以外は「旦那」「以外」の2語のみ、カタカナもあるが「ベンツ」「ドア」のみ、残りは全て平仮名である。「あたし」などといふ語に漢字は合はないが、「くろぬり」「まえぶれ」「かたて」「かたあし」等はむしろ仮名ではない方が分かり易いのではないか。「きんちょう」は普通は漢字で書く。70頁の作品である。かういふ調子で仮名書きされると、いささか疲れる。12頁 には「口迅に」といふ語がある。クチドと読むのだが、これはほとんど聞かない表現である。これを仮名書きしたらたぶん意味が分からない。それで漢字にしたのだらうと推測する。作者は中国文学者である。他の作品ではそれらしい漢語等が多く使はれてゐる。この 作品は難しい漢語はほとんどなささうである。内容は、語り手「あたし」が最期に女俑になつてしまふといふだけのものである。そこにベンツが出てきたりするのだから、これは一種の幻想小説とも言へる。難しい漢語を必要としない。だから「旦那」と「奥さま」は 漢字、意味の取りにくい語も漢字などとしたのかもしれない。「奥さま」の喪の関係では、「喪礼」「棺材」「絵師、裁縫師、指物師」などと漢字が多用されてゐる。ソウレイでは「喪礼」か「葬礼」か分からないといふことであらう。しかし、それなら最初から漢字で書くべき所は漢字で書けば良いのにと私などは思つてしまふ。それ以上の深い、大きな意味があるのであらうか。まさか字数かせ ぎではあるまい。同様の作品には「掌篇四話」の最後「屍体幻想」と翩篇七話の3話目「膏」がある。「屍体」は墓荒らしの話、これも「女俑」同様と思はれる。「膏」は鯨に飲み込まれた話、これはたぶん日本人2人の名と「引戸」といくつかのカタカナのみ、ごく短い作品である。いづれも幻想小説と言へさうな作品である。例へば2作目の「耀変」は耀変天目茶碗をめぐる話、これを幻想と言へるかどうか。あるいはミステリーであらうか。雰囲気は違ふ。だから漢字多用、といふより、普通に使つてゐる。固有名詞は漢字がほとんどであるが、中国文学をやつてゐる人が漢字を使えばかうなるよなといふ程度ではあらう。仮名多用は、いつもこんなに漢字を使つてゐるから、たまには仮名書きしたいといふことであらうか。あまり固有名詞にこだはらない内容ならばそれも良いといふことでもあらう。初出誌も関係なささうである。そのあたりの事情が分からないので気になるのである。作品は「女俑」がおもしろい。仮名書き多用で読むに疲れるにもかかはらずおもしろい。ベンツの走るやうな時代とも思へないが、「旦那」の息子はベンツを乗り回して女に明け暮れてゐる(らしい)。その2人の主導権争いを利用してその家を乗つ取ろうとするといふ物語は、ふと気づいてみれば幻想小説だつたといふ感じかもしれない。掌篇の類は別にしてそんな作品が多い。その意味で、カバーに「極上の」とあるのはいささかオーバーである。おもしろい。けれど、一部の作品のために、仮名書きが気になつてしまふ作品集であつた。

Posted byブクログ