わたしは夢を見つづける の商品レビュー
人種差別が残る時代にオハイオ州で彼女は生まれた。 ニューヨークに移り住む前は、サウスカロライナの祖父母のところで暮らしていた。散文詩調文章が南部の美しい情景を引き立たせる。 #中高生
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1963年の2月12日、アメリカの南部オハイオ州コロンバスで「わたし」は生まれた。その頃の南部はアフリカ系アメリカ人への差別撤廃のために大きく揺れていた。 アフリカ系アメリカ人の家庭に生まれた筆者の、その後の両親の離婚やサウスカロライナへの引っ越し、祖母からの「エホバの証人」信仰...
1963年の2月12日、アメリカの南部オハイオ州コロンバスで「わたし」は生まれた。その頃の南部はアフリカ系アメリカ人への差別撤廃のために大きく揺れていた。 アフリカ系アメリカ人の家庭に生まれた筆者の、その後の両親の離婚やサウスカロライナへの引っ越し、祖母からの「エホバの証人」信仰、ニューヨークへの引っ越し、友だちや学校でのできごと、親戚の不幸、作家になりたいという想いなど、著者の半生の思い出を、解放運動の動きとともに美しい文章の連なる散文で描いた一冊。 ******* ここからはネタバレ ******* 正直、詩の形式を取った話は読みにくくて好きでないことが多いのですが、この本は違いました(でもレビューは書きにくい(涙))。 訳者がさくまゆみこさんだと知ったときから期待していたのですが、裏切られなかったです。 筆者は、「ワシントン大行進」のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの「私には夢がある」の演説や、アフリカ系住民に対する人種差別に強硬な姿勢を取ったケネディ大統領の暗殺などがあった年に生まれています。 大きなうねりが始まったときですが、筆者は、声高に叫ぶこともだれかと衝突することもなく、淡々と日々を重ね、その時の思いを綴っています。 きっとこの率直な思いがこの本の心地よさの理由ではないかと私には感じられます。 当時のアフリカ系アメリカ人のコミュニティを、1人の少女の視点で等身大に描いた作品です。 元アメリカ大統領のバラク・オバマさんは、著者の2歳年上。ほとんど同世代ですね。そのオバマさんが人種問題を理解するのにこの本を勧めています。 難解な作品ではないので読める子なら中学年からでもいいと思うのですが、時代背景がわかったほうがより楽しめると思います。
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アフリカ系アメリカ人の少女の話なのに、なぜこんなにも共感してしまうのでしょうか。「子ども時代」にはすべての人に共通するものがあるのでしょうか。
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アメリカを代表する児童書作家ジャクリーン・ウッドソンの自伝的な作品。オハイオ州での幼児時代から、両親が離婚して母の故郷である南部のサウスカロライナ州へ。そして母が新天地をもとめて移り住んだニューヨークへ。 ウッドソンには「マディソン通りの少女たち」というシリーズがあるので、ああ...
アメリカを代表する児童書作家ジャクリーン・ウッドソンの自伝的な作品。オハイオ州での幼児時代から、両親が離婚して母の故郷である南部のサウスカロライナ州へ。そして母が新天地をもとめて移り住んだニューヨークへ。 ウッドソンには「マディソン通りの少女たち」というシリーズがあるので、ああ、こうしてマディソン通りの少女になったんだ、と合点がいった。南部の文化も、ニューヨークの街の文化も、あらゆるものが体のなかにとけこんでいるんだな。 ウッドソンが生まれたのは1963年。時あたかも公民権運動が高まりを迎える時代。おさないウッドソンがその渦中に飛びこむことはなく、また母がエホバの証人だったそうで(しらんかった!)ほかの子どもたちが触れていたようなポップカルチャーからも遠ざけられていたようだけど、やはりその空気を呼吸して育つというのは大きいのだと思った。 でもなによりもすてきなのは彼女が自分のなかにある作家性に気づいていく描写。 あるとき、ふだん無口な兄のホープが学校の舞台で歌を歌ったことがあった。兄は、カリブ海で歌われている「ティンガレーヨ」という歌を低くやわらかい声であまやかに歌い、拍手喝采を浴びる。 「だれの中にも宇宙からの贈りものがあって、 発見されるのを待っているのかもしれない」とジャクリーンは思う。 ジャクリーン自身は、物語を読むことと語ることに特別な喜びを感じていた。あるとき、オスカー・ワイルドの「わがままな大男」が大好きになり、何度も何度もくりかえし読んですっかりおぼえてしまった。 学校で先生から「前に出てこの物語を読んで」と言われたとき、ジャクリーンは本を持たずに丸ごとそっくり語ってきかせる。 「それでわたしにはわかる。 言葉が、わたしのティンガレーヨなのだと。 言葉こそが、わたしのかがやきなのだと」 とてもとても美しい瞬間だと思った。 だれもが自分のティンガレーヨを探しあてられたらなあ。
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