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危機の時代の歴史学のために の商品レビュー

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2021/08/02

 本巻のタイトルにある「危機」とは、著者によれば、同時代的な「危機」であるとともに、そこにうまく対応できない歴史学への「危機」意識との双方を意味している。  収録作の柱は、①3.11を経ての災害と核、②東アジアの歴史認識問題、③ジェンダー、④広義の歴史教育、である。  特に、②...

 本巻のタイトルにある「危機」とは、著者によれば、同時代的な「危機」であるとともに、そこにうまく対応できない歴史学への「危機」意識との双方を意味している。  収録作の柱は、①3.11を経ての災害と核、②東アジアの歴史認識問題、③ジェンダー、④広義の歴史教育、である。  特に、②、③については、冷戦終結前後から噴出してきた植民地認識問題、従軍慰安婦問題といったホットイシューに対する歴史学からの応答如何について、著者は真っ向からそれらの問いかけ、批判を受け止め、歴史学者たる自らのスタンスに拠って、丁寧に論じている。  ④については、多くの人にとって歴史を知ると言えば学校における〈歴史教育〉がメインであるが、教科書の叙述、授業実践といった、自分があまり関心のなかったところに焦点が当てられていて、面白かった。  一番興味深かったのは、「第15章 『通史』という制度」。国民国家という単位を前提にして、「日本」を過去から現在まで一貫したものとして描き出す語りがこれまでの歴史認識であり、歴史叙述であったが、現在、その前提そのものに対して問題視される一方、我が国の歴史を当然視する歴史修正主義側からの批判もある。        歴史において「当事者」と「他者」の関係をどのように考えていったらば良いのか非常に難しい問題だが、この論集には道標となる多くのヒントがありそうだ。

Posted byブクログ