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ナインストーリーズ の商品レビュー

3.3

15件のお客様レビュー

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2021/09/21

短編の時は特に、各タイトルが秀逸。 しかし、どれもなかなかに辛い話。5と8話は幸福感があるか。1と7話が好き。 何時もの如く、女は強く、男は流されていく。 人と人の心のすれ違いを描いているだけなのに、なぜこんなにも格調高く感じるのか。 とは言え、似た感じのものが増えてきているのは...

短編の時は特に、各タイトルが秀逸。 しかし、どれもなかなかに辛い話。5と8話は幸福感があるか。1と7話が好き。 何時もの如く、女は強く、男は流されていく。 人と人の心のすれ違いを描いているだけなのに、なぜこんなにも格調高く感じるのか。 とは言え、似た感じのものが増えてきているのは、少しつまらない。

Posted byブクログ

2021/08/25

初出 2019〜21年「オール讀物」 タイトルどおりの9つの短編集。 昔からこの人の文体が好きだ。 こなれて静かですんなり入ってくるのに、表情を持つ言葉が記憶に残る。 9人の初老か老年の主人公たちも、またそのような感じがする。 フランスに行って宝飾デザイナーとして成功した妻に...

初出 2019〜21年「オール讀物」 タイトルどおりの9つの短編集。 昔からこの人の文体が好きだ。 こなれて静かですんなり入ってくるのに、表情を持つ言葉が記憶に残る。 9人の初老か老年の主人公たちも、またそのような感じがする。 フランスに行って宝飾デザイナーとして成功した妻に、帰国を懇願するが拒否される定年間近の本のデザイナー。 ヘッドハンティングに関わった女性ホテル支配人に、気になっている女性バーテンダーを紹介したら、引き抜かれてしまった業界紙の記者。 放埒な生き方をして負債を残して死んだ義兄の葬儀で、若いときに紹介された義兄の会社の女性事務員に再会する工場を定年退職した男。 親の残した豪邸に一人で住みに続ける浮世離れした元令嬢を、定期的に見舞う老後を生き生きと暮らす女。 若い頃密かな交際をマスコミに騒がれて消滅した元歌手で女優に墓地で再会して、ライブバーで一緒に歌うのを「まるで生きていることのように思」う(?)ジャズバー専属歌手。 夫婦で市役所を定年退職後、ゆとりはあるが味気ない生活に高校の同級生との交流という新しい楽しみができた途端、人間ドックの再検査中に脳梗塞で倒れた男。 婚活で知り合った未亡人が、いい人だが物足りなくなると思い別れるつもりでホテルに誘った(が、深みにはまるらしい)文芸出版の編集者。 商社マンの夫を出張先の外国で亡くして働きながら娘を育て、付き合っている男に求婚され、看護師の娘が男と生きていこうとしているらしいことで決心する女。 長く海外勤務して留守を続け、自分を家に縛るだけの商社マンの夫に離婚を迫り、家を出る妻。 どれも感動の熱いストーリーではないが、じんわりと染みこんでくる。

Posted byブクログ

2021/07/30

晩年を迎えた男と女の来し方行く末を美しい文章で、時に甘く、時に辛辣に描く9つの短編。 若さの青さと苦さを描いたサリンジャーの短編集と同じタイトルながら、それとは対照的なのが面白い。 安定を捨てきれず、人生の後半に差し掛かってなおぐずぐずと逡巡する男に対し、あまりに強く身軽な女性...

晩年を迎えた男と女の来し方行く末を美しい文章で、時に甘く、時に辛辣に描く9つの短編。 若さの青さと苦さを描いたサリンジャーの短編集と同じタイトルながら、それとは対照的なのが面白い。 安定を捨てきれず、人生の後半に差し掛かってなおぐずぐずと逡巡する男に対し、あまりに強く身軽な女性たちの姿が印象的。 そんな女性を見て、恥ずかしくない自分でありたいと思う男あり、今更自分を変えられないと現状に踏みとどまる男ありとバラエティに富む9つの物語。 特に好きなのは「闘いは始まっている」と「くちづけを誘うメロディ」。前者は前に進む清々しさを感じ、後者は珍しい設定ながら、しみじみとした味わいがある。 もちろん、嫌な感じの男も女も出てくるけれど、それもまた人生。乙川さんの文章で彩られると、全てが文学的になるのが素敵。

Posted byブクログ

2021/06/25

【芸術選奨受賞の名手が紡ぐ、9つの物語】日本とパリに住んで年に一度の逢瀬を愉しむ夫婦、若い頃に破局した男女アイドル歌手の再会など、人生の黄昏模様を端正な筆致で描く。

Posted byブクログ

2021/06/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ここにある9つの人生が、その黄昏の切実さが、私のすぐそばを流れている。 前だけを見つめて走り続けていられる時間の尊さよ。 いくつも超えてきた山を、渡ってきた谷を、進んできた岐路を振り返ったときふと、不安に思うことがある。 これで正しかったのだろうか、と。 これが私の選んだ道なのか、あの時、夢見た未来なのか。 もしあの時目の前にあった別の手を選んでいたら、もしあの時、もし… いくつも浮かぶ「もし」を、何度も繰り返す「もし」を自分の中に取り込んで私たちは歩いていくのだ。 今日踏み出す一歩が、昨日の一歩を塗り替えていく。 一筋縄ではいかない男と女。ままならないその人生の、乙川優三郎が描くモノクロの世界を面白いと思える自分の人生を思う。

Posted byブクログ