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たそがれ の商品レビュー

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2024/01/07

「金持ちでも、貧乏でも、うわべはなんでもないふりして暮らしているけれど、本当はみんなわびしいものなのよ。わたしたちみたいな者たちはいつも同じね。よくもならないし、変わることもない」 タイトルに惹かれて読んだのだけれど、韓国社会を覆い尽くす諦めと新自由主義がもたらした超格差社会は...

「金持ちでも、貧乏でも、うわべはなんでもないふりして暮らしているけれど、本当はみんなわびしいものなのよ。わたしたちみたいな者たちはいつも同じね。よくもならないし、変わることもない」 タイトルに惹かれて読んだのだけれど、韓国社会を覆い尽くす諦めと新自由主義がもたらした超格差社会は、まもなく日本社会にも訪れるのかもしれない。「近代のたそがれでただ流されて生きる」ことしかできない若者たちは日本にも現在進行形で数多くいるだろうし、流されながらなんとか生き延びてきたかつての若者たちもいる。韓国は日本に数年先の自国の未来を見ているだろうし、日本に生きる自分は韓国の人々にこの国の未来を見る。 「前の世代の過去は、めぐる因果となって若い世代の現在に還ってゆく」 「困難のときを迎え、私たちはもっと早くに振り返らなければならなかった」 ファン・ソギョンはあとがきにこう記した。何度目かになるこの「因果」のめぐりは今まさに日本社会に訪れているものだが、この国、この社会ではどうにも振り返られる様子がないことに焦りを覚える。 一方、本作では建築家である主人公、パク・ミヌの人生を通して振り返りがなされる。貧民街(サンドンネ)で育ち、なんとかその泥濘から抜け出し、身を立てて、貧困から逃れて逃れて生きてきた人生に、どこか自分を重ねてしまう。パク・ミヌは自らを育てたサンドンネを再開発の名目で、跡形もなく破壊する。サンドンネは年から姿を消したが、半地下という新しい貧民街が形成された。もう一人の主人公、チョン・ウヒはそこに暮らす。 住居を通じて世代を越えた「因果」が表現されるが、パク・ミヌとチョン・ウヒはチャ・スナを通じて直接繋がっていく。そこがこの物語の核になっていると思うが、この因果自体も、因果を生産し続けるシステム自体にも、個人の小さな力では立ち向かいようがない。持たざる者は諦めてなんとか生き延びる以外に選択肢がないという過酷さ、熾烈な社会のありようを、名もなき小さな者たちのささやかな人生を通して描いていく筆力に唸らされた。イ・チャンドン監督『バーニング』と同じようにズシンとくるものがあった。

Posted byブクログ

2022/07/11

建築家のパク・ミヌは、講演会が終わった時に、若い女性からメモを渡された。「先生の古くからのお知り合いだと…必ずお電話してほしいとおっしゃっていました。」そのメモには、チャ・スナという名前と電話番号が書かれていた。数十年前の貧しいサンドンネ(산동네 山の町)で暮らしていた記憶が…。...

建築家のパク・ミヌは、講演会が終わった時に、若い女性からメモを渡された。「先生の古くからのお知り合いだと…必ずお電話してほしいとおっしゃっていました。」そのメモには、チャ・スナという名前と電話番号が書かれていた。数十年前の貧しいサンドンネ(산동네 山の町)で暮らしていた記憶が…。サンドンネを抜け出して大学に入り、そして建築家になり成功したパク・ミヌの人生と。芸術大学の演劇科を卒業して、演劇では食べていけないので、数十の履歴書を出して落ち続け、ようやく零細な出版社に入り、苦しい格差生活の中でもがく若い劇作家であるチョン・ウヒの人生が交差する。

Posted byブクログ