少年愛文学選 の商品レビュー
死と隣接する。「少年愛」という共通のテーマのもと集められているが故に、語り口の違いが際立つ。よかった。
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・高原英理編「少年愛文学選」(平凡社ライブラリー)は折口信夫や稲垣足穂等、15人の作家の作品を収める。日本人 だけである。しかもここには塚本邦雄や春日井健の歌人もゐる。折口も歌人だが、2人とは毛色が違ふ。塚本、春日井は戦後日本を代表する歌人である。塚本は1ページだけの作品「贖」(...
・高原英理編「少年愛文学選」(平凡社ライブラリー)は折口信夫や稲垣足穂等、15人の作家の作品を収める。日本人 だけである。しかもここには塚本邦雄や春日井健の歌人もゐる。折口も歌人だが、2人とは毛色が違ふ。塚本、春日井は戦後日本を代表する歌人である。塚本は1ページだけの作品「贖」(381頁)、所謂ショートショート、あるいは塚本の瞬編小説であらう。かういふのは塚本には、たぶん、いくつもある。春日井は例の歌集「未青年」からの抄出、いかにもそれらしいのが並ぶ。最後の「わが手にて土葬をしたしむらさきの死斑を浮かす少年の首」(387頁)は、最初の「大空の斬首ののちの静もりか没ちし日輪がのこすむら さき」(383頁)と見事に呼応してゐる。抄出の仕方にもいろいろと工夫があるのだらう。もしかしたらこれだけで春日井健ファン が生まれるかもしれない。と、書いてゐてふと思ふ、これは少年愛小説のアンソロジーなのだと。塚本は例の思はせぶりだが、春日井は直球である。ただし小説ではない。だからこそ、小説とは違ふ少年愛の形が生きてくるのであらう。 ・「編者解説」に三島由紀夫のエピソードが出てゐる。簡単に書けば、knabenliebeの訳として「男色」はきたないが、 「少年愛」は清らかに感じる(410頁)といふのである。これは「前近代の性制度である『男色』は性欲の名称であ」(同前)り、 「近代に発生した(プラトニック・ラブを含む)恋愛の形としての『少年愛』」(同前)はさうではないことによる。確かに、web で検索すると、近世の衆道は男色の道だとある。男色とは何か。男性の同性愛である。日本の近世ではここに若衆歌舞伎が絡むし、陰間も出現する。三島にはこれが頭にあつたのであらう。だから男色はきたない、knabenliebeは少年愛だと言つたのである。もしかしたら三島には、古代ギリシァの「誠実な少年愛paiderastiaを不誠実なものと区別し,奴隷との男色は禁じたが自由民どうしのそれは公認している。」(世界大百科事典)といふ事情があるのかもしれない。最近の少年愛はどうなのでらうか。 少年愛と言はずにboys loveと言ふのであらうか。「美少年同士の恋愛や性愛を題材とする、おもに女性向けの小説や漫画、アニメ、ゲームなどにおける作品ジャンル。」(日本大 百科全書)、略してBLとある。さうするとこの「少年愛文学選」の作品は最近流行のBLではないらしい。当然のことである。巻頭 の山崎俊夫「夕化粧」(9頁)には角書きの「市彌信夫」の2人の名前がある。近松のお初徳兵衛の類である。実際、最後に2人は心中をする。そして絶世の美少年であつた。折口の「口ぶえ」も美少年である。最後は「今、二人は、一歩岩角をのり出した。(前篇 終)」(122頁)で終はる。しかし、「後篇が書き継がれることはなかった」(415〜416頁)といふ。これも心中物である。 以下、少年愛の物語が続く。しかし、個人的におもしろかつたのは、巻末の編者高原英理「青色夢硝子」であつた。これは「かつての少年愛文学が現代の作品にどのような影響をもたらしたかという一例として」(421〜422頁)載せられた作品である。言はば少年愛文学の変奏曲であるといふ。SFなのであらう。夢物質、夢粒子、夢結晶、夢想結界等の見慣れない語が出てくる。夢結晶が「あれば、時間を超えて未来を見通せるじゃないだろうか。」(403頁)といふわけで、少年愛を読み続けてきていささかくたびれた人間にはありがたい作品であつた。ある意味、一服の清涼剤である。これでこの選集も救はれたとのではないかと思ふのである。
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男性作家による「少年愛」をテーマに編まれたアンソロジー。面白さでいえば川端康成の「少年」だ一番でけど、初めて読んだ山崎俊夫の「夕化粧」の雰囲気が印象深い。ちょっと他の作品も読んでみたい。収録作の中では編者である高原英理の「青色夢硝子」がやや浮いている印象が拭えずこれはない方が良か...
男性作家による「少年愛」をテーマに編まれたアンソロジー。面白さでいえば川端康成の「少年」だ一番でけど、初めて読んだ山崎俊夫の「夕化粧」の雰囲気が印象深い。ちょっと他の作品も読んでみたい。収録作の中では編者である高原英理の「青色夢硝子」がやや浮いている印象が拭えずこれはない方が良かったように思う。 しかし、それ意外の作品のチョイスは良く、いずれも読んで面白く収録作の構成も良く考えられている。また、編者による解説もなかなか読み応えのあるもので良かった。
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編者解説に曰く、清らかなイメージを付与された、 近代に発生したプラトニック・ラヴを含む 恋愛の形としての少年愛を取り扱った文芸作品集。 ■山崎俊夫「市彌信夫夕化粧」(1913年) 作者は作家で俳優(1891-1979)。 三味線の師匠の息子・市彌(いちや)17歳には 一つ...
編者解説に曰く、清らかなイメージを付与された、 近代に発生したプラトニック・ラヴを含む 恋愛の形としての少年愛を取り扱った文芸作品集。 ■山崎俊夫「市彌信夫夕化粧」(1913年) 作者は作家で俳優(1891-1979)。 三味線の師匠の息子・市彌(いちや)17歳には 一つ年上の恋人・信夫(しのぶ)がいた。 二人は度々夕刻に落ち合ってデートしていたが、 その際、市彌はほんのり薄化粧を施すのが常だった――。 ■折口信夫「口ぶえ」(1914年) 大阪の薬種商の家に生まれ育った中学三年生、 漆間安良(うるま・やすら)は、 忙しく働く母と叔母に気を遣いながら、学校生活を送っていた。 彼には気になる同級生や上級生がいて……。 ■江戸川乱歩「乱歩打ち明け話」(1928年) 同性愛経験にまつわるエッセイ。 未熟ゆえに清らかな関係の記憶。 ■倉田啓明「稚児殺し」(1915年) 1911年1月、内省に耽り、 度々授業をボイコットする滋野鞆雄は 同級生の波山寛に惹かれていた。 鞆雄は体調を崩して入院した寛を見舞ったが……。 ■木下杢太郎「少年の死」(1916年) 中学生・土屋富之助は成績不振に悩み、 自分の美しい姉に目をつけたらしい年長の知人 鹿田功の動向に怯える。 ■武者小路実篤「彼」(1908年) 語り手「僕」は(恐らく)念友である「彼」から 相談を受ける。 「彼」は仲間うちでモテモテの美形だが、 ある女性と強引に関係を持ってしまい、 そのことで悩んでいた。 ■稲垣足穂「RちゃんとSの話」(1924年) 四年生Sの心を捉えて離さない、 ハイカラなハンカチを持った可愛らしい下級生 Rちゃん(=T君)について。 ■堀辰雄「燃ゆる頬」(1932年) 17歳になった「私」は高校の寄宿舎で暮らし始め、 一つ年上の同級生・三枝(さいぐさ)と出会った。 「私」は美しい頬を持つ彼と夏休みに旅に出たが……。 ■大手拓次「沈黙の人」(1908年) 神田錦町の料理屋・勝見楼の御曹司、太田惣一18歳は 二つ年下の吉川吉次さんに岡惚れ。 一年間思い詰め、ようやく恋文を送ったものの……。 ■村山槐多「ある美少年に贈る書」(1915年) 散文詩。 作者自身の同性の友人宛の熱烈なラヴレター。 ■川端康成「少年」(1948年) 抄録(作者の自伝的小説の抜粋)。 寄宿舎のルームメイトと 恋人同士のように手を握ったり抱擁し合ったりする 語り手「私」の、進路や金銭問題や交友関係について。 ■中井英夫「夕映少年」(1985年) 「夕暮れどきに病室を訪れる、はにかみ屋の少年」 について語る友人のこと。 ■塚本邦雄「贖(あがない)」(1971年) 衝撃的なショートショート。 肉体的にも精神的にも大きなダメージを受けた 少年(青年?)の復讐譚。 ■春日井健「未青年」(1960年) 歌集の抄録。 ■高原英理「青色夢硝子」(1987年) 夢と友情の結晶装置を巡る物語。 このアンソロジーにおける《少年愛》の物語とは、 性別・性自認に関わらず 誰かが他者を愛する話ではなく、女性との性的接触を 汚らわしいが避けて通れない道と考える少年~青年が、 大人の男になる前にコドモたちだけの閉じた空間の中で 一番のお気に入り同士で睦み合う――といった型に収まる印象。 発表年が早い作品ほど、そうした傾向が強く感じられた。 自分らだけが善であり美であり、それ以外は醜いものと見なす 刹那的で短絡的な男子たち――とでも呼ぼうか。 中井英夫「夕映少年」は何度も読んでいるが やはり素晴らしい。 一番ツボに入ったのは塚本邦雄「贖」。 掌編かくあるべし。 予想外の拾い物は薄幸の詩人、大手拓次の小説。 https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4003113314 こんなものまで書いていたのか、と。
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