嘘と政治 の商品レビュー
ポスト真実とアーレントの思想の関連性について論じた本。複数性を強調するアーレントの思想は、俗流化された相対主義やポスト真実的な政治へ「悪用」されかねない。 理性の真理: 議論の余地がなく、客観的に誰もが真と認められるような真理(eg. 地球は太陽の周りを回っている) 事実の真...
ポスト真実とアーレントの思想の関連性について論じた本。複数性を強調するアーレントの思想は、俗流化された相対主義やポスト真実的な政治へ「悪用」されかねない。 理性の真理: 議論の余地がなく、客観的に誰もが真と認められるような真理(eg. 地球は太陽の周りを回っている) 事実の真理: 多くの人が巻き込まれている環境や出来事に関わり、目撃などによって実証される真理(eg.1914年にドイツ軍がベルギー国境に侵入) 事実や出来事の連なりが観点次第で変化し、時に改変さえされる脆さもある→歴史修正主義
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アーレント研究者による現代の「嘘と政治」の関係についての論考。 政治に嘘はつきものといえばつきものなのだが、現在のポスト・トゥルースな状況、つまり、トランプ現象、Brexit問題、日本では、公文書改竄問題、コロナ、オリンピックなどをどう考えればいいのかについては、ちょっと引っか...
アーレント研究者による現代の「嘘と政治」の関係についての論考。 政治に嘘はつきものといえばつきものなのだが、現在のポスト・トゥルースな状況、つまり、トランプ現象、Brexit問題、日本では、公文書改竄問題、コロナ、オリンピックなどをどう考えればいいのかについては、ちょっと引っかかっていた。 引っ掛かりの原因の一つは、「リーダーが臆面もなく嘘を堂々と話す」、「聞き手もそれが嘘というがうすうすわかっていても、それに同調して、自分の考えを変える」というのは、まさにナティスの全体主義を連想させるものであること。 そして、多分、もう一つは、嘘を主張する人が、ポスト・モダーンというか、多元主義、道徳的価値相対主義的、社会構成主義的な考えの弱点、つまり、どんな意見であっても、そこにもなんらかの価値やストーリーがあるだろうと、理解しようとすることに乗じて、堂々と嘘をいうということ。さらには、議論の相手に「全体主義的」だとか、立場とボキャブラリーを逆転した批判をすることだと思う。 この辺のことについては、言語化できそうで、できなかったのだが、著者は、アーレントの「嘘論」(「真理と政治」と「政治における嘘」)をベースに、当然ながら、「人間の条件」、「全体主義の起源」、「エルサレムのアイヒマン」などなど、アーレントの主著を援用しながら、この状況を読み解いていく。 好き勝手なことを放言する皮肉屋さんにときどき思えるアーレントだが、緻密な議論構成はなくても、ピンポイントでいいところを押さえているんだよな〜。そのセンス恐るべし。 これは、アーレントを使った現代の政治状況の分析であるとともに、現在の政治状況を踏まえたアーレントへの入門書でもあるかな?そして、単なる入門書を超えて、アーレントの議論を再解釈するものでもある。 とくに、「人間の条件」の「活動的生」の3つの区分、つまり、「労働」、「仕事」、「活動」において、「仕事」の意義について、著者は、アーレントが書いている文章にもとづきつつも、おそらくはアーレントが思っていた以上の重要性を読み込んでいると思う。 公的な領域における「活動」が可能であるためには、まずは、建物やテーブルなどの物理的、物質的な場所や道具、美術や文学などの芸術作品、そして(改竄されていない!)記録文書であったりという「仕事」が必要であるという視点。 「ポスト・トゥルース」との関係では、歴史や現実は、一つの正しい解釈が存在するわけでなく、人によってさまざまなストーリー、解釈があって、それぞれの再・著述があってよく、その多数性は「活動」のもとになるのだが、それでも変えることのできない「事実」は存在する。 たとえば、「ホロコーストは存在しない」、あるいは「言われているほどの規模ではない」といった歴史リヴィジョニストな言説は、「事実」によって、否定される。つまり、建物としての収容所があり、遺品、遺骨、そして秘密裏に書かれ、埋められた文書。こうした「事実」の集積は否定することはできない。これらの「事実」は、「仕事」の持続する効果である。 「活動」は、一時的であれ人間の可能性を広げるものかもしれないが、それを定着させる、あるいは引き続き議論をつづけるためには、そのよりどころになるのは、持続性のある「仕事」なのだ。 そこに、死すべき人間が、永遠ではなくても、一定の時間、安らぐことができる物理的な持続可能性があるのだ。 なるほど。著者のこの構成力はすばらしい。 あと、ときどき引用されるジョージ・オーウェルの「1984年」がとても印象的。昔読んだときは、ちょっと時代がかったディストピア小説に感じたのだが、なんとも今の状況につながるものが多い。いや〜、そこまではない、とも思うところもあるが、言語破壊による洗脳が進むと、現実がひどいか、どうかもわからなくなってくることも考えれば、これはまさに「現代」か、「近未来」かもしれない。「1984年」も再読の必要ありかな?
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自分が漠然と思ってたことが何点かうまく言語化されていたので面白かったです。 次は嘘に乗せられる人(積極的に乗る人)についての考察をお願いしたいです。
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・アーレントの考察や論理構成が簡潔に整理されていて、初心者がポイントを理解しやすい。 ・ポスト真実と呼ばれて久しい昨今の政治における言論を、アーレントの分析から紐解くとどのように位置づけられるのか、どういうことが起きているのか言語化するには役立てることができた。 ・第六章「ポスト...
・アーレントの考察や論理構成が簡潔に整理されていて、初心者がポイントを理解しやすい。 ・ポスト真実と呼ばれて久しい昨今の政治における言論を、アーレントの分析から紐解くとどのように位置づけられるのか、どういうことが起きているのか言語化するには役立てることができた。 ・第六章「ポスト真実に抗う公共物」については、分断された世界で具体的にどう公共の場をつくるのか、意見の違う人との場をつくるのかより具体的に方法論が示されていればよかったなと思った。筆者のいうそういう場を作ることは大事とわかっているが、これだけ分断が進んだ世界でどう再構築していけるのかが重要だと感じた。
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