金木犀と彼女の時間 の商品レビュー
高校生の菜月は、過去二度のタイムリープを経験したことがある。2つのタイムリープで共通していることといえば、精神的に追い詰められたことや同じ1時間を5回繰り返し、その後5回目の出来事が現実として歩むことである。 そして文化祭の日、クラスメートの拓未から告白された直後、タイムリープが...
高校生の菜月は、過去二度のタイムリープを経験したことがある。2つのタイムリープで共通していることといえば、精神的に追い詰められたことや同じ1時間を5回繰り返し、その後5回目の出来事が現実として歩むことである。 そして文化祭の日、クラスメートの拓未から告白された直後、タイムリープが発動してしまった。なぜ? 今回は告白なので、同じことを繰り返せば良いと思っていたはずが、拓未が告白前に転落死してしまう。 回を重ねていくたびに状況は悪化。果たして拓未を救うことはできるか? タイムリープものとなると、同じことが永遠と繰り返され、何かをきっかけにそのループが解かれるといったイメージがあります。 今回は、1回目から状況がガラリと変わり、死亡する事件が発生します。それも告白した人が。という衝撃的な展開に目が離せませんでした。 2回目、3回目と回を重ねるごとに良くなるどころか、悪化するばかりで、どうなっているのと興味をそそられるばかりでした。 ちなみになぜタイムリープが起きるかは描かれていません。突然発生するということで物語は進行します。 告白されるということで、恋愛の要素はあるのですが、どちらかというと「友情」の方に重視している印象でした。 女同士の友情で、彼を救うために奔走する姿には疾走感があって、ハラハラしました。 また、文化祭の描写や高校生達の活動が、瑞々しく描いていて、青春さを感じさせてくれました。 犯人は誰なのか?回を重ねるごとに視えなかった事実やサイドストーリーが明らかになっていくので、二重三重と楽しめました。 タイムリープに巻き込まれた菜月の苦悩、「変人」扱いされるジレンマに悔しさや歯痒さを感じながらも、懸命に防ごうとする菜月の活躍が輝しく見えました。 5回目の出来事が現実として歩んでいくということで、果たして良い未来になるのかどうか。 最後は、じんわりと感動がきて、温かい気持ちになりました。
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タイムリープ物が好きなら読んで損はなし。 高校3年生。最後の文化祭の日に、人生3度目のタイムリープが。 しかし、最初の経験と全く違う展開が。 5度目のリープで確定してしまうこのタイムリープ。何としても最善の結果にしたいのだか。 青春ものとしてもまた楽しい。
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―― 金木犀好きなんですよ。昔から。 タイムリープミステリ、ということで。青春小説×タイムリープの相性の良さといったらないんだけれど、今作はそのタイムリープがサスペンス要素と同時に主人公のトラウマとしても設定されていて、そのあたりも読みどころ。 その分ミステリとしての解き甲斐、みたいのは薄いのと、ちょっと全体的に堅苦しいというか、物語的な行き先にまっしぐらという感じがして少し息苦しかったのが残念。かといってこの設定でもう少しゆるく、っていうのも難しいか…ふーむ。 もっとこーざっくり、肩の力の抜けたのも読んでみたいなぁと思います。 ところでやはりタイムリープと青春小説の相性の良さっていうのは、あのときこうしていれば、っていう想いを青春時代には誰しも持っているからなのかしら。そもそもこの誰しも、っていうのが怪しいけれども。そして青春時代に限ったことじゃないとも思うけれども。 けれども。 ただ、そういう想いを持ったことのあるひととないひとだったら、あるひととのほうが仲良くなれるんだろうな、って気はしている。 仲良くなってもらえるかは別として。 ☆2.5。ちょい厳しい。
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心理表現や人間関係の描き方が瑞々しく、一方でミステリとしても鮮烈な印象を残す、青春タイムリープミステリ。 彩坂美月さんは最近注目を集めつつある作家さんのイメージでしたが、ミステリの書き手としても、青春小説の書き手としても、その実力がいかんなく現れた秀作だったと思います。 これま...
心理表現や人間関係の描き方が瑞々しく、一方でミステリとしても鮮烈な印象を残す、青春タイムリープミステリ。 彩坂美月さんは最近注目を集めつつある作家さんのイメージでしたが、ミステリの書き手としても、青春小説の書き手としても、その実力がいかんなく現れた秀作だったと思います。 これまでの人生で2回、同じ1時間を5回繰り返すタイムリープを体験した高校生の菜月。文化祭当日、菜月はクラスメートの拓未から告白された直後、再びタイムリープに巻き込まれ、時間を1時間さかのぼってしまう。そしてその1時間後、拓未は菜月に告白する前に転落死してしまい…… 拓未を突き落としたのは誰か? というのがメインの謎としてあるのはもちろんのこと、もう一方見落とせないのが、なぜ最初の1時間と違う未来が訪れてしまったのか、という謎。菜月が行動を変えたことに原因があるのか。それならば菜月が行動を変えたことによって、何が変化したのか。 犯人の謎。 未来が変わってしまった謎。 この二つが大きな謎の両軸として機能し続けて、とても面白かった。そして5回という回数制限があることもサスペンスを盛り上げる。タイムリープが回数を重ねるごとに、謎は混沌として先が読めなくなる。追い込まれた菜月が最後に取った手段とは…… そうしたミステリー、サスペンスの面白さもさることながら、菜月の心理描写や人間関係の描き方も非常に上手い。友人関係の悩み、告白されて心躍る菜月の描写はもちろんのこと、話が本編である文化祭の章に入る前に、菜月の幼少時代のタイムリープの経験が描かれるのですが、これが単なる設定の説明で終わらないのがすごい。 このリープの経験が、菜月の人格形成に大きく影響を及ぼしたことが分かるエピソードとして描かれているので、単なる特殊ミステリの設定説明で終わらず、菜月の内面の変化、成長をめぐる物語の出発点としても機能している。 だからこそこの『金木星と彼女の時間』は、タイムリープを扱った特殊設定ミステリとしてだけでなく、青春小説としてもとても良くできているのです。 何年か前に本格ミステリ大賞にノミネートされた『夏の王国で目覚めない』を読んで、「これは実力のある作家さんだ」と思ったのを覚えています。 近作の『向日葵を手折る』の評判の良さ。そしてこの『金木星と彼女の時間』の完成度の高さに触れ、改めて彩坂美月さんの実力の高さを身をもって感じました。
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