狂気の時代 の商品レビュー
本の雑誌ベスト企画の高野秀行チョイスから。いかにも氏が好きそうな、危険地域への直接潜入リポ。20世紀末まで、インドネシアってこんな荒れまくった国だったんですね。そんな浅い知識の状態から読み始めたんだけど、それでも容易に理解が追い付くくらい、平易な文章で書かれている。かといって薄い...
本の雑誌ベスト企画の高野秀行チョイスから。いかにも氏が好きそうな、危険地域への直接潜入リポ。20世紀末まで、インドネシアってこんな荒れまくった国だったんですね。そんな浅い知識の状態から読み始めたんだけど、それでも容易に理解が追い付くくらい、平易な文章で書かれている。かといって薄い訳では全くなく、むしろ読んでいて疲れを感じるくらい、濃い。それにしても、ここまで繰り返し人肉食が出てくると、何だか感覚が麻痺してくる。21世紀になってからのことだけど、観光でバリを訪ったときには、微塵も危険を感じなかったからな~。表面的な部分をのぞいて回っただけ、だからかもしらんけど。
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1997年から1999年にかけてインドネシアで起きた三つの組織的な暴力事件を伝える。 本書を構成する各三部はそれぞれ異なる事件を扱っている。第一部はボルネオ島における民族紛争で、主にダヤク族がおこなったマドゥーラ族に対しての残忍な虐殺を報じる。第二部では首都ジャカルタに移り、ス...
1997年から1999年にかけてインドネシアで起きた三つの組織的な暴力事件を伝える。 本書を構成する各三部はそれぞれ異なる事件を扱っている。第一部はボルネオ島における民族紛争で、主にダヤク族がおこなったマドゥーラ族に対しての残忍な虐殺を報じる。第二部では首都ジャカルタに移り、スハルト退陣を迫ったトリサクティ大学の学生デモに対して当局が大学生を狙撃・殺害した事件を発端にスハルトが辞任するまでを描く。第三部はスハルト退陣の余波を受けて、東ティモールにおいて行われた独立を決定する住民投票の模様、そしてその後の混乱と民兵による東ティモール住民への虐殺の様子を伝えている。 筆者は20年以上滞在する日本を拠点として活動するイギリス人特派員記者であり、東日本大震災の津波被害を描いた『津波の霊たち』が有名である。本書は筆者のデビュー作にあたる。 第一部と第三部を中心に筆者自身が目撃したり現地の人々からの伝聞による、斬り取られた生首、バラバラの死体、人肉食、死体で遊ぶ子どもたちといった残虐な行為とその痕跡が、さも日常的な行為かのように次々と登場する。そしてその過去を振り返っても、映画『アクト・オブ・キリング』の題材にもなった1965年と1966年にインドネシアで起きた反共産主義者による虐殺や、1975年頃に東ティモール不法占領時におけるインドネシア軍による住民虐殺など、血生臭い史実にこと欠かない。 もっとも生々しく残虐な出来事は第一部に多く描写されているが、臨場感が強いのは第三部の東ティモール独立に際して発生した一連の事件である。それまでのインドネシアでの取材経験と民兵指導者の言葉から、虐殺行為を予知した筆者だったが、その記事が外部の人びとによって信じられることはなかった。事実を伝えることに重きが置かれた筆致にあっても、動乱の渦中にあった筆者の恐怖、屈辱感や無力感が伝わる。虐殺に加担した多くの人びとは、その後咎められることもなく、日常を送っているはずだ。読後に残された悪夢そのものから受けるような印象と、現実の人間の手による事件であるという事実に、折り合いをつけられないままである。
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