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選べなかった命 の商品レビュー

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6件のお客様レビュー

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2022/09/01

これは、ちゃんと読んでみないと分からない本。タイトルとか、内容紹介とかを見ただけでは本質は見えづらい。実際、自分も読了するまでは、本訴訟について少なからぬ違和感を覚えていた。違和感を放置せず、その理由を問い続けないと、なかなか本質に辿り着かない。その当たり前につき、認識を新たにし...

これは、ちゃんと読んでみないと分からない本。タイトルとか、内容紹介とかを見ただけでは本質は見えづらい。実際、自分も読了するまでは、本訴訟について少なからぬ違和感を覚えていた。違和感を放置せず、その理由を問い続けないと、なかなか本質に辿り着かない。その当たり前につき、認識を新たにした次第。そして医療に限らず、常識的な真摯な態度があれば、ここまで大きな問題にはなっていなかったのだろうな、と。

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2022/03/08

昨日に引き続き「小さな命」を考える本です。 出生前診断の誤診によってダウン症の子を出 産した女性が、誤診した医者を訴えた裁判の ルポです。 「では誤診でなければ、中絶を選んだのか?」 と問われると、そうではないと言う。 単純に第三者的な立場で考えてしまうと、ダ ウン症である...

昨日に引き続き「小さな命」を考える本です。 出生前診断の誤診によってダウン症の子を出 産した女性が、誤診した医者を訴えた裁判の ルポです。 「では誤診でなければ、中絶を選んだのか?」 と問われると、そうではないと言う。 単純に第三者的な立場で考えてしまうと、ダ ウン症であると知らされていなかったので、 しなくてもよい苦労や悲しみを背負うことに なった。それを訴えるのだろう、と思えます。 しかし訴えた理由はそんな単純ではありませ ん。 「命とは?」「母親の思いとは?」「生きる とは?」 本当に本当に、人間の根源について考えさせ られる一冊です。

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2021/08/07

出生前診断が優生思想と結びついて語られがちな状況は、日本独特のものであることを知った。母体保護法と名前を変えてはいるが、その前身は優生保護法。母体の保護と経済的理由を中絶の根拠と表向きにはしつつも、実態としては胎児の先天的な障害が中絶の直接的な理由になっている。 NIPTのカウン...

出生前診断が優生思想と結びついて語られがちな状況は、日本独特のものであることを知った。母体保護法と名前を変えてはいるが、その前身は優生保護法。母体の保護と経済的理由を中絶の根拠と表向きにはしつつも、実態としては胎児の先天的な障害が中絶の直接的な理由になっている。 NIPTのカウンセリングまでは受けた当事者として、どうしても読まなければならないと思って読んだ。やっぱり、どこにも答えがない。答えがないのが、答え、という言い古されたフレーズが頭をよぎる。 科学技術の進歩は、人類の身体的あるいは精神的負荷を取り除き、自由の領域拡大を目指してきた。結果、従来、人類に課されていた負荷は軽減された。楽に遠くまで移動でき、労せずして遠方の人と意思疎通でき、大量のデータで記憶力を肩代わりできるようにはなっている。一方で、それまで自然に委ねておけばよかった事柄も、自由意志によって選択できるようになっている。つまりは、取り除くはずだった精神的な負荷は取り除かれず、かえって人類に知的体力をますます要求する結果になっている。 決める、というのは、捨てる、ということと同義だ。道徳律の問題はいつもここにひっかかって堂々巡りする。捨てられない、でも捨てたい、でも捨ててはいけないかもしれないし、捨てなくても大丈夫かもしれない、でもやっぱり捨てないと後々困るかもしれない。 私に言えるのは、人間は変わる、ということだ。 そして、決めるには時間とサポートが必要だということ。 医療者だけではない。子どもをお腹に宿すお母さんたちを取り巻く人たち皆んなが、お母さんと一緒に悩んでくれることが大事なんだと思う。 カウンセリングまで進んで、やっぱり結果がどうあれ産むんだから受けなくていい、と思いとどまった私としては、言えるのはそこまで。 それと、こういう体験を忌憚なく話し合える場もあるといいのかもしれない。

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2021/05/06

河合香織(1974年~)氏は、神戸市外国語大学ロシア学科卒のノンフィクション作家。2004年のデビュー作『セックスボランティア』で注目され、2009年の『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。 本書は2018年に発表され、大宅壮一ノンフィクシ...

河合香織(1974年~)氏は、神戸市外国語大学ロシア学科卒のノンフィクション作家。2004年のデビュー作『セックスボランティア』で注目され、2009年の『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。 本書は2018年に発表され、大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。2021年に文庫化。 本書は、2013年に始まったある裁判を軸に、人(胎児)の命について問うものである。 その裁判とは。。。41歳の母親が、胎児の染色体異常を調べる羊水検査を受けたところ、ダウン症という結果が出たにもかかわらず、医師は誤って異常なしと伝えてしまう。そして、母親が出産した男児はダウン症による肺化膿症や敗血症のために、壮絶な闘病を経て、生後三ヶ月半で亡くなった。両親は医師と医院に対して裁判を起こすが、その裁判は、自分たち夫婦に対する損害賠償だけでなく、子に対する賠償も請求するものであった。両親への賠償には、もし誤診がなかったら、胎児を中絶できたという前提があり、産むか産まないかを自己決定する機会を奪われたことへの賠償を求めるもので、「ロングフルバース(wrongful birth)訴訟」という。一方、子への賠償を求める根拠となるのは「生まれてこない権利」があるという考え方で、子自身を主体とし、誤診がなければ苦痛に満ちた自分の生は回避できたとする訴えで、「ロングフルライフ(wrongful life)訴訟」という。そして、この裁判は、日本で初めてのロングフルライフ訴訟として注目を集めることになったのである。 裁判の結果は、両親への賠償請求を認める一方で、子への賠償請求は却下するものであったが、この裁判が提起した問いは、たったひとつの判決で解決され得るものではなく、その本質は、「誰を殺すべきか。誰を生かすべきか。もしくは誰も殺すべきではないのか。」というものである。そして、私たちの社会では、産むか産まないかという命の選択がこれまで行われてきたし、その選択のための検査は益々進歩し、今も、異常があったら中絶することを前提とした出生前診断を受ける人は増え続けており、その答えは、そう簡単なものではないのだ。。。 読後感としては、自分の立ち位置・考えが定まらず、必ずしも居心地の良いものではない。しかし、著者は「あとがき」でこう語る。「心の中に澱のように沈む割り切れない違和感こそが問題の複雑さであり、核のような気がしてならない。その違和感を放すことなく抱きしめながら、光(原告となった母親)の話に耳を傾けて欲しい。そこから見えてくるのは、命に直面した人間の苦悩であり、愛する子どもを亡くした親の絶望であり、それでも前を向こうともがく生命の剛健な姿である。」 胎児の命、人の命とは何かを考えさせられる、力作といえるノンフィクションである。 (2021年5月了)

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2021/04/26

読み始めた直後は、文章があまり上手くないのだと思った。読みながら、どこに着地するのかが全く想像出来なかったから。 でも読み進むうちに、この本は、これまで自分ごととして考えた事がなく、気づきもしなかったような答えのない何かへの無数の問いかけであり、本を閉じた時にどこかに着地できるよ...

読み始めた直後は、文章があまり上手くないのだと思った。読みながら、どこに着地するのかが全く想像出来なかったから。 でも読み進むうちに、この本は、これまで自分ごととして考えた事がなく、気づきもしなかったような答えのない何かへの無数の問いかけであり、本を閉じた時にどこかに着地できるようなものではないのだと気づいた。 本書は、命の選別についてのみ書かれた本ではなく、私たちの生きる社会全体の矛盾や、マイノリティへの見えない圧力を炙り出したものだ。 善も悪も幸も不幸も、誰も明確な線をひけないものを、私たちは社会を維持するために法律というルールで仕分け続けている。 そこで、法の抜け穴に落ち込んだ者は、あまりにも無力だ。 法治社会とは何の、誰のためのものなのか。 個人の幸福の追求は他者の犠牲がないと、成り立たないものなのか。そもそも他者とはどこからを言うのか。 いつも頭の片隅にありながら、罪悪感とともに見ないふりをした、焦燥感とともに溜め込んできた何かの蓋を開けられたような気がする。 著者が作中で使った「パンドラの箱」という言葉が読後感を端的に言い当てている。 私はただ、考え続ける事しかできない。

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2021/03/18

【生まれたのはダウン症の子だった】母体保護法では障害を理由とした中絶は認められない。誤診で提訴した母親に医院側はそう反論。出生前診断が投げかける重い問題とは。

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