特撮の空 の商品レビュー
2020年12月刊。筆者は、皇紀2600年(1940年)生まれ(だから「二千六(ふちむ)」と名付けられる)、2021年現在も尚、現役の背景画家。その卓越した技量から「雲の神様」と呼ばれる職人が描いた作品の写真、ロングインタビュー、仕事仲間の証言などをまとめた一冊。 筆者は...
2020年12月刊。筆者は、皇紀2600年(1940年)生まれ(だから「二千六(ふちむ)」と名付けられる)、2021年現在も尚、現役の背景画家。その卓越した技量から「雲の神様」と呼ばれる職人が描いた作品の写真、ロングインタビュー、仕事仲間の証言などをまとめた一冊。 筆者は、17歳で独立プロの映画の背景画を担当し、19歳で特撮の神様・円谷英二の配下に。以後,数多くの映画、テレビ、博物館の展示物、イベントを背景画家として支えた。数々の東宝特撮映画、円谷プロのウルトラマンシリーズ、東映のテレビ特撮(『宇宙刑事ギャバン』のアヴァンギャルドなマクー空間も、筆者の手によるものと本書で初めて知り,驚き)などの特撮パートの背景画で、筆者の描いた「空と雲」を目にした人も多いはず。 個人的にはゴジラ映画の一作『怪獣総進撃』の、蒼穹に映える鮮やかな富士山一帯の背景画が特に印象的だ。また特撮作品だけでなく、黒澤明、市川崑、岡本喜八、大林宣彦らの映画の背景画も手がけていたことは、本書で初めて知った。とにかく本書の約半分を占めるロングインタビューが圧巻のボリューム。 まさに日本特撮史の貴重な証言である。 私も、名前だけは知っていた数多くの特撮スタッフたちの人となりを、筆者は正確に覚えていて、その軽妙な語りの中で、彼らが「一人の人間として」生き生きと息づく様は、筆舌に尽くしがたい読み応えである。 特に、筆者の師匠である鈴木福太郎(筆者は、鈴木を決して悪くは言わないが、鈴木の仕事ぶりを知る人々が本書に寄せた証言では、ことごとく「島倉さんの方が、遙かに絵が上手かった」と異口同音に語っているのは爆笑)と『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の特撮美術デザイナーとして名高い成田亨の晩年を、筆者が語った下りは寂寞としていて「諸行無常」を感じざるを得なかった。 また円谷英二を「おやじさん」と今でも慕っていて、撮影の合間に、筆者が英二の肩もみをしたという証言には、胸に暖かい灯がともった。 腕一本で日本映画界を駆け抜けた「職人」の生き様、超絶技巧で描き上げられた「空と雲」の数々を味わい尽くせる珠玉の一冊だ。(終)
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