メッセージ の商品レビュー
トーベ・ヤンソンの文章は、一文が短くて読みやすい。そして読みやすさに乗っていくうちに物語の奥につれていかれる。それは、あたかも浜辺から一艘の小舟を漕ぎ出して、ふと気づくとすでに沖に出てしまっているような心安さと心許なさである。そして、ときおりはさまれる箴言めいたユーモアにニヤリと...
トーベ・ヤンソンの文章は、一文が短くて読みやすい。そして読みやすさに乗っていくうちに物語の奥につれていかれる。それは、あたかも浜辺から一艘の小舟を漕ぎ出して、ふと気づくとすでに沖に出てしまっているような心安さと心許なさである。そして、ときおりはさまれる箴言めいたユーモアにニヤリとさせられて引き返せなくなる。 トーベ・ヤンソンの短い一文のそれぞれは物語をストレートに結末に導くようには並んでいない。それは、あたかも画家が描く油絵の筆致が、一筆一筆、別の方向を向いて凹凸をなしているかのようである。画家の筆致を近づいて見て、下がって距離をとって絵全体を見る。それを繰り返して絵に封じ込められている画家の息遣いを感じる。これもやめられない。 そうやって読んでもらいたい短編集である。お気に入りとなる作品がきっとあると思う。
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ムーミンシリーズの作者、トーベ・ヤンソンの自選短編集。初めに書かれていたように、確かにストーリーが記憶に残る本ではない。でも、北欧のキリッとした冷たい空気、自然の美しい情景、登場人物の抱える孤独や優しさがふわっとしたイメージになっていつまでも余韻に浸れる本だった。ボートとわたし、...
ムーミンシリーズの作者、トーベ・ヤンソンの自選短編集。初めに書かれていたように、確かにストーリーが記憶に残る本ではない。でも、北欧のキリッとした冷たい空気、自然の美しい情景、登場人物の抱える孤独や優しさがふわっとしたイメージになっていつまでも余韻に浸れる本だった。ボートとわたし、コニカと
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ムーミンとは違ったトーベと出会えた。自伝的要素のある作品もあるが、あまりそこを意識しないで読みたい。
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ちょっとズレてて、でもいるかもこんな人…が出てくる話が面白かったな。クスリと笑ってしまう。『ローベット』『夏の子ども』『ある愛の物語』『自然の中の芸術』◎。『夏の子ども』で何度も繰り返される「起きたことは受け入れるしかない」というフレーズを、しかと受け止めるよ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
トーベ・ヤンソンをきちんと知りたいと思い読んだ。 印象に残った作品についてメモ。 芸術に対する極めて真摯な考え方は、青春譚と重ねて描かれ、心を洗われる。 随所に出てくる自分勝手で迷惑な人物たちは、マンガであれば戯画化され滑稽さを楽しめるものの、小説の形式だとおもしろくはあるのだけれどもリアリティというか生々しさを感じた。 海や冬や、それら情景描写は確かに北欧感がある。 *** ■コニコヴァへの手紙 トーベが友人エヴァ・コニコフに宛てた実際の手紙を下敷きにしたとされる作品。 アメリカに旅立ったエヴァに対する主人公からの手紙という形式で描かれる。 芸術について熱く語ること、それを語りぶつける友がいるということが、とてつもなく尊く思えてくる。 物語としては、その友が遠くに行ってしまっているという距離感もおもしろい。 ■ボートと私 十二歳の主人公がペッリンゲ群島一周を試みる話。 海と島と冒険、というテーマがトーベ色の景色として胸に響く。 主人公の年齢設定も絶妙。島に来た異邦人たちへの厳しいまなざしはトーベならではか。 ■卒業式 「幸福」というものの描写。 青春を感じる。 ■ローベット 「己のみに起因する諸事情により、遺憾ながら貴女との知人関係を終了させてもらう」 という手紙を実はクラスメイト全員に足していた級友の話。 こじらせた青春、というよりは、崇高な若者の哲学を感じる。トーベは彼のような人間をきっと賛美している。 ■夏の子ども 「嫌な人物」の描写としてとても参考になる。夏の子どもエーリスの皮肉な感じが生々しく嫌。それにより幸せだった島の家族の平和が脅かされる、という情景描写も。 トムとエーリスが島に取り残される様子はこの上ないピンチ。そのカタルシスを経てのラストシーンは、よい読後感を与えてくれる。 ■ある愛の物語 ヴェネツィアで尻の彫刻に惹かれた夫と、妻の話。いい話。 ■人形の家 老いた家具職人と銀行員(ともに男性)が引退後に同棲する話。 キッチンでミニチュアハウスを作り始め、二人の間に壁ができ、やがて電気職人がやってきてろう家具職人との盛り上がりを見せ、元銀行員の疎外感が非常にスリリングに描かれる。 が、最後には家具職人と元銀行員の信頼で結ばれる。読後感がよかった。 これも芸術の話、芸術を分かることについての話であり、盟友の話でもある。 ■軽い鞄ひとつの旅 男の船旅。自己主張の強く自分勝手な人物の描写がトーベならではか。 ■大旅行 パートナー関係にあると思われるローサとエレーナだが、ローサは母親の存在を怖れ、忖度し、自分では意思決定ができず、それをエレーナは突き放す。 身近なこともあり、非常に腑に落ちる空気感と気持ちの悪さだった。 ■自然の中の芸術 芸術の島の警備員が、すべてを包む芸術を理解する話。 ■リス 孤島に住む女性は明らかにトーベがモデル。それとリスとの関係。 全体に暗さというか、孤独というか、生きづらさを感じた。主人公の統合失調的な自分勝手さは何らかのデフォルメだろうか。 ■コニカとの旅/墓/ウワディスワフ ちょっと小説としてうまく創っている感じはする。 霊的なものの示唆はちょっと直截的で、トーベらしくない気はした。 大芸術家ウワディスワフ氏の自分勝手で迷惑な感じはトーベっぽいか。 ■カーリン、わたしの友達 キリスト教や神が主題。トーベはどのような立場なのか、まだ理解できていない。 トーベ自身は宗教者ではなかったと思うが、しかし宗教的なものに対する何らかの距離というか、感覚があることを感じた。 ■文通 タミコ・アツミという女性からの手紙。 なんとなく迷惑な感じが強い。 ■思い出を借りる女 芸術家を志していた青春時代の同居人の女性に15年ぶりに再会する話。 主人公は名を成したが、彼女はずっとその場所に留まっていて、どうやら精神を病んでしまっている。彼女が思い出をすげ替え、事実を書き変えているさまはホラーだが、それが輝かしかったはずの青春と重ねられることで不気味さを増している。 身近な人も彷彿させた。 ■リヴィエラの旅 母娘の旅の話。 なかなかキャラの濃い母親。 ■絵 絵が認められ、どこか辺鄙な村から、奨学生として都市のアトリエに滞在することを許された主人公と、その父親との対話。芸術もテーマとしつつ、父と息子の対話としておもしろかった。 ■メッセージ トーベが受け取った手紙。どれも自分勝手で迷惑な手紙ばかり。こういうのばかり本当に受け取っていたのか、そういうものを笑い話として蒐集して、苦笑いして載せたのか、どうなのだろう。 本書解説にある通り、芸術家を目指した頃のトーベと、名を成した後のトーベ、という対比としてみるとおもしろさがある。
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