どうする日本の労働政策 の商品レビュー
ゼミの輪読で使用しているテキスト。「日本の労働政策」が15章立てで記述されている。カバーしているテーマは、良いものが多いと思うが、内容が今ひとつ。それぞれの章での問題提起とその問題に対する解決方向の提案、それぞれが今ひとつと感じる章が多かった。 輪読なので、私も担当があり、「第4...
ゼミの輪読で使用しているテキスト。「日本の労働政策」が15章立てで記述されている。カバーしているテーマは、良いものが多いと思うが、内容が今ひとつ。それぞれの章での問題提起とその問題に対する解決方向の提案、それぞれが今ひとつと感じる章が多かった。 輪読なので、私も担当があり、「第4章 人的資源管理」「第12章 地方の若者の仕事に未来はあるのか」を担当した。 「第4章 人的資源管理」は、日本で人手不足が深刻になりつつあり、企業にとっては、人材の引き留め、リテンション・マネジメントが重要な課題になりつつあるとしている。それは、その通りだと思う。 本のテーマである「労働政策」との関係で言えば、「労働移動支援助成金」を取り上げ、これは、政府の政策が「雇用継続から、"退職促進→移動"」へと移行しつつある証左とみなす向きもあり、そうであるならが、リテンションがより重要な課題になると、論を展開している。 「労働移動支援助成金」は、しかし、事業規模の縮小等が支給の要件であり、退職促進というよりも、事業規模が縮小することにより発生する可能性のある、摩擦的労働移動を緩和する策であり、しかも、実際の適用事例はごく限られているものである。そんなことを、大学や大学院の授業で使うテキストの執筆者が知らないわけがないと思う。要するに、「リテンションマネジメントが重要」という自分の主張を補強するために、一般の人は知らない「労働移動支援助成金」等というものを使って、きつい言葉を使って言えば、「人をだまそうとしている」内容だ。内容もさることながら、執筆の姿勢に誠実さが欠けているのではないかと思う。 「第12章 地方の若者の仕事に未来はあるのか」について言えば、「地方の若者の雇用」は、地方の人口減少、自営業の減少、産業のサービス化、雇用の非正規化等により、質的に劣化しつつあると問題提起をしている。これも、問題提起はその通りだと思う。 それに対しての本書提案の対策の一つが、「地域主体の商店街の復活」である。地域住民が参加した商店街の活性化を、福知山市の例をひきながら紹介している。が、この人は地方のシャッター商店街の実態を知らないか、あるいは、意図的に無視していると思う。知らないはずがないので、絶対に意図的に無視しているはずだ。地方の商店街が苦しんでいるのは、商圏人口自体の減少、周囲に大きなショッピングセンターが出来以前とは人流が変わり昔の商店街エリアに人が集まらなくなっていること、等、要するに、商店街での買い物需要・売上自体の減少が大きな原因のはずである。それに手を打たずして、「地域主体の商店街の復活」は、ただの独り言と同じだと感じた。これも、執筆者の誠実さを疑わざるを得ない。 しかし、そういったことを考えさせられた、ということは、授業で使った価値はある(「何かおかしいよね」と気づき、テキストに対して問題提起をし、自分の考えを、発表の中で述べざるを得ない)と思う。そういう使い方をしないのであれば、このテキストは、あまり読む価値はないと思う。
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労働政策というマクロな領域について、さまざまな分野から現在の日本が抱える諸問題に焦点を当てている。今後の日本の労働問題の論点を把握するうえで有益な一冊。
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