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ミドルマーチ(4) の商品レビュー

4.7

6件のお客様レビュー

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2023/04/07

感動のフィナーレをむかえる完結編。濃密な群像劇のなかでジョージ・エリオットが私たちに伝えたものとは何か。 第7部冒頭からリドゲイトの窮状。金銭のトラブルから発生する夫婦喧嘩の描写がリアル。妻に折れざるをえなくなっていく夫の心境の変化が生々しい。 いっぽうフレッドくんたちの三角...

感動のフィナーレをむかえる完結編。濃密な群像劇のなかでジョージ・エリオットが私たちに伝えたものとは何か。 第7部冒頭からリドゲイトの窮状。金銭のトラブルから発生する夫婦喧嘩の描写がリアル。妻に折れざるをえなくなっていく夫の心境の変化が生々しい。 いっぽうフレッドくんたちの三角関係に進展が。誘惑を振り切って紳士の生きざまを貫く牧師の、自らの弱さも強さもすべて打ち明ける潔さ、そしてそこからの恋愛関係の決着に心を打たれた。 お金の相談をしたリドゲイトを冷たくあしらったバルストロードに、ラッフルズが火種を持ち込む。ミドルマーチの良心、ケイレブ・ガースが潔癖な対応をするなか、バルストロードの心に誘惑の魔が忍び寄る。彼の心の葛藤は、「罪と罰」を彷彿とさせる奥深さがあり、ミステリー小説ばりのサスペンスにも引き込まれる。この後の、燎原の火のように噂が広がっていく様子が印象的で、スキャンダルが個人に与える打撃の恐ろしさは、当時も今も変わらないと感じさせた。バルストロードの心変わりでホッとしたのもつかの間、さらなる窮地に陥るリドゲイト。彼らはどうなってしまうのか……!というところで怒涛の第7部終了、クライマックスの8部へ突入する。 第8部にきてドロシアが、少年マンガ終盤の主人公のような感化力を発揮し、正論と情熱で周りを変えていく。いっぽう真実を知ったバルストロード夫人の心理描写が感動的で、人間の心の中で起こっていることをかくも詳細に書けるものかと驚く(この作品全般そうだが)。そして74章のバルストロード夫妻の姿は泣けるとしか言いようがない。こんなに味わい深い小説はまたとない。 八方塞がりのリドゲイトにドロシアの信頼が救いをもたらす一方、ウィルにロマンスを求めるロザモンドが打ちのめされ、4人の感情は四角関係のようにこじれるかに思われたが、ドロシアの気高い決意が絡まった糸をほどいていく。 日常よりもロマンスを求めてしまうという、ロザモンドが結婚というもの自体に抱く不満は、現代においても変わらぬリアリティがある。彼女が結婚というものの現実を受け入れるきっかけとなる、ドロシアとの会話シーンは本書の名シーンのひとつで、これも涙なしでは読めない。ついには諦観に至るリドゲイトの結婚に対する想いも、必ずしもネガティブなものだけではない終わり方が心にしみる。 意外と出番の少ないウィルは、終盤に大きな花火をあげていく。 真実の愛を感じさせる彼の精神力は、恋愛小説としての本作の魅力を引き立てる。 坊っちゃんくささの抜けないフレッドだが、だからこそメアリの力強さと二人の絆の深さが映え、彼もまた成長をみせることで物語のテーマの一つを体現していくことになる。 ほとんどの主要な登場人物と深い関わりを持つバルストロードの存在は、主人公とはいえないものの、具体的な事件や小説そのもののテーマも含めて、構造的に核となっている気がする。彼を軸とした人間関係の複雑なドラマが、ミドルマーチという物語世界を重層的なものにしていると思う。 フィナーレは圧巻。長編ドラマシリーズとか、大河ドラマを見終わったかのような、圧倒的な読後感にひたる。 本書から得られるものはたくさんあり、すべては書き切れそうにないが、テーマ的な結論としてラストの文章について考えてみたい。夢や希望を描いて若き日を出発した私たちは、現実とどう向き合って生きていくべきなのか。本小説には一つの答えが示されているように思う。偉大な英雄的人物にはなれなくても、名を成さない数多くの人々の誠実な人生に世の中は支えられている。それはきっと悪くないものなのだ。 どこか似ているのでアンナ・カレーニナと対比して読んでいたが、巻末の読書ガイドでもこの点について言及していた。トルストイはこの作品に影響を受けた節があり、8部構成というところも似ている。 かつてないほど興奮し、夢中になった本作。あまりに要素が多すぎて、まとまりのない感想になってしまった。「なりたかった自分になるのに、遅すぎるということはない」という名言を残したジョージ・エリオットの世界は、まだまだ探索する余地がありそうだ。

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2023/03/08

心理描写等ジェイン・オースティンから多くの影響を受けているところもあるだろうが,それよりもさらに地域社会の観察に特化した書と言える。人々の変化はそれなりに大きかったが地域としての変化は少ない,と感じたことは覚えておく。訳者については,解説にある「〈分別〉と〈多感〉」という視点が興...

心理描写等ジェイン・オースティンから多くの影響を受けているところもあるだろうが,それよりもさらに地域社会の観察に特化した書と言える。人々の変化はそれなりに大きかったが地域としての変化は少ない,と感じたことは覚えておく。訳者については,解説にある「〈分別〉と〈多感〉」という視点が興味深い。

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2022/12/20

最高だった。カソーボン氏が死ぬ際、「ドロシアとラディスローが再婚した場合、財産を残さない」と遺言を残したのは、ラディスローがドロシアにふさわしい人間になろうと自分を磨くためにドロシアのもとを離れるのが、カソーボン氏の財産なしで自分の能力だけでドロシアを養うための準備になっていると...

最高だった。カソーボン氏が死ぬ際、「ドロシアとラディスローが再婚した場合、財産を残さない」と遺言を残したのは、ラディスローがドロシアにふさわしい人間になろうと自分を磨くためにドロシアのもとを離れるのが、カソーボン氏の財産なしで自分の能力だけでドロシアを養うための準備になっていると考えると、伏線だったのかなぁと思う。 「それがあなたにとって新たな苦労なのでしたら、私があなたから離れられない理由がまた一つ増えることになります」 このフレーズを見たときにグッときました。エリオットってこんな恋愛物語書くのかと感動しました。

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2022/03/11

ついに完結感無量。 類まれなる心理描写、些細な事実の積み重ね、善意と好奇心がもたらす予期せぬ出来事などミドルマーチは4巻になってざわめく。でも落ち着くところに落ち着いたのでは。フィナーレでホッとしました。 「私たちにとって物事が思ったほど悪くないのは、人知れず誠実に生き、誰も訪...

ついに完結感無量。 類まれなる心理描写、些細な事実の積み重ね、善意と好奇心がもたらす予期せぬ出来事などミドルマーチは4巻になってざわめく。でも落ち着くところに落ち着いたのでは。フィナーレでホッとしました。 「私たちにとって物事が思ったほど悪くないのは、人知れず誠実に生き、誰も訪れることのない墓に眠る、数多くの人々のおかげでもあるからだ。」

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2021/07/12

 銀行家バルストロードの前に、彼の過去の秘密を知る無頼漢ラッフルズが現れ、前巻では、バルストロードの回想の形で読者にもその秘密が明らかにされ、登場人物ウィル・ラディスローとの関わりも明らかになった。    ラッフルズに金をせびられ、気が気ではないバルストロードであったが、ラディ...

 銀行家バルストロードの前に、彼の過去の秘密を知る無頼漢ラッフルズが現れ、前巻では、バルストロードの回想の形で読者にもその秘密が明らかにされ、登場人物ウィル・ラディスローとの関わりも明らかになった。    ラッフルズに金をせびられ、気が気ではないバルストロードであったが、ラディスローが突然倒れ、彼の元に運び込まれたことから、医師リドゲイトに治療を頼むことに。看護を任されたバルストロードだったが、適正を欠いた看護もあり、ラッフルズは亡くなってしまった。  また、診療を依頼されたリドゲイトだったが、一旦はバルストロードに断られた借金を受けてもらえることになり、当面生活が立ち行くことになった。  秘密が守られたかと思いきや、生前のラッフルズの自慢語りが次から次へと噂となって伝わり、遂にバルストロードはミドルマーチにおける地位を追われてしまう。また、リドゲイトがバルストロードから受け取った金は賄賂だったのではないかと疑われてしまう。   ここまでが第7部。  町の噂に押しひしがれるリドゲイトに対して、ドロシアは支援の手を差し伸べようと彼と話をする。自分のことを信じてくれる人がいることを知ったリドゲイト。そしてドロシアはリドゲイトの妻ロザモンドを訪ねたところ、そこにはウィルがいた。再び出会った二人。  そこから二人は。  フィナーレとして、登場人物それぞれの人生が簡潔に紹介される。こうして、全8部の大長編小説は幕を閉じる。   リドゲイトとロザモンドの夫婦関係、バルストロードの自分本位の信仰心などは作者の筆の冴えが感じられた。それに比べると、ドロシアとウィルの繋がりがもう一つ納得できなかったのが、全体を通しての感想。  主要登場人物のほか、脇筋的人物も魅力的だし、人物の心理や人間関係の機微がたっぷりと描かれている。また、当時のイギリス社会の状況、例えば政治や新聞、医学などについても、ストーリー展開の中でうまく取り上げられている。  非常に読み応えがあって、小説読みの醍醐味を堪能できた。      

Posted byブクログ

2021/05/14

最後の文章に感動を禁じ得ない。 「世の中がだんだん良くなっていくのは、一部には、歴史に残らない行為によるものだからである。そして、私たちにとって物事が思ったほど悪くないのは、人知れず誠実に生き、誰も訪れるこのない墓に眠る、数多くの人びとのおかげでもあるからだ」 中産階級の女性に...

最後の文章に感動を禁じ得ない。 「世の中がだんだん良くなっていくのは、一部には、歴史に残らない行為によるものだからである。そして、私たちにとって物事が思ったほど悪くないのは、人知れず誠実に生き、誰も訪れるこのない墓に眠る、数多くの人びとのおかげでもあるからだ」 中産階級の女性に光を当てた本作の独創性はいくら強調してもし過ぎることはない。 心根がよいところに、最後は派手ではないが、一つの幸福が訪れることを伝えてくれる。傑作だ。

Posted byブクログ