最も期待された皇族東久邇宮 の商品レビュー
敗戦直後に皇族として初めて首相となったことで知られ、戦前、皇族の中でもっとも期待された人物であった東久邇宮稔彦王について、その誕生から、陸軍少将として満州事変に関わる1931年までの44年余りの前半生を、倉富勇三郎日記等を用いて実証的に描出している。 そして、一般的にリベラルな気...
敗戦直後に皇族として初めて首相となったことで知られ、戦前、皇族の中でもっとも期待された人物であった東久邇宮稔彦王について、その誕生から、陸軍少将として満州事変に関わる1931年までの44年余りの前半生を、倉富勇三郎日記等を用いて実証的に描出している。 そして、一般的にリベラルな気骨ある人物と評価されている東久邇宮であるが、実態は大きく異なり、皇族の特権に伴う責任を自覚しておらず、身を律した行動を取る意識に欠けており、皇族としての拘束への不平不満のみを強く感じながら、甘えた人生を送っていたことを明らかにしている。 著者の東久邇宮への評価は厳しすぎるような気もするが、実際、東久邇宮が心根が弱く、流されやすい〝甘ちゃん”な性格であることは、本書で詳細に述べられているフランス留学からの帰国問題や臣籍降下問題、満州事変への関わりなどを見ると、明らかであるように思われる。本書から得た示唆として、皇族も生身の人間であり困った人格の皇族も現れ得るということ、また、特権を有する皇族であるが故に性格が歪む場合もあり得るということがあり、女性宮家の創設や旧皇族家の皇籍復帰の検討など、現代の皇族制度を考える上でもこれらの点は留意すべきことであると感じた。 本論とは少し離れるが、本書におけるキーパーソンの一人である枢密院議長などを務め、東久邇宮家の宮務監督事務取扱であった倉富勇三郎の、原則を踏まえ筋の通った、しかも柔軟な対応をし調整能力を発揮した優れた実務家としての姿には感銘を覚えた。倉富の権力の源泉の一つは制度や慣行に詳しいことだとの指摘もされており、自身の仕事においても参考にしたいと思った。 本書は、東久邇宮の前半生だけで400頁を超える大作であり、現代への示唆にも富む好著だと思うが、東久邇宮の帰国問題や臣籍降下問題といったある意味つまらない問題における各方面のやりとりなどについて延々と述べられているものであり、正直、読み物としてはあまり面白くなく、読み通すのは結構たいへんだった。
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