長く高い壁 の商品レビュー
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『長く高い壁』(浅田次郎著)は、戦争という極限の現実を背景に、人間という存在の尊厳と愚かさ、そのどちらもを静かに照らし出す傑作である。物語の舞台は1938年、中国北部の前線。国家の名のもとに動かされる兵士たち、そしてその中で起こる一件の“不可解な死”。浅田次郎は、この謎を糸口に、戦場という場所がいかに人の心を侵食し、同時に人間の本質を露わにしていくかを見事に描き出している。 本作の魅力は、単なるミステリーの枠を超えている点にある。真実を追う物語でありながら、読者が辿るのは「事件の解決」ではなく「人間の理解」へと至る道である。そこには、善悪の単純な区別を拒む、深い人間観が息づいている。軍隊という組織の中で、個の意志が押しつぶされ、理性と信念がせめぎ合う姿は、戦争文学でありながらも現代社会にも通じる普遍性を帯びている。 そして、浅田次郎特有の筆致――冷徹でありながらも、最後に必ず人の温もりを残す文章が、この作品をただの悲劇に終わらせない。 「長く高い壁」とは、国家と個人の間に立ちはだかる壁であり、人の心が越えようとしながらも越えきれぬ壁でもある。読後には、重くも澄んだ静寂が胸に残り、人間という存在の奥行きを改めて思い知らされる。
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1938年、中国へ進軍していた日本軍の一部小隊で、兵士10名が死亡する事件が発生する。調査のために現地を訪れたのは、探偵小説作家と日本軍の中尉。彼らは生き残った兵士や、中国人の医者、料理屋の主人など、事件に関わる可能性のある人物たちへ次々とインタビューを行い、真相を追っていく。 物語は一見するとミステリー小説のような雰囲気で進むが、結末に至ると「推理劇」というよりも、むしろ戦争そのものが人を狂わせていく過程が描かれていたのだと気づかされる。 読後には「なるほどね」と言いたくなるような、少し掴みどころのない感覚が残る。ただ、それは決して悪い意味ではなく、不思議と納得感を伴う余韻として残る読書体験だった。
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ミステリと歴史の融合 歴史部分が面白すぎて 謎がどうでもよくなる この作者 埃っぽい貧困を描くのが本当にうまい
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R5.12.16~12.30 (きっかけ) 奥さんが買ってきた (感想) タイトルと表紙絵をみて、日中戦争モノか。 と思って読めば…日中戦争を舞台としたミステリー風という挑戦的な一作でした。 ただ、昨今の浅田さんの作品の感想にはいつも書いている気がしますが、設定は面白いだけに...
R5.12.16~12.30 (きっかけ) 奥さんが買ってきた (感想) タイトルと表紙絵をみて、日中戦争モノか。 と思って読めば…日中戦争を舞台としたミステリー風という挑戦的な一作でした。 ただ、昨今の浅田さんの作品の感想にはいつも書いている気がしますが、設定は面白いだけに、ちょっと「これどうだ、面白いだろう?」みたいな押しつけがましさを感じるのは私だけでしょうか。 個人的にはミステリ風にせずにそのままのストーリーでドラマ仕立てにしてもいいのかなと思いました。
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日中戦争の最中、従軍作家として北京にいた流行探偵作家の小柳逸馬は、突然の要請で前線へ向かうことに。万里の長城、張飛嶺で待っていたのは、分隊10名全員死亡という大事件だった。
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語彙がムズ過ぎる。 夏休みの読書感想文でこの本を選んだけど、高校生の自分には早すぎる本だと感じた。、以上
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浅田次郎の中で書きたい核のところがあったのだろうが、そこまで理解ができなかった。 解説を読みたいな。
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日中戦争のさ中、万里の長城・張飛嶺でみつかった10名の兵士たちの死体。これは戦死ではなく殺人。やがて明らかになる真実に、作者が描いたものはトリックではなく、嘘で塗り固められた戦争の姿だと気づきました。
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2021年11月20日(土)にジュンク堂書店 三宮駅前店で購入。11月22日(月)に読み始め、24日(水)に読み終える。 浅田次郎の作品を読むのは、『壬生義士伝』『地下鉄に乗って』に次いで3作目(だと思う)。泣かせるような話ではなかったけど、とてもよかった。 何かに関わるとか、その原因になるとはどういうことなのか、特に最後の部分で考えさせられる。 涮羊肉(シュワンヤンロウ)を食べたくなる。 59ページに「長く高い壁である。」 244ページに秋口に採れたきのこもまだたっぷりとありますと。 【以下、再読記録】 2025年1月22日(水)に再読を始め、2月24日(月・祝)に読み終える。2月24日の第54回文学カフェのため。1回目に読んだときほどの衝撃はなく、星3つとしたけど、いい作品。 2・26事件(1936年2月26日)が物語の背景にあって、2月24日に文学カフェでこの作品について話ができたのには、なかなか感慨深いものがあった。 22章と24章の視点はほかの章と比べてやや特異。賛否両論あろうかと思う。 老陳を山村大尉が殺したことについては、どうしてもしっくりこないところ。 ■1938年当時における軍隊の階級(巻頭より) ===将校ここから=== 将官 大将、中将、少将 佐官 大佐、中佐、少佐 尉官 大尉、中尉、少尉 ===将校ここまで=== 准士官 准尉 下士官 曹長、軍曹、伍長 兵卒 上等兵、一等兵、二等兵 ■旧制の教育制度 1938年当時の義務教育は尋常小学校(6年)まで。尋常小学校を卒業したあと高等小学校(2年)に進学して就職するか、尋常小学校のあと旧制中学校(5年)に進学して就職する。旧制中学卒業は当時としてはエリートだが(本作で言えば山村大尉)、さらに旧制高校(3年)に進学して帝国大学(4年)を卒業するのは成績上位0.5%ほどで、トップエリート(本作で言えば川津中尉)。 ちなみに、川津中尉は高文試験(高等文官試験)に落第し、出版社の入社試験も通らず(18頁)、甲幹の将校(33頁)という設定。小柳逸馬は高等小学校卒(271頁)で小説家になったという設定。 ■軍隊組織 大隊、中隊、小隊(3分隊で30人)、分隊(10人) ■時代背景 最初に「1938年当時における軍隊の階級」が付されていることや、「つい先ごろ、支那の戦線にある下士官が、みごと芥川賞を受賞したという事実も」(20頁)という記述から(これは1937年下半期の火野葦平『糞尿譚』と思われる)時代背景は1938年のことだろう、と思って読み進めると、事件は本文の記述から1938年11月初旬のことだとわかる(298頁)。事件の時点で10月27日に武漢が陥落したという情報を山村は得ている(311頁)。 当時の貨幣価値について、ChatGPT o1に1938年当時の1円が現在(2020年代で計算しているもよう)の貨幣価値でどれぐらいになるのか推測させたところ、CPIを基にした推計で数百円~数千円程度、賃金水準を基にした推計で1円あたり3,000円前後になるケースが多いとのことだった。 ■舞台 北京と司馬台長城(作中では長城の張飛嶺という架空の場所) ■内容 50頁、高粱飯(コーリャンめし)を食ってみたいな。 山村大尉も支那語ができるところがミソだろうか、と思っていたら182頁で尋問のあとに山村大尉がめしを食いに行く(と描写されている)場面があり、示唆的。 234頁、涮羊肉(シュアンヤンロウ/シュワンヤンロウ) ところで、津山30人殺しも1938年に起きた事件。犯人の都井睦雄は、1937年5月22日に徴兵検査で丙種合格になったことがきっかけで人間関係がこじれていき、1938年5月21日未明に事件を起こしている。
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日中戦争を舞台としたミステリー。従軍作家として北京に滞在していた売れっ子推理作家に下されたのは万里の長城で起きた事件の調査。 関係者への聞き込みを進める際に、それぞれの軍関係者の一人称視点で語られる。事件の解き明かし自体は大したことはなく、事件の真相も安直すぎる。 ただし、大...
日中戦争を舞台としたミステリー。従軍作家として北京に滞在していた売れっ子推理作家に下されたのは万里の長城で起きた事件の調査。 関係者への聞き込みを進める際に、それぞれの軍関係者の一人称視点で語られる。事件の解き明かし自体は大したことはなく、事件の真相も安直すぎる。 ただし、大正の軍縮時代と昭和初期に入ってからの大陸での戦争遂行状態で兵役というものが全く異なっていたこと、それに伴って世代によって兵隊の資質が異なっていたことを知れたのは収穫。 また、士官学校出身の将校と、兵卒からのたたき上げの下士官の関係性を描いた作品は数あれど、最初の兵役満了後に一般社会人として生活をしたあと、予備役招集で再び大陸に送られた当時の日本人男性たちの姿の描写はリアルだった。このまま坂を転がり落ちるように太平洋戦争が始まり何百万人もの普通の男たちが戦争に絡め取られていく未来があったことが悲しい。 一方で、日本軍、国民党軍、共産党軍が群雄割拠している状況にあっても中国の来週、それも食生活が豊かであったという描写は興味深い。
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