カール・シュミットと国家学の黄昏 の商品レビュー
カール・シュミットのヴァイマル共和国初期からナチス政権誕生前夜に至るまでの時期の理論的営為を、新たな国家学の探求とその挫折という観点から再構成する研究。本書全体を通してみれば、シュミットの理論形成の出発点は、イェリネックを典型とする19世紀的「一般国家学」への批判にあった。そのた...
カール・シュミットのヴァイマル共和国初期からナチス政権誕生前夜に至るまでの時期の理論的営為を、新たな国家学の探求とその挫折という観点から再構成する研究。本書全体を通してみれば、シュミットの理論形成の出発点は、イェリネックを典型とする19世紀的「一般国家学」への批判にあった。そのための鍵となるのが憲法制定権力、決断、代表という良く知られた概念だった。とはいえシュミットはその後完全に19世紀の思想伝統と決別するのではなく、自由主義と民主主義を理論的には峻別しつつも直接民主主義には必ずしも与せずに自由主義的な均衡の発想にこだわり、国家学ではない憲法学の構築に方向転換しながらも静態的秩序としての国家にこだわり、それを中立国家論や経済自治論といったかたちで変奏しながら、あくまで政治的決断を下せる堅固な審級としての国家に、ナチス政権誕生前夜までこだわり続けた。同時代の法的・政治的現実に旧来の国家学が対応できていないことを辛辣に批判しながらも、実は自身もそうした現実に抗し現実を批判するような概念や理論を構築し続けたという意味で、シュミットの営為は「苦闘」と称されるに相応しいと思わせられる内容である。
Posted by
- 1