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華麗なる最初の事件 の商品レビュー

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2020/12/25

申し訳ない、侮っていた。 男爵のお嬢さんが、イギリスの上流社会で探偵ごっこをして、宝石泥棒くらいの事件を捜査する。 なぜか現れ助けてくれる男性たち。 みんなが好意を寄せてくれるけど、さあ誰とつきあったらいいかしら? とかいう話だと想像していた。 ちがった。 しかし、こんなかわい...

申し訳ない、侮っていた。 男爵のお嬢さんが、イギリスの上流社会で探偵ごっこをして、宝石泥棒くらいの事件を捜査する。 なぜか現れ助けてくれる男性たち。 みんなが好意を寄せてくれるけど、さあ誰とつきあったらいいかしら? とかいう話だと想像していた。 ちがった。 しかし、こんなかわいい表紙なのだから、誤解も仕方ないではないか! フライニー・フィッシャーがイギリスの男爵令嬢なのは本当だ。 ボブカットで、奔放で、煙草を吸いまくり、ダンスが巧く、ファッションのセンスは飛び抜けていて、車をかっ飛ばし、飛行機は冒険の友で―― つまりは、素晴しくフラッパー(はねっかえり)だとしてもだ。 宝石泥棒の事件はあった。 冒頭ですぐさま解決した。 そして彼女はオーストラリア、メルボルンへと向かうのだ。 一探偵として! 出くわす事件は、なかなかむごいものだった。 痛い。痛覚を刺激されて、読むたびに痛い。 こんなにかわいい表紙からは思いもつかない事件だ。 では、助け手となる男性たちは出てくるのだろうか? 出てくる。 彼らは、しかし、乙女を危機から救わんとする騎士ではなく、恋心につき動かされた紳士でもない。 仕事はする。そして料金はちゃんと貰うという、至ってビジネス的な男どもだ。 対するフライニーもそれをよしとしている。 なぜなら彼女はプロだからだ。 プロはただ働きをしない、させない。 探偵業だけではない。 フライニーは、私的な面で人を雇う時も、雇用条件とそれに見合う対価を正しく提示する。 1920年代というのに、なんとも頼もしい、しっかりした御令嬢だ。 実は、オーストラリアはフライニーの生まれ育った故郷である。 イギリスの男爵令嬢が、なぜ? その経緯は、作中で彼女が語ってくれる。 なるほど、フライニーが、こんなにもたくましく世慣れていることの理由にもなっている。 フラッパー中のフラッパーな彼女は、どんなにむごい事件も、えげつない事件も、喜々として取り組み、挑戦して、解決する。 この『華麗なる最初の事件』は、その調査の間に、シリーズのレギュラー陣がそろっていく話でもある。 読後感は、こんな事件の話だったのに、よい。 フライニーの活躍ぶりもめざましく、なるほど人気テレビシリーズになり、映画にもなったのがうなずける。 さらに、私が気に入った点は、実在の人物がさらりと、しかし印象的に登場することだ。 エルテ(1892~1990)はファッションやジュエリー、舞台美術などの様々な分野で世界を魅了したデザイナーである。 彼の作品を見れば、たいていの人が、ああ、あの! と、思いあたるのではないか。 エルテその人は出てこないが、彼のデザインした服は仰々しく現れる。 『完璧にフォーマルで、きわめてエロティックなドレスで、フライニーはどうしても自分のものにしなければならないと感じた。』(92頁) そして、フライニーはそのドレスをまとい、胸を高鳴らせて、パーティー中の目を集めてタンゴを踊るのだ。 ネリー・メルバ(1861~1931) オーストラリア出身で初めて、世界的名声を得たソプラノ歌手である。 メルバトーストもピーチメルバも、ロンドンのサヴォイ・ホテルの料理長が、彼女のためにとつくったものだ。 その人気と名声のほどがうかがえる。 プッチーニのオペラ《ラ・ボエーム》の普及に大いに貢献した人物でもある。 だから、マダム・メルバは、その曲を第一に歌ったのだろう。 『純粋でつやのある声は朗々と響き、ひとつひとつの言葉が注意深く発音され、慎重に音程に乗せられた。だがフライニーがもっとも気に入ったのは、彼女がすべての音にこめた感情の豊かさだった。』 (243頁) 彼らの登場によって、フライニーの活躍の舞台が――そのファッション、空気、音、文化が、ありありと目に浮かぶ。 シリーズの続きにも、こういった登場があると嬉しい。 令嬢探偵フライニー・フィッシャーと、魅力的な仲間たちの次なる活躍を、大いに楽しみにしている。

Posted byブクログ