事件の予兆 文芸ミステリ短篇集 の商品レビュー
なんとなく不穏な空気が流れる 井上靖『驟雨』、吉田知子『彼岸窯』 大庭みな子『冬の林』 犯罪が隠れていたのかもしれない 大岡昇平『春の夜の出来事』 小沼丹『断崖』、田中小実昌『ドラム缶の死体』 怪奇譚のような味わいの 山川方夫『博士の目』 遠藤周作『生きていた死者』 オチが...
なんとなく不穏な空気が流れる 井上靖『驟雨』、吉田知子『彼岸窯』 大庭みな子『冬の林』 犯罪が隠れていたのかもしれない 大岡昇平『春の夜の出来事』 小沼丹『断崖』、田中小実昌『ドラム缶の死体』 怪奇譚のような味わいの 山川方夫『博士の目』 遠藤周作『生きていた死者』 オチがどうも不気味な 野呂邦暢『剃刀』、野坂昭如『上手な使い方』 波長が合うのも合わないのもあり。 そこがアンソロジーのよいところだわ。
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この本に収録されている作品は、陰惨な事件や複雑な謎に名探偵/刑事が挑む、という我々がよく思い浮かべる型のミステリーには当てはまらない。 探偵役が活躍せず、発生した事件や謎が解決されるわけでもなく、そもそもミステリー作品たり得るか怪しいくらいミステリー要素が少なかったり……。「ミステリーの基準って、何だっけ?」と思わずにいられない、かなり独特なアンソロジーだった。
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文芸ミステリアンソロジーミステリではあるけれど、事件が起こって犯人が判明して事件が解決、というようなことはありません。まさしく事件の予兆、というか雰囲気だけのようなことも。だけれど趣深い作品が多いです。 お気に入りは野呂邦暢「剃刀」。短いし、事件について明らかにされている部分も少...
文芸ミステリアンソロジーミステリではあるけれど、事件が起こって犯人が判明して事件が解決、というようなことはありません。まさしく事件の予兆、というか雰囲気だけのようなことも。だけれど趣深い作品が多いです。 お気に入りは野呂邦暢「剃刀」。短いし、事件について明らかにされている部分も少ないけれど。それでも、というかだからこそ、というか、まつわりつく不気味な雰囲気は逸品です。とんでもなく恐ろしい作品。 大岡昇平「春の夜の出来事」、野坂昭如「上手な使い方」は、オチまで読んできっちり解明、納得できるミステリだと言えるかも。ブラックな読み心地も好みです。
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文庫雑食性。 しかし文庫の好みというかカラーというものが確かにあって。 中高生のころは主に新潮文庫。 大学生から20代は講談社文庫や創元文庫ハヤカワ文庫。 30代でちくま文庫・河出文庫・岩波文庫のお世話になり。 30代後半になって今後ついていくべきは中公文庫かと思い始めている。 一言でいえば「渋い」。言い換えれば「わかっている、いい企画」。 本書では全作品が一定水準以上だが、吉田知子が一歩抜きんでていた。 ■驟雨 井上靖 ……妖しい中年女性への思慕。 ■春の夜の出来事 大岡昇平 ……芥川龍之介「藪の中」式の。ラスト一文が効いている。 ■断崖 小沼丹 ……いかにもミステリ的決着があるが、仄めかされる程度。その匙加減。 ■博士の目 山川方夫 ……人嫌いの人生観が、絶妙な具体例をもって描かれる。先日聞いたラジオドラマのJ・G・バラード「ヴィーナスの狩人」を思い出した。 ■生きていた死者 遠藤周作 ……当時から芥川賞はショーになっていたのか、と綿谷金原ショック世代の私はびっくりした。 ■剃刀 野呂邦暢 ……つげ義春的風情かと思いきや。語り手のヤバさが浮き上がってくるのは文体の巧みさか。 ■彼岸窯 吉田知子★ ……これは凄い。時間軸がグラグラ動き、結果的には喜作という芸術家の一代記にもなっている。さらに日本史との接続も行われ、凄みを増す。やはり吉田知子は今後追わねば。 ■上手な使い方 野坂昭如 ……「骨蛾身峠死人葛」にちょっとだけ通じる、デモーニッシュな語り。野坂昭如もまた、今後追わなければならない作家だ。 ■冬の林 大庭みな子 ……やや理に落ちすぎる感じあり。 ■ドラム缶の死体 田中小実昌 ……小説なんだか随想なんだかという書きぶりが、この作者の持ち味なんだろう。 ■堀江敏幸 解説 それこそどうってことはない言葉をめぐって ……この解説が、かなりいい。巧みな読み手の解説を読むと、いい先達に出会えた嬉しさでいっぱいになる。
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驟雨/井上靖★★★★ 春の夜の出来事/大岡昇平★★★★ 断崖/小沼丹★★★ 博士の目/山川方夫★★ 生きていた死者/遠藤周作★★★★ 剃刀/野呂邦暢★★★ 彼岸窯/吉田知子★★★ 上手な使い方/野坂昭如★★ 冬の林/大庭みな子★★★ ドラム缶の死体★
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大岡昇平、小沼丹から野坂昭如、田中小実昌まで。非ミステリ作家による知られざる上質なミステリ十編を一冊にした異色のアンソロジー。〈解説〉堀江敏幸
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ノン・ジャンル作家による広義のミステリ作品を集めたアンソロジー。あくまで「広義の」であって、福永武彦がパズラーに挑戦した「加田伶太郎全集」のようなものを期待すると当てが外れる。いちばん適切な呼び方をするなら「奇妙な味」だろうか。スタインベックの「蛇」を例に挙げるまでもなく、ノン・...
ノン・ジャンル作家による広義のミステリ作品を集めたアンソロジー。あくまで「広義の」であって、福永武彦がパズラーに挑戦した「加田伶太郎全集」のようなものを期待すると当てが外れる。いちばん適切な呼び方をするなら「奇妙な味」だろうか。スタインベックの「蛇」を例に挙げるまでもなく、ノン・ジャンル作家のホラーやミステリのつもりで書かれたのではない作品の中に、このタイプの名作はけっこう埋もれてるんだな、と思う。
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文芸ミステリ短篇集との副題であるが、本書に納められた各編は、いわゆる謎解きを主眼としたものではない。人間と人間の織りなす関係の中で現れてくる出来事や事件がどういうことだったのか、こう見えたけれど、本当にそうだったのだろうかといった、読み手に疑い・迷いを残したままとする作品が並ん...
文芸ミステリ短篇集との副題であるが、本書に納められた各編は、いわゆる謎解きを主眼としたものではない。人間と人間の織りなす関係の中で現れてくる出来事や事件がどういうことだったのか、こう見えたけれど、本当にそうだったのだろうかといった、読み手に疑い・迷いを残したままとする作品が並んでいる。 芥川の「藪の中」を思わせる、語り手の語りによって見方が二転、三転する技法が用いられた作品、かなりの思わせ振りな書き方をしつつも最終的な解釈は読者に委ねてしまう作品など、短篇ならではの妙技を味わうことができる。 吉田知子を除けば、何作か読んだことがある作家たちなのだが、未読の作品をこのような括りで読むことができて、また新たな発見ができた。 各作品、それぞれ面白いが、年上の女性を愛慕する思春期の少年の揺れ動く心理を鮮やかに描いた井上靖「驟雨」、読み進めるにつれて正常と異常の狭間が分からなくなってくる山川方夫「博士の目」、鄙びた田舎町の理容店を舞台に、徐々に恐怖が増してくる野呂邦暢「剃刀」、母の子に対する感情は一体どういうものなのだろうと思わせつつ、饒舌と諧謔の文章でラストまで引っ張っていく野坂昭如「上手な使い方」、妻であり、母である女性の死に関して、過去と現在の男女関係が二重写しとなって謎を深める構成が巧い大庭みな子「冬の林」などが、特に印象深かった。
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