悪友 の商品レビュー
『推し短歌入門』を読んだあとなので、いくつかの歌は誰をモデルに読んでいるのか知っている。それでもまた別の"推し"がよぎり、彼の人たちの関係に思いを巡らせた。 特定の人物を描いても、三十一文字に詰め込むことで余白が増えて想像の余地が生まれることが短歌の魅力である...
『推し短歌入門』を読んだあとなので、いくつかの歌は誰をモデルに読んでいるのか知っている。それでもまた別の"推し"がよぎり、彼の人たちの関係に思いを巡らせた。 特定の人物を描いても、三十一文字に詰め込むことで余白が増えて想像の余地が生まれることが短歌の魅力であるように思える。知らない人の話でも、情景が限られるからか知ってる人のような気がしてくる。素敵な作品でした。
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「悪友」とはどんな関係だろうか。 新明解国語辞典くんによると、 ‘’相手を悪い方に誘い込む、好ましくない友達。(反語的に、親友を指すこともある)←→良友‘’ と説明されている。 「そうだ、作ろう」と思って作れるものではないだろう。 どうしても、そうなってしまった、というようなある...
「悪友」とはどんな関係だろうか。 新明解国語辞典くんによると、 ‘’相手を悪い方に誘い込む、好ましくない友達。(反語的に、親友を指すこともある)←→良友‘’ と説明されている。 「そうだ、作ろう」と思って作れるものではないだろう。 どうしても、そうなってしまった、というようなある種くされ縁的なもの。 それは、意識的に作る恋人よりも、エロい気がする。(個人の意見です) [イヤホンを耳から抜いて葉桜の下でちいさく名前を呼んだ]『悪友』 この歌は一読してそのエロさに慄いた。 私が女子中学生だったら、「えろい、えろい」とクラス中の同級生に推しまくって、めっちゃウザがられたい。 [欲しがってくださいあらゆる避雷針抜けて轟くような祝いを]『猫はどこに行く』 この歌には胸を突かれて泣きそうになった。 ああ、欲しがってもいいんだ、と、欲しがることを許された気がした。 他にも、 [機内食のプリンの完成度の高さ 高尚でもなくても生きようよ]『いつかの冬』 「束の間の寿命がのびる 有線にあなたが諳んじた春の歌」『飛び級』 [もたれていたガードレールの粉はらい白夜みたいに笑ってくれた]『はためく』 [洪水のあとの世界で鳥であるきみに摘まれるオリーブがいい]『はためく』 [そうか、紙吹雪のなかに宝くじあなたが混ぜてくれたのだった]『20ゼーロを賭けて 漫画・アニメ‘血界戦線’より』 [雨後にある歩道橋へと陽が射してあれは夏の門ともみえて]『はためく』 [降車してすぐに電話をくれたってわかるよ 生きることが私信だ]『悪友』 [アクションを観る才能がない同士わからないとき笑ってしまう]『生前』 好きな歌が多くて選びきれない。 榊原さんはオタクを自称していて、この歌集にも推しに捧げる短歌“推し短歌”が何連作か選ばれている。 その名も『推し短歌入門』というタイトルの短歌入門書も今秋出版。 すうっと軸が通ったガラスペンのような繊細さとうつくしさ。 それでいてオトコマエな歌集だと思った。 印象的な装画はハタ屋さんという方。 腕のスジと顎から首のラインがいい。
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「ローソンが潰れてできた大きめのローソン 性善説を信じる」(32頁) 神の見えざる手が働く市場の性善説を信じたくなる出来事である。日本では市場原理を敵視する公務員的管理主義の発想が根強い。店舗の新規出店を市場原理に委ねると、チェーン店が個人経営の店舗を駆逐する一方、チェーン店は採...
「ローソンが潰れてできた大きめのローソン 性善説を信じる」(32頁) 神の見えざる手が働く市場の性善説を信じたくなる出来事である。日本では市場原理を敵視する公務員的管理主義の発想が根強い。店舗の新規出店を市場原理に委ねると、チェーン店が個人経営の店舗を駆逐する一方、チェーン店は採算が取れなくなれば簡単に撤退してしまい、住民は買い物難民になるとする類の見解である。 しかし、市場原理は需要があれば需要に応えるものである。むしろ、公務員的な管理主義は需要ではなく現状の供給から逆算して考えがちである。病院のキャパシティがオーバーするから、入院をさせずに自宅療養でしのいでもらうというような。 一方で本書は海外旅行という非日常を詠んだ短歌もある。日本文学独特の表現形式の短歌と海外の組み合わせには妙味がある。西行のように旅と和歌の組み合わせは昔からあった。 「カタルーニャ国旗はためくバルコンに沿ってジェラート屋にめぐりあう」(70頁)。 スペイン旅行の短歌。カタルーニャはスペインの自治州であるが、独自の歴史や言語を持ち、2017年10月にはカタルーニャ共和国として独立宣言が行われた。日本人は同質性が強いために意識が低いが、独立を求める人々の熱い思いが感じられる。 さらに本書には漫画やアニメから詠んだ短歌もある。漫画やアニメは現実の体験ではないが、そこから本人が感じたことは本人にとって本物の感覚である。日本には直接体験でなければ経験ではないという風潮が根強いが、「我あり、故に我思う」ではなく、「我思う、故に我あり」である。 「怒りをごまかすことなく、恨みを美化することなく、進んでいきたい」(126頁)。これは表現者の正しい精神である。文章を書くことは過去にこだわることである。日本には過去を水に流すことを美徳とする愚かしい傾向があるが、奴隷根性を増やすだけである。
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