危険な人間の系譜 の商品レビュー
精神医学からみた犯罪学(法制史)と言える。 元々ロンブローゾの言説「生まれつきの犯罪者」を知った時からロンブローゾに興味があったため手に取ったが、本書は私の想定を超えて非常に興味深く、面白く、為になり、そして考えさせられるものだった。 ロンブローゾが科学史家ムキエリから継承した...
精神医学からみた犯罪学(法制史)と言える。 元々ロンブローゾの言説「生まれつきの犯罪者」を知った時からロンブローゾに興味があったため手に取ったが、本書は私の想定を超えて非常に興味深く、面白く、為になり、そして考えさせられるものだった。 ロンブローゾが科学史家ムキエリから継承した「生まれつきの犯罪者」は「犯罪者は人体の特徴から分かる」という説であり、現在は明らかに否定されている。しかしこの説はその後の犯罪学を語る上で非常に重要だった。 本書では、その後進化論(進化論というとダーウィンと日本人は思いがちだが、実は当時の主流な考え方だったらしい)とキリスト教的観念の整合性、植民地として他国へと欧州人の活動範囲が広がった経緯、更には産業革命による精神疾患やその他社会問題の醸成、等々複数の要因が絡み合い、やがて社会的秩序を重視した優生学へと繋がっていく。その結果、第1次大戦後の経済的貧困に喘ぐドイツにてナチスが民主主義により選ばれ、ユダヤ人の虐殺へと繋がる。 特筆すべきは、優生思想や断種(精神疾患等を持つ人に対し施される不妊手術)はナチス特有のものではなかったという点である。 更に本書では、現代における死刑制度や保安処分にも焦点を当てている。 これらの内容を読み吟味することで、実は現在でも内容は違うがナチス政権下と実は同じような状況に陥りかねない場面が多々みられるのではないか、と思える。 歴史的な転換点を精神医学、犯罪学、歴史学から網羅的に解説した、他に類をみない(もしあったとしても非常に少ないだろう)本であり、明治期の書籍から引用していること等もあり理解に時間がかかるかもしれないが、必読の書ではないかと思う。
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