四捨五入殺人事件 の商品レビュー
井上ひさしさんが書くミステリーが本格ミステリーなはずがないだろう、という予想はその通りで、四捨五入殺人事件の四捨五入の方が主題であった。 作中一節にしか出てこないワードだと思うが、非常に印象的。 国際分業論については知らなかったし、この当時どの程度国内で影響力があった論説なのかは...
井上ひさしさんが書くミステリーが本格ミステリーなはずがないだろう、という予想はその通りで、四捨五入殺人事件の四捨五入の方が主題であった。 作中一節にしか出てこないワードだと思うが、非常に印象的。 国際分業論については知らなかったし、この当時どの程度国内で影響力があった論説なのかは分からないが、井上さんらしい東北の農村の描き方や考え方が、井上さんらしいすらりとした文章で読めるので楽しい
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『吉里吉里人』読んで以来の井上ひさしさん。放送作家さんの作品だけに軽妙で、すぐさま像を結ぶことのできる舞台背景描写。大人の笑いも散りばめられ、豊かな語彙や漢字使いのこだわりに知性がうかがえる。日本の農業問題をあぶりだしており、社会派ミステリーともいえそう。
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劇作家らしいストーリー仕立て。 ドラマの台本のように、さらっ と気持ちよく、読み進めることが できます。 さらっと読むと大事なヒントを 見落とすという、著者の狙いに 引っ掛かりました(笑) 東北地方や日本の農業問題が 根底のテーマで、井上ひさし の想いが伝わります。 四捨五入と...
劇作家らしいストーリー仕立て。 ドラマの台本のように、さらっ と気持ちよく、読み進めることが できます。 さらっと読むと大事なヒントを 見落とすという、著者の狙いに 引っ掛かりました(笑) 東北地方や日本の農業問題が 根底のテーマで、井上ひさし の想いが伝わります。 四捨五入とは、そういうこと かと後半にわかります。 代表作「吉里吉里人」を連想 させられる内容でした。 おまけとして解説の中に著者 と自筆プロットが掲載されて います。
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井上ひさしでもミステリが書けることに驚いてしまった作品。すごくユーモアもあるし何より最後まで井上ひさしらしい感じなのだが騙されたのには悔しかったなー やっぱりすごい人でした笑
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読後感がいい。 もともと1984年に出版されたミステリということで、古臭いのかな、なんて思ってたが、全然そんなことはなかった。ってか、こういう時代を舞台にした現代小説なんてたくさんあるし、そこまで気にはならなかった。セクハラ関係や、女性描写には時代を感じたが、それはそれで味がある...
読後感がいい。 もともと1984年に出版されたミステリということで、古臭いのかな、なんて思ってたが、全然そんなことはなかった。ってか、こういう時代を舞台にした現代小説なんてたくさんあるし、そこまで気にはならなかった。セクハラ関係や、女性描写には時代を感じたが、それはそれで味があるように感じた。 そして、トリック。 こちらも正直、そこまで期待していなかった。もう40年近く前に出版されたミステリのトリックなんて、目新しいものなんてないだろう、と。 ……全然そんなことなかった! もう楽しかった。 殺伐としたサスペンスミステリ、感動もののヒューマンミステリとは違い、この時代だからこその空気感や雰囲気も相まった、上質なミステリを読んだ気持ちになった。 2023年現在のミステリと比べても、なんら遜色ない小説だった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
井上ひさしさんの作品は読んだことがなかったのですが、タイトルに惹かれて読んでみました。文章の表現や漢字の使い方で少し古い作品感が出ていましたが、トリックはなかなか面白かったです。 そういうどんでん返しねと納得させられました!
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昭和五十九年刊行の新潮文庫で読んだ。安野光雅の表紙(可愛い)。元は昭和五十年ごろに『週刊新潮』で連載されていたそうだ。読み終わってから知ったが、今年(二〇二二年)三月にNHKラジオでオーディオドラマが放送されていたらしい。 五十年近く前の現代劇というわけだが、農業を取り巻く状...
昭和五十九年刊行の新潮文庫で読んだ。安野光雅の表紙(可愛い)。元は昭和五十年ごろに『週刊新潮』で連載されていたそうだ。読み終わってから知ったが、今年(二〇二二年)三月にNHKラジオでオーディオドラマが放送されていたらしい。 五十年近く前の現代劇というわけだが、農業を取り巻く状況についてとても勉強になった。今とどう違うのかはたまた違わないのか、それは私がさらに勉強しないといけないことだが、まずははじめの一歩。 しかし、むしろ、ほんと臆面もなく下ネタぶっこんでくるよな、というところに時代を感じる。小説として「けしからん!」とは別に思わないが、「今うちの職場でこんなこと言う人いたら即消されるわ」とは思う。こんなおじさんたちが跋扈する世界で生きてきた先輩女性たちすごい(まあでもこの頃にはこの頃のバランスみたいなものがあったのかもしれないから、今の価値観で簡単にどうこう言うのもアレですけど)。隔世の感。 さて、読みたい本は色々並んでいるけれど、『吉里吉里人』も読みたくなってしまった。
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本のタイトルに惹かれて購入した。 舞台は地方の田舎の温泉宿。大雨で村に足止めされた二人の前で次々起こる殺人事件。おどろおどろしい話の割に話の中に入って「それで?」と聞いている自分がいる。そして… 何だか芝居を見ていたような読後感だ。
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こんなに明るいサスペンスが他にあるだろうか。殺人事件が起こりながら誰ひとり死者がおらず、喜劇を見ていたような読後感です。 すべてが鬼哭村の中での出来事で、まるで芝居を見ているようなテンポの良さで話が進んでゆきます。ところどころの日本の農業の解説に??と思いながら読み進めると、...
こんなに明るいサスペンスが他にあるだろうか。殺人事件が起こりながら誰ひとり死者がおらず、喜劇を見ていたような読後感です。 すべてが鬼哭村の中での出来事で、まるで芝居を見ているようなテンポの良さで話が進んでゆきます。ところどころの日本の農業の解説に??と思いながら読み進めると、最後になるほどの結末を迎えました。井上ひさしさんのこの感じ、ワタシはとても好きです。
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コメディ色の強いミステリ小説。東北地方の農村が舞台。講演会に来た二人の作家は殺人事件に巻き込まれる。警察官は犯人を決めつける。冤罪が明らかになると、巡査は土下座する(164頁)。この点は現実の警察よりもまともである。 冤罪被害者は決して忘れないと言う。「わたしは決して忘れない、...
コメディ色の強いミステリ小説。東北地方の農村が舞台。講演会に来た二人の作家は殺人事件に巻き込まれる。警察官は犯人を決めつける。冤罪が明らかになると、巡査は土下座する(164頁)。この点は現実の警察よりもまともである。 冤罪被害者は決して忘れないと言う。「わたしは決して忘れない、ここではずかしめを受けたことを金輪際忘れない。この恨みはきっと筆によって晴らすつもりです」(241頁)。非歴史的な日本人は焼け野原から経済大国にしてしまうような前に進むことしかできない姿勢をもてはやすが、過去をきちんと振り返る姿勢は健全である。過去に目を閉ざす者は未来にも盲目になる。冤罪被害者が文章で冤罪の事実を明らかにすることは、山本周五郎「花杖記」と重なる。 農業の機械化のマイナス面が指摘される。機械化による生産性向上と減反政策を一緒くたにするのは乱暴である。政府や大企業、都市の消費者をやり玉に挙げるが、ステレオタイプな議論に感じる。農民に機械や農薬を買わせて借金漬けにしたことは問題であるが、その推進勢力には農協がある。農村の外側に原因を考える前に村社会の集団主義から自立することを考えた方がいいだろう。 農業指導者が公務員を止めたことで本当の農業の改革ができたという点は真理を突いている。米一辺倒から畜産や林業に取り組んでいる。需要に応える市場主義の民間感覚を持った改革である。
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