天城一の密室犯罪学教程 の商品レビュー
2005年に話題になった当時も読み、今回文庫になったことで再読した。お世辞にも読みやすい本ではない。解説陣は「難解だ」と述べ、推理小説を娯楽読物として楽しんでいる読者には勧められないとする。難解といえば聞こえはいいが、単純に小説としてのクオリティが低いのである。それならばトリック...
2005年に話題になった当時も読み、今回文庫になったことで再読した。お世辞にも読みやすい本ではない。解説陣は「難解だ」と述べ、推理小説を娯楽読物として楽しんでいる読者には勧められないとする。難解といえば聞こえはいいが、単純に小説としてのクオリティが低いのである。それならばトリックは目をみはるものがあるかといえば、そうでもなく、むしろ小ネタで、かつ無理な展開も多い。 ただ、本書の価値はそうしたものを超越したところにある。大乱歩を向こうに張り、密室トリックなど大したことはないと主張し、公式を当てはめるように作れるとして、かつ実践してみせたのである。成果物である10篇の短編の読みにくさは、ある程度理由があってのものだったことが、後半の理論編や解説で明かされる。言わば、小説としてのクオリティは捨てたとしても、拾うべきものがあったのだ。 個人的には、ミステリはあくまで小説として読みたいので、本書には高い評価がつけられない。しかし、この意固地なまでの「在り方」が一部のミステリファンに本書が愛される理由である。
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2004年に刊行され、2005年版『このミステリーがすごい!』で第3位。当時興味は惹かれたものの、あまりのぶ厚さに手は出さなかった。それから16年後の2020年、書店で文庫化されているのを見つけた。多少逡巡した後に手に取った。 初版刊行当時、『このミス』第3位だからという理由で手に取った読者の多くは、大いに戸惑ったのではないか。2020年に読んだ自分も、戸惑った。途中で投げ出しかけた。最後まで読み通せば、自分にも何かがわかるのかと思ったのだが…。 本作は評論家の日下三蔵氏が編集して刊行に至った。日下氏を始め、賛辞を寄せた作家諸氏によれば、天城一という作家の作風は、虚飾を徹底的に廃し、アイデアの原石のようだというのだが…いやいやいやいや、思い切り「無駄」だらけではないか。娯楽小説の対極にあることだけは理解した。それなのに「無駄」だらけとは。 短編集にも関わらず、筋がすっと頭に入ってくる作品は1編もない。下手すると、どこがトリックだったのかすらわからないまま終わってしまう。戦後間もないという時代背景は、読みにくさの言い訳にはならないだろう。しかも改行は少なく、文字の密度はびっしり。悪いのは行間が読めない読者なのか? 小説に挟まれた評論部分が、これまた読みにくい。密室のパターンの分類をしているのはわかるのだが、小説以上に脱線が多いような。評論部分を簡潔にまとめた「密室作法」が最後の方に載っているが、ここだけ読めば十分な気がした。 小説部分の中でも、摩耶という探偵役が出てくる作品はさらに辛い。本業は記号論理学者、捜査現場では長々と哲学論を語る。好きな人は好きかもしれないが、これが虚飾でなくて何なのか? なお、天城氏の本職は数学者とのことだが。 本作ミステリと称される作品の多くが、アイデアありきで内容を水増ししているのは、まあ事実だろうけれども、それが悪いとは思わない。読者は承知して読んでいるし、作家は如何に最後まで騙し通すか勝負しているのだから。天城氏の摩耶シリーズも然り。自分には合わなかった、ただそれだけのこと。 本作に至福を感じるかどうかで、真の推理小説愛好家であるかどうかが試されているのだろうか。自分は、本作の価値をわかったふりはするまい。
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