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日本蒙昧前史 の商品レビュー

3.8

14件のお客様レビュー

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2020/08/05

【語りの魔術で蘇らせる、戦後日本の生々しい手触り】語り手を自在に換えつつ大阪万博、日航機墜落事故など、狂騒と蒙昧の戦後を彩った様々な事件とその陰にある無数の生を描き出す長篇。

Posted byブクログ

2020/08/03

「幸福の只中にいる人間がけっしてそのことに気づかないのと同様、一国の歴史の中で、その国民がもっとも果報に恵まれていた時代も、知らぬ間に過ぎ去っている。」 冒頭の文から引き込まれる。その同じ行から、グリコ・森永事件が描かれる。一気にその時代に運ばれる。 子供時代であったが、その割に...

「幸福の只中にいる人間がけっしてそのことに気づかないのと同様、一国の歴史の中で、その国民がもっとも果報に恵まれていた時代も、知らぬ間に過ぎ去っている。」 冒頭の文から引き込まれる。その同じ行から、グリコ・森永事件が描かれる。一気にその時代に運ばれる。 子供時代であったが、その割には印象に残っている事件が次々描かれる。 すごい出来事が次々起こっているのに、のんびり子供時代を送っていた。 作家の取材力と想像力の境目がはっきりしないが、事件の当事者の心中に入り込みながら、読み進める。 太陽の塔の目玉男の話、完全に忘れていた。その後、この人はどう生きられたのだろう。 グリコの社長一家も五つ子のご家族もまだまだご活躍の中、大胆な小説だなとも思う。 その点、横井庄一さんの話は安心して読めた。 渦中にある時は、評価できない。 今の時代をこの小説のように50年後に振り返ってみたらどうなるのか。 評価できない、といっても、どう考えてもいい評価になるわけがない。それがわかっていて、どんどんダメな方向に進んでいるのをボーッとしていていいのか。 いい方向に向かっていくと考えたい。でもそれは、リニアモーターカー(万博の時代からすでにあった話とは。50年前の話にまだこだわってるって笑える)とか、そんな方向ではないはずだ。 「蒙昧」の時代は続くのか。一体いつまで? 50年後に今を振り返ることのできるこの国や人は存在してるのか?

Posted byブクログ

2020/07/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 S40年男だし、元商社マンだし、一応、気にはしている作家さんだけど、芥川賞受賞作品は響かなかった。  本作も、文体が通常と異なる、読点で繋がる文がダラダラ続く著者独特の文体で、とっつきが悪い。ただ、題材が「昭和」で、そこに大いに親近感と興味を持って読み進むことが出来たのは幸い。  そして本書の言わんとするところも、昭和を通じて見せる今の世相、断末魔を迎えつつある近代の社会システムへの警鐘であろう。  無責任なマスコミに囲まれる五つ子の家族から見えるメディアの身勝手、横暴。大阪万博という国家レベルの大事業に一見思えるイベントの背後の個人の事情を目玉男を通じて描き出す。28年間、己の才覚だけでジャングルの中でのサバイバル生活を生き抜き帰還した元日本兵は「帰ってきた途端、金なしでは一週間だって生活できない、情けない身体に変わり果ててしまった、金という権威に負けて、服従させられている!」と驚く。何をか言わんをや、だろう。  幼少の頃の遠い記憶の中でも、思い出深い、大阪万博(S45/1970)、楯の会事件(S45/1970)、元日本兵帰還(S47/1972)、五つ子誕生(S51/1976)、グリコ森永事件(S59/1984)を順不同に取り上げ、その折々の登場人物を軸に、但しあくまでフィクションという姿勢は崩さず、実名は出さず、NHK記者、仕立屋の元日本兵、『葉隠入門』の著者、キャバレー好きの政治家(←これは意外な喩え方だったなあ)と、ボカしてるんだかボカしてないんだかの不思議な筆致のルポルタージュのように話は展開していく。  いちばんのハイポイントは、大阪万博の用地買収の裏話のあとに展開される目玉男のクダリだろうか。小柄な老人として、この万博のシンボルタワーを創造した芸術家も登場する。正直、大阪万博は、会場入りした覚えはあるが、広いアスファルトの通路を走り回り、ひょっこりひょうたん島の着ぐるみに追いかけられて怖かったという思いでしか残っていない。おそらく同じく当時5歳だった著者も、印象的な視覚情報だけが脳裏に残っているだけだろう。この目玉男の事件などは、まったく記憶にない話だった。 そんな事件を振り返り、著者は述懐する。 「こういう面白い事件、後の時代であればぜったいに起こり得ない、人に語って聞かせたくなるような事件がじっさいに起こった分だけ、やはり当時の世の中はまだまともだった、そう思いたくもなってしまう、核エネルギーの平和利用は可能であると主張し、交通事故死の急増も繁栄のためには免れ得ない犠牲と諦めていた、有機水銀化合物をそのまま海に垂れ流しての希薄化されるのでさしたる問題はないと信じ込むほど、我々はじゅうぶんに無知で、蒙昧ではあったが、自分たちの理解を超える事象に対してまで恥ずかしげもなく知ったか振りをするほどは、傲慢ではなかったということなのか?」  つまり今の世の中は、知ったかぶりして傲慢にも、目の前にある問題から目を背けている、というのが著者の主張か。いや、「?」で結んでいるあたり、断定は難しいだろう。  なにしろ、本書の冒頭の一文が、こう語っている。 「幸福の只中にいる人間がけっしてそのことに気づかないのと同様、一国の歴史の中で、その国民がもっとも果報にめぐまれていた時代も、知らぬ間に過ぎ去っている。」  時代の評価は後の世になってからなのだ。

Posted byブクログ

2020/07/12

昭和40年生まれの著者が、少年時代から青年時代にかけて起きた社会的な出来事をまとめたドキュメンタリーノベル(?)。同じ時代を生きた者として興味深く読んだ。帰還兵・横井さん、鹿児島の五つ子ちゃん、グリコ森永事件など、マスコミの功罪を考えた。大阪万博の裏事情はまったく知らなかったので...

昭和40年生まれの著者が、少年時代から青年時代にかけて起きた社会的な出来事をまとめたドキュメンタリーノベル(?)。同じ時代を生きた者として興味深く読んだ。帰還兵・横井さん、鹿児島の五つ子ちゃん、グリコ森永事件など、マスコミの功罪を考えた。大阪万博の裏事情はまったく知らなかったのでおもしろかった。いい時代だったとは思わないが、令和の現在も本質は変わらない気がする。

Posted byブクログ