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野川 の商品レビュー

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2023/02/19

 2002(平成14)年から2004(平成16)年に雑誌連載、同年に単行本化されたもの。 「長編」と書かれており、後半は連作短編が多い古井さんで、読み始めてやっぱり連作短編ぽい風合いも持ってはいるが、出来事や登場人物が継続しており、なるほどこれは長編小説、で正しい。  1991年...

 2002(平成14)年から2004(平成16)年に雑誌連載、同年に単行本化されたもの。 「長編」と書かれており、後半は連作短編が多い古井さんで、読み始めてやっぱり連作短編ぽい風合いも持ってはいるが、出来事や登場人物が継続しており、なるほどこれは長編小説、で正しい。  1991年の病気以降はめっきり老年文学になってしまった古井さんの小説だが、本作は『仮往生伝試文』(1989)よりは「老い」の概念が強迫的でなく、私の好みに合った。  全体のテーマは「生と死」となるだろう。自分は生きているのだが、死んでいるとも言えるのかもしれない、というそのあやふやさがメインモティーフとして全体に流れる。  驚いたのは、本書半ば、「私」が青年期を回想する中で友人が狂気を病んだ年上の女性と濃密な関係を繰り広げる部分。これこそ「老境」以前の、昔の古井さんの文学世界といった味わいである。ひたすら辛気くさかった『仮往生伝試文』よりも豊かな振幅が現れている。  随筆ともフィクションとも見分けが付きづらい後期古井文学ではあるが、本作には明らかに虚構だろうと思われる側面が多く、そのことも、作品世界にある種の「ユルさ」をもたらしていて快かった。  相変わらずアクロバティックな実験的言語構成が際立ちながらも、豊かさを蔵しており、好きな作品である。

Posted byブクログ