遺品博物館 の商品レビュー
わたしは時々やってしまうのですが、申し訳ありません、長い前フリをします。純粋な本の感想を読みたい方は、後半部分に飛んでください。 考古学を趣味にしていると、博物館における遺物の展示説明には玉石混交があります。なるほど、「考古学は事実で歴史を語る学問だから、自分の思いなど書くべき...
わたしは時々やってしまうのですが、申し訳ありません、長い前フリをします。純粋な本の感想を読みたい方は、後半部分に飛んでください。 考古学を趣味にしていると、博物館における遺物の展示説明には玉石混交があります。なるほど、「考古学は事実で歴史を語る学問だから、自分の思いなど書くべきでない」と言う学者もいます。でも下の説明書(せつめいがき)を見てください。これは、大洲城内にある中世末期の湯築城から出土した土師器皿(かわらけ)の説明書です。 「猫の足あとのある皿」 「この土師質土器の皿は、丘陵西側からまとまって出土した中の一点です。皿の内底部に猫の足あとがくっきり残っている、大変珍しいものです。おそらく、製作の過程で偶然足あとがついたものだと推定されますが、城内から出土したということは、製品として持ち込まれて使用されたと考えられます。当時もさぞかし話題になったことでしょう。」 普通の説明書では、「大変珍しいものです」で止めています。そこまでならば、「そうか、この頃も猫は身近だったんだ。肉球可愛い!」ぐらいの感想しか生みません。ところが、後の説明を読むことで、想像力豊かな人は、一冊の本さえ書けるでしょう。「城内から出土」という「事実」から「城内で製品として使用されていた」という「事実」が浮かび上がります。一見不良品の皿を、わざわざ貴人が使用する城内に持っていこうと決意した製作者の気持ちは何だったのか?それを受け入れた者(おそらく姫←わたしの想像)の気持ちは何だったのか?それに気がついた周りの人たちの反応はどうだったのか? ‥‥ここからもわかるように、本来「遺物」には、すべからく「物語」があるのです。それを掬い取って語るべきは、考古学者の務めであるとわたしは主張したい。 「遺品」には「物語」がある。 何も有名なお城から出土しなくてもいい。普通の人の遺品は、多少なりとも人生の物語を内包しているはずです。ならば、その遺品を中心にしてミステリが書けるはず。なおかつ、遺品を収集し、研究し、いつの日か展示する「遺品博物館」があってもおかしくはない。著者の想いに大いに賛同します。 ここに出てくる人たちはみんな無名の人たちです(創作話だから当然である)。けれども、万が一パラレルワールドで彼らが実在していたとして、遠い将来「遺品博物館」で「研究者」が遺品の価値を品定めしたとしたら、彼らの「死因」の多くは伝えられているものとは違うものになってしまい、その世界の「文化史」の幾つかは「書き替え」が迫られるでしょう。まぁ何人かは、既に誰かか暴露本を書いていて、この「遺品」の存在が伝説と化している場合もあるでしょうけれど。 ミステリとしては、途中で小出しに事実の暴露が行われるので、まぁ普通に楽しめました。設定だけが面白い作品です。こんな八篇の短編集にするのではなくて、緊密な構造を持った長編こそが相応しいとわたしは思います。
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8つの短編全てに遺品博物館の職員の吉田・T・吉夫が出てくるが、どうにも胡散臭いやつで、実態がよく見えない。それでいて、故人のもとにやってきた人物たちの過去などを暴いてしまうという頭の良さがある。 いかにも手慣れた文章でするすると読まされてしまうが、それだけだなあ。上手いこと人生の...
8つの短編全てに遺品博物館の職員の吉田・T・吉夫が出てくるが、どうにも胡散臭いやつで、実態がよく見えない。それでいて、故人のもとにやってきた人物たちの過去などを暴いてしまうという頭の良さがある。 いかにも手慣れた文章でするすると読まされてしまうが、それだけだなあ。上手いこと人生の一断面を切り取りましたという感じか。
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『遺品博物館では寄贈を希望される方と生前に面談し、亡くなられた後で然るべき遺品を引き取りに伺います』 『(遺品の)選定基準については諸事情によりお話しできないことになっております。ただ、ひとつだけ申し上げるなら、その方の人生において重要な物語に関わる物を選ぶことになっております』...
『遺品博物館では寄贈を希望される方と生前に面談し、亡くなられた後で然るべき遺品を引き取りに伺います』 『(遺品の)選定基準については諸事情によりお話しできないことになっております。ただ、ひとつだけ申し上げるなら、その方の人生において重要な物語に関わる物を選ぶことになっております』 人が亡くなった後にふらりと現れる〈遺品博物館〉学芸員の吉田・T・吉夫。年齢不詳、『印象は薄いのにどこか浮世離れしているように見える』。 この吉田が『遺品』を選定する中で、故人の人生や思いやその死に潜む意外な『物語』を明らかにしていく。 そこには故人と所縁のある、その場にいる人だけでなく、時には故人がこれまで隠してきた都合の悪い真実もある。 しかし吉田の目的は故人の死の真相を暴き、犯人を糾弾することではない。あくまでも故人の『物語』を抱いた『遺品』を選定し博物館へ持ち帰ることだ。 このクールさが個人的な好みにはピッタリ来て、読んでいて楽しかった。 この後、この人たちはどうなるのだろう。ビクビクしながら生きるのか、復讐を受けるのか、正当な裁きを受けるのか。しかし吉田はそこには興味を抱かず去っていく。 とはいえ、ブラックな話ばかりではなく、前向きな話もあった。亡くなって『遺品』を見て初めて知る故人の思いもある。 個人的には「川の様子を見に行く」「燃やしても過去は消えない」「大切なものは人それぞれ」が良かった。 吉田のなかなかの切れの良い探偵振り、そして残していく言葉。 結局、吉田・T・吉夫の『T』は何なのか。分からないままなのも、ミステリアスで良い。
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※このレビューにはネタバレを含みます
短編集。亡くなった人のアレコレに関わる遺品を蒐集してある博物館。ただ者ではない学芸員がひとつひとつその人の秘められた過去を、死因を暴いてゆく。 ちょっとイイ話なのかと思いきや、イイ話どころかブラックな部分が多い。たまたま手に取ってしまった本なので読了したけれど、縁が無かった本でした。 太田さんって以前に何か読んだけどこういう作風の人だったかな~
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生前に依頼を受け、その遺品のどれか一点を寄贈するという遺品博物館。遺品を選定するために遺族のもとを訪れた学芸員が謎を解き明かす連作ミステリ短編集。ひっそりとした謎が多く、雰囲気に浸れる作品が多いです。が、中には個人の死に関わる大きな謎が解き明かされることもあり、読みごたえありです...
生前に依頼を受け、その遺品のどれか一点を寄贈するという遺品博物館。遺品を選定するために遺族のもとを訪れた学芸員が謎を解き明かす連作ミステリ短編集。ひっそりとした謎が多く、雰囲気に浸れる作品が多いです。が、中には個人の死に関わる大きな謎が解き明かされることもあり、読みごたえありです。各話のタイトルも雰囲気があって素敵。 お気に入りは「燃やしても過去は消えない」。この意味深なタイトルにまずぐっと惹きつけられました。そしてその物語の真相……これははたして責められるべきことであるかどうか。だけれど、責められるべきかどうかを一番知っているのは当事者で、それこそどう取り繕おうと過去が消えることはない、という重苦しさが残ります。 そして最終話の「大切なものは人それぞれ」にはもうやられた、としか。
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古今東西、様々な遺品を収蔵する博物館の学芸員、吉田・T・吉夫。 依頼を受けて赴く先にある、8つの人間模様を垣間見る。 遺品は人の歴史を語る証言者だ。 ・川の様子を見に行く・・・シニカルな評論家が帰郷し、訪れた 古民家で出会った者たち。それは偶然か?必然か? ...
古今東西、様々な遺品を収蔵する博物館の学芸員、吉田・T・吉夫。 依頼を受けて赴く先にある、8つの人間模様を垣間見る。 遺品は人の歴史を語る証言者だ。 ・川の様子を見に行く・・・シニカルな評論家が帰郷し、訪れた 古民家で出会った者たち。それは偶然か?必然か? 川・・・過去の事件が浮かび上がる。 ・ふたりの秘密のために・・・大いなる父の遺産は意外にも次女へ。 但し、3つの条件を承諾するのが必要だ。 そして長男の言葉。父と娘の絵を介した秘密が蘇る。 ・燃やしても過去は消えない・・・イラストレーターの死と謎。 彼が担当するはずだったファンタジーの挿絵をオファー された絵本作家の困惑。だが・・・美味なるディナーの後に 醸し出される、不穏な余韻の香り。 ・不器用なダンスを踊ろう・・・若くして亡くなった同級生。 彼女と仲の良かった彼は本を書いた。それは彼の目論見。 そして彼女の目的。それらは信頼となり、永遠の命となる。 ・何かを集めずにはいられない・・・駄菓子屋の老婆が亡くなり、 店内在庫の公開に招かれた4人のコレクター。老婆の人生に 隠された一面が暴かれると共に、更なる事件の真相が・・・。 ・空に金魚を泳がせる・・・子の事故死に異議を叫ぶ、妻。 その亡き十歳の息子は、遺品の収蔵を約束していた。 その傘は・・・鮮やかに息子の姿が浮かび上がる。 ・時を戻す魔法・・・女王と称される元・女優の葬儀に出席した、 元・総理大臣。その席で若き日の彼女にそっくりな女性と 出会う。青春の想い出の詰まった高校生活。その高校は・・・。 ・大切なものは人それぞれ・・・著名な画家が猫に十億円の遺産を 残して逝去。その遺体の横で新たなる殺人が。猫も消える。 しかも犯人は遺品博物館学芸員の吉田だと!? 人生において重要な物語にかかわる遺品を選び、収蔵する、 遺品博物館。学芸員の吉田・T・吉夫は依頼を受け、収蔵するに ふさわしい遺品を選定します。逝去した依頼人の、いない場で。 その過程で、遺族が知らなかった真実、隠ぺいされていた犯罪が 明らかにされたり、或いは、新たな事件が発生したりします。 それにしても吉田の、洞察力と行動力、恐るべし! 淡々と人生を掘り起こしていく手腕に感嘆してしまいます。 一気に読ませてくれる不思議な魅力、選ばれた“遺品”が、 それぞれの物語に相応しいエンドになり、ほっと息を吐く。 そんな短編集でした。
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故人からの依頼に基づき、故人の生涯を語るうえで忘れてはならない物語に由来するものを蒐集する謎めいた遺品博物館の学芸員を主人公とする、8編の短編から構成される推理小説。
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【収録作品】川の様子を見に行く/ふたりの秘密のために/燃やしても過去は消えない/不器用なダンスを踊ろう/何かを集めずにはいられない/空に金魚を泳がせる/時を戻す魔法/大切なものは人それぞれ
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何故この本を手に取ったか分からない。でもなんとなくタイトルでホラー系かと思ったのかも。で、実際読んで見ると、めっちゃオシャレでスマートで完成度の高い見事な短編集だったわけだ。 「その名のとおり、遺品を収蔵する博物館です。古今東西、さまざまな遺品を菟集しております。選定基準につ...
何故この本を手に取ったか分からない。でもなんとなくタイトルでホラー系かと思ったのかも。で、実際読んで見ると、めっちゃオシャレでスマートで完成度の高い見事な短編集だったわけだ。 「その名のとおり、遺品を収蔵する博物館です。古今東西、さまざまな遺品を菟集しております。選定基準については諸事情によりお話しできないことになっております。ただ、ひとつだけ申し上げるなら、その方の人生において重要な物語に関わるものを選ぶことになっております」と吉田・T・吉夫は説明する。 各物語の出だしの一文で読者を引き込む掴みがまたいい。短編で次々サクッと読めるし、どの話もかぶりがなくて楽しめた。
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莫大な財産を遺して亡くなった医師。葬儀に 集まった子供たちの前に現れたのは…。 様々な遺品を蒐集する「遺品博物館」の 謎めいた学芸員が見出す8つの死にまつわる物語。
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