イスラエル諜報機関暗殺作戦全史(上) の商品レビュー
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「全史」銘打つだけあって、第二次大戦の終わりからのイスラエルxパレスチナの攻防の流れを逐次追って書かれている。上巻はインティファーダを経てオスロ合意、パレスチナ自治政府樹立までを扱う。 正直、イスラエル内部の予想外のカオスっぷりに頭が痛くなり、酔いそうになった。イスラエル人とはもっと合理的な人々ではなかったのか? ヨーロッパ出身の教育があり、お金もある層がイスラエルという国の運営を行っており、先進的で洗練された圧政を敷いているイメージがあったが、これでは法治国家とは言えないようだ。 暗殺の手際がお粗末で失敗続きでも継続したり、私的なこだわりから効果の薄いターゲットに力を費やしたり、他国の法も自国の法も犯しまくり、無関係の人間多数が死んでも気にしない、とか、とか。 国を持たず軍隊を持たないPLOは1970年代に大々的な国際テロをやっていた。が、そこで報復に燃えたイスラエルもやっぱり同じレベルで過激なテロリストになったのだった。(それ以前ももちろんテロは常時あったし、ギャングの抗争みたいな殺しあいもやっていたけれども) 1972年、ミュンヘンオリンピックで選手たちが殺される事件ののち、内閣はターゲットが友好国にいる場合でもその国の当局に通告することなく攻撃を承認する権限をメイア首相に与えた。 それがヨーロッパの先進国でも、殺人をやる。国際問題のリスクより暗殺優先を決意した。 テロ、報復の暗殺、報復のテロ、報復の暗殺……作戦のしかけも人数も増え、大掛かりになっていく。 一応あれの報復がこれ、みたいな呼吸はあるものの、こぼれたツケがどんどん積み上がって恨み100倍1000倍となる歴史である。 シンベト(シャバック):主にイスラエル国内と撤退後のガザを含めたイスラエル国防軍占領地区で治安維持活動や防諜活動に従事している。諜報特務庁(モサド)や政治調査センター(ママッド)、参謀本部諜報局(アマン)などと共にイスラエル情報コミュニティーのメンバーであるーーWikipediaより 上記以外にも、イスラエルにはいったいいくつ怖い組織があるんですか という複雑さだが、それぞれ過激な人間が率いて好き勝手に動いていたり。ある意味、ひどい独裁者が統治する国よりも超過激に傾きやすいのではないだろうか。 イスラエルは他国にバレるとまずいことを数多くやらかしているのだが、いろいろなメディアに本人が告白してしまっていたり、興味を持った記者に調べ上げられてしまっていたり、極秘といいつつ脇が甘いようだ。自分の所業を語りたがる人物が多いのかとも思う。本書は著者の調査以外に過去に明らかになった事実の蓄積なしには成り立たなかっただろう。 個人的には、コワモテのイスラエル人の心境に興味があった。 1956年、パレスチナゲリラに殺されたキブツ警護の中尉への、参謀総長モシェ・ダヤンの追悼文。ーー今日は殺人者を責めないでおこう。われわれに彼らの強い憎しみを否定する権利はないはずだ。ガザの難民キャンプから八年間出られないままでいる彼らの眼の前で、彼らやその祖先が住んでいた土地や村をわれわれの財産へと変えているのだから。ーーー アラブ人から侵入者と憎まれることと向き合う。安全と民族の存続を最優先にして踏みとどまる。そのために報復攻撃をする所存である。殊勝なようだが自分たちの生存のためなら遠慮なく殺すと言っているのだ。アラブ人に憎まれることは理解してやってるとは意外な気がした。 しかし、インティファーダ前夜まで、一般のパレスチナ人は訳なくコントロールできている、とイスラエルの国の幹部たちは考えていたらしい。民衆がPLOの指導なく自分たちで立ち上がるとは、思いもよらなかったという。それが本当なら、その時点では、アラブ人の憎しみにまったく向き合っていなかったと言える。 まるで、いじめっ子が「そんなに嫌がってるとは思いませんでした」と言うのと似ていないか。 ーー情報機関の幹部のほとんどが、力ずくでは占領問題は解決しないことをよく認識していた。ーーパレスチナ問題に関してはリベラルで左派的な見解を抱き、パレスチナ国家の独立を認めて和解する政治的解決策を支持していた。だが、それを堂々と口にするものは誰もいなかった。ーー これは驚き。パレスチナ人をいくらでも殺していいと思っているかのような暴力的な人物までも、このような見解を抱いていたとは。 オスロ合意、パレスチナ自治政府樹立。あれは幻ではなかったんだなあと不思議に思う。一方で、容赦なくテロや暗殺をしてきた人間たちだから、やはり過激な指導者がいれば引っ張られてしまうだろうとも思う。
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国家とユダヤ人を危害から守るためにあらゆる手段を講じるイスラ エル。イスラエルの新聞記者が政府・軍関係者への膨大な聞き取り から明らかにした、イスラエルで特殊任務にあたるモサド、シン・ ベト、アマンの3機関による、諜報活動と要人暗殺作戦の初の通史
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まるで映画や小説のように思えるほど臨場感が溢れる内容。 こんな世界があったのかと信じられない気持ちになり、でもそれが事実なのでとてもやるせない気持ちになる。 明日、日本がなくなるなんて今の自分には想像つかないけれど、イスラエルには国の成り立ちからして闘わないいけないと思ってしまう...
まるで映画や小説のように思えるほど臨場感が溢れる内容。 こんな世界があったのかと信じられない気持ちになり、でもそれが事実なのでとてもやるせない気持ちになる。 明日、日本がなくなるなんて今の自分には想像つかないけれど、イスラエルには国の成り立ちからして闘わないいけないと思ってしまう理由がある。 闘いを続ければ続けるほど、どんどん複雑化しているように思う。 教科書的な事実羅列ではなく、色々な立場の人間のリアルな発言があふれている。 著者のインタビューにかけた時間と労力が計り知れないし、それをこの本にまとめたのがすごい。 翻訳も読みやすかった。
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国家とユダヤ人を危害から守るためにあらゆる手段を講じるイスラエル。イスラエルの新聞記者が政府・軍関係者への膨大な聞き取り から明らかにした、イスラエルで特殊任務にあたるモサド、シン・ ベト、アマンの3機関による、諜報活動と要人暗殺作戦の初の通史。 めちゃくちゃ面白そうだけど買う人...
国家とユダヤ人を危害から守るためにあらゆる手段を講じるイスラエル。イスラエルの新聞記者が政府・軍関係者への膨大な聞き取り から明らかにした、イスラエルで特殊任務にあたるモサド、シン・ ベト、アマンの3機関による、諜報活動と要人暗殺作戦の初の通史。 めちゃくちゃ面白そうだけど買う人少ないだろうな・・・と思いながら読み始めました。序文からして恐ろしいにおいがぷんぷん漂うんですけど、あまりに平和ボケした日本人にはかなり衝撃的な内容で、でも怖いもの見たさであっという間に読み終えてしまった。この著者、近いうちに消されるとかない・・・よね?ここまでの証言をよく集めたなあと感嘆しかないです。すごすぎる。筆者のイスラエルへ対する批判的な姿勢は述べられていますが、決してくどくなく、淡々と事実が記されていて客観的な一冊に仕上がっている。下も早く買わないと。翻訳してくれた早川書房に感謝です。
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※このレビューにはネタバレを含みます
スパイやその所属する諜報機関の描写は映画や小説といったフィクションの世界ではよく見かけるが、この本には実際のところインテリジェンスの世界がどのようなものなのかが事細かに書かれている。そもそも諜報機関の内情をノンフィクションとして書くことなどできるのだろうかと思ったが、実際著者はこの本を書くのに並々ならぬ苦労をしたことがうかがえる。その情報収集の結果は巻末の100ページ近い注記に見ることができ、情報の正確さのために多大な努力を払っていることが推察された。また、著者がイスラエルにかかわりが深いこともあり、情報源はイスラエル側のものが多いが、著者個人の主張を極力排し中立な立場で事実を書き連ねるようにしていることも感じられた。 上巻ではイスラエルの建国から第一次インティファーダのあたりまでの期間に各情報機関がどのように設立され、確立されていったかの経緯や、国の生き残りを賭して諜報活動に血道を挙げる状況が様々な作戦行動の描写を通じて綴られる。普段自分が暮らしている日常とは全く想像もつかないような世界があるということを痛感させられた。
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2020年8月12日図書館から借り出し。 中東では軍事力を背景に、やりたい放題のならず者国家に近いイメージのイスラエルではあるが、建国初期の1958年10月29日に生じた国境警備隊による無差別の住民虐殺を夜間外出令に違反したものはすべて射殺せよとの命令を守っただけだと兵士側は抗弁...
2020年8月12日図書館から借り出し。 中東では軍事力を背景に、やりたい放題のならず者国家に近いイメージのイスラエルではあるが、建国初期の1958年10月29日に生じた国境警備隊による無差別の住民虐殺を夜間外出令に違反したものはすべて射殺せよとの命令を守っただけだと兵士側は抗弁した。それに対し、ベンヤミン・ハレヴィ判事は「明らかに違法な命令には、識別できる印がある。そのような命令には『守ってはいけない!』という警告が海賊旗のように掲げられているはずだ。違法な命令からは全面的もしくは部分的に違法性がにじみ出ている。(中略:翻訳原文)目が不自由ではなく心が腐っているのでなければ、その命令を受ける者の目を射抜き、心を怒りで震わせるに違いない」と判示したと書かれていた。(348頁) これには正直驚いた。あのイスラエルでさえ、初期にはきちんと司法が機能していたのだ。 翻って、日本帝国陸軍は中国で、アメリカ軍はヴェトナムで、大量の住民虐殺を繰り返した。原点は人種差別意識であることは間違いない。ヘイトを繰り返す人間は怖い。
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極めて面白い。ここまでやらないと中東では生き残れないのか、と。陰謀論の世界と隣り合わせの民主主義社会という、イスラエルならではの状況も垣間見える。
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