なぜ中間層は没落したのか の商品レビュー
二重経済モデルの原型であるルイス・モデルをベースに1970年から拡大したアメリカにおける所得格差の実状を、一般の読者に分かりやすく説明、考察されている。 著者は高い技能と学位を持ち高所得者となったFTE(金融/Finance、技術/Technology、電子工学/Electron...
二重経済モデルの原型であるルイス・モデルをベースに1970年から拡大したアメリカにおける所得格差の実状を、一般の読者に分かりやすく説明、考察されている。 著者は高い技能と学位を持ち高所得者となったFTE(金融/Finance、技術/Technology、電子工学/Electronics)部門と、グローバル化の負の側面に苦しむ熟練労働者である低賃金部門に区分し両者の断絶を克明に述べている。そしてこの経済の不均衡が政治的、司法的にも是正されない理由と負のスパイラルについて言及してゆく。 著者はこの状況が改善されるべきであり、その指針も示しているが、悲観的に捉えておりある種のディストピアを感じさせる。 「経済の順調な部分はETF部門と呼ばれ、おそらくは本書の読者が住む世界であり、しばしばアメリカ経済全体と見なされる。」 あえて強く警告的にならず冷静な文章が、逆に読み手への危機感を想起させている。
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本のタイトルの通りだが、高所得者層と低所得者層の割合は増加し、中間層の数は減少している (没落)。アメリカ経済は成長を続けているが、平均賃金は1970年頃から伸び止まり、一方で超高所得者層の所得が増え続けており、格差が激化している。一体なにが起こっているのか。 経済学者ルイスは、...
本のタイトルの通りだが、高所得者層と低所得者層の割合は増加し、中間層の数は減少している (没落)。アメリカ経済は成長を続けているが、平均賃金は1970年頃から伸び止まり、一方で超高所得者層の所得が増え続けており、格差が激化している。一体なにが起こっているのか。 経済学者ルイスは、発展途上国を意識して、二重経済モデルを提唱した。これは、発展は国ごとではなく部門・地域ごとに興るものであり、発展途上国の経済構造は資本主義部門と生存部門と名付けられる2部門に分けられるとするものである。生存部門の人々は生産性が低く、その日その日を食いつなぐことに精一杯で、長期的な思考ができない。 筆者はこのモデルを現代のアメリカに適用し、2部門をそれぞれ FTE 部門 (Finance, Technology, Electronics の略だが、Full Time Employee を示唆するともされる) と低賃金部門と名付けた。 FTE部門に属する人々の数は2割ほどである。低賃金部門の人々はもちろん FTE 部門に「移行」することを望んでいる。この移行を可能にするのは教育だ。しかし教育は長期的な支出を必要とするから、ハードルが高く、また広がり続ける格差がますます移行を難しくしている。 FTE部門に属する人たちは、再分配を忌み減税を望む。低賃金部門の投票機会を阻み、人種差別的意識を煽る。また富裕層は政党に莫大な献金を行い、自らの利益を通す。筆者は、米国はもはや民主政治ではなく、寡頭政治の国となっていると主張する。 こうした背景と、具体的な問題の解説を織り交ぜ、現在の米国の問題が詳しく説明されている。米国の諸問題は、即ち人種差別・ジェンダーの問題に通じている。そうした視点での解説に特に力が入れられている。 注意すべきは、本書は米国民向けに書かれたものであり、アメリカの歴史や文化、制度の理解を前提とした、解説に乏しい記述がしばしば見受けられる (訳者も「訳者あとがき」で述べていた)。 日本でも民主主義の衰退が嘆かれるところであるが、本書を読めば、正直なところかなりマシと言えることがわかる。それほどに米国の荒廃は深刻である。 本書で大いに示唆されている通り、共和党の判事人事の影響力の強さから、米国の最高裁判決は大いに右傾化している。日本はここまで深刻ではなく、健全な方である。 日本では全住民に投票所入場券が配られ、投票日は日曜日で、かつ期日前投票・不在者投票制度も充実している。米国では有権者が自発的に選挙人名簿に登録する必要があり、投票日は火曜日で、期日前投票も充実していない。共和党の郵便投票への猛反発は記憶に新しい。 日本では選挙の区割りは中立的に慎重に行われている。米国は州ごとに区割りを定めるため、特に共和党の強い州では恣意的なゲリマンダリングが行われている。本書第8章では、民主党は共和党より7%多く得票せねば下院を主導できないと述べられている。 日本では政治改革により政治献金の規正が行われたが、米国にはそれにあたるものがなく、民主党・共和党双方が莫大な政治献金を受け取っている。 …こうして日本と比較してみると、いかに米国の民主主義が深刻な危機にあるかが実感できる。正直に言って、私はこの修復の難しさに絶望してしまった。現状をとらえ、改善を模索している米国民に敬意を抱く。 日本語訳は、主張の肯定的・否定的ニュアンスをうまく反映できていないような語の選択がところどころ目立った。もっとも、致命的に悪いところは全くなく、概して素晴らしい出来であった。著者・訳者に感謝したい。
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1.格差拡大=FTE部門FinanceTechnologyElectronics 高付加価値部門として経済成長を牽引 所得も傾斜配分 「教育投資」が鍵だが、高い階層の固定化の弊害も 2.3種類の資本(FTE部門) ①物的資本 製造資本 機械・建物 ②人的資本 教育からの利益 ③社...
1.格差拡大=FTE部門FinanceTechnologyElectronics 高付加価値部門として経済成長を牽引 所得も傾斜配分 「教育投資」が鍵だが、高い階層の固定化の弊害も 2.3種類の資本(FTE部門) ①物的資本 製造資本 機械・建物 ②人的資本 教育からの利益 ③社会資本 教育の重要性 3.階層間移動の困難化 「教育費の高騰」 学資ローンの巨大化 40百万人1兆2千億ドル@3M円 高所得階層の固定化=特権階級の形成 4.社会の崩壊へ向かうか FTE部門は納税を回避 国家の財政収入は不足 社会資本の劣化 教育費の個人負担増加 バイデン大統領 企業・富裕層の税負担適正化は鍵 5.不平等のモデル・理論 トマ・ピケティ 21世紀の資本 W.アーサー.ルイス 二重経済論 ロバート・ソロー 二部門分割 サイモン・クズネッツ
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二重経済モデルは、アメリカには当てはまるかもしれないが、同じように、中間層がシュリンクしている日本社会には、このモデルは当てはまるのか?特に、FTE部門が、政治力を使って、低賃金部門の賃金を低く抑えているというのは、あたらないように思える。ただ、それでも、中間層はシュリンクしてい...
二重経済モデルは、アメリカには当てはまるかもしれないが、同じように、中間層がシュリンクしている日本社会には、このモデルは当てはまるのか?特に、FTE部門が、政治力を使って、低賃金部門の賃金を低く抑えているというのは、あたらないように思える。ただ、それでも、中間層はシュリンクしている。それを、どう理解するか。 日本の場合は、30年間続くデフレの中、価格をあげられないという理由で、経営側が、従業員の賃金を低く抑えてしまっている。株式市場の評価に左右されているという意味では、経営層は、広い意味でFTE部門の一部と言ってもよいのかもしれない(かなり無茶苦茶だけど・・・)。政治力を使ってというと「意図」を感じるが、経営側の場合、賃金を低く抑えるのは一義的ではなく、利益を上げないといけないことから派生しているのが、なかなか変わらない(変われない)理由でもあるかもしれない(キーエンスのように、高賃金・高利益の会社もある訳だけど・・・)。
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レビューはブログにて https://ameblo.jp/w92-3/entry-12649337269.html
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
論文の翻訳なら良しとするが、一般書の翻訳としては、不可。直訳すぎて、意味不明で文脈がたどれない箇所が至るところにある。民主党の主張の理論的根拠が簡潔にまとまっている。
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アメリカでは人種と階級は絡み合っている。別物とはいえない。 ルイスモデル=二重経済モデルでアメリカを分析する。 本来発展途上国のモデルだが、富裕層と貧困層に分けるとアメリカにも適用できる=FTE部門(金融、技術、電子工学)と低賃金部門。 中間層が減り、両極化した。 教育によって、...
アメリカでは人種と階級は絡み合っている。別物とはいえない。 ルイスモデル=二重経済モデルでアメリカを分析する。 本来発展途上国のモデルだが、富裕層と貧困層に分けるとアメリカにも適用できる=FTE部門(金融、技術、電子工学)と低賃金部門。 中間層が減り、両極化した。 教育によって、FTE部門へ移動できる可能性がある。しかし、教育費などのハードルは高く、高等教育を受けても必ずしも競争に勝つわけではない。 高賃金と低賃金が増えて、中賃金が減っている。 白人低賃金層が増加=かつての中間層。 アメリカだけが独別ではない。ヨーロッパでも賃金は同じ傾向いある。 成長から取り残された最貧困層、新興国(中国など)の所得上昇、先進国の中間層の衰退、グローバルエリートの繁栄。 アメリカは産業が空洞化していて、経済的には発展途上国に近い。 グズネッツ曲線が世界大戦後の異例の時期に限って有用。この時期は、成長率が利子率を上回っていた。
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W・アーサー・ルイスの二重経済モデル(ルイス・モデル)をアメリカの分析に援用した本。 所得階層上位2割が属するFTE(金融、テクノロジー、エレクトロニクス)部門と低賃金部門に経済および社会が分断されているとみる。 FTE部門の人々は自らの利益のことしか頭になく低賃金部門を顧み...
W・アーサー・ルイスの二重経済モデル(ルイス・モデル)をアメリカの分析に援用した本。 所得階層上位2割が属するFTE(金融、テクノロジー、エレクトロニクス)部門と低賃金部門に経済および社会が分断されているとみる。 FTE部門の人々は自らの利益のことしか頭になく低賃金部門を顧みない。政策を決める政治も二重経済を反映して二重政治となっている。FTE部門の人々が金によって政治を自らの利益に資するようコントロールしている(政治の投資理論)。 低賃金部門からFTE部門への移動には公教育(特に貧困層が集中する都市部の教育、高等教育)の充実が必要だが、FTE部門の関心の外のため、それはなされていない。 最後に、分析を踏まえた提言あり。 猪木武徳の解説には「些細なことを厳密に議論するよりも、大事な問題を少し大まかに議論することも、時にははるかに望ましい姿勢だと教えられる。」(264ページ)という読後感が書かれていた。
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