ウィニング・アローン の商品レビュー
400mHのメダリストである著者による、自身の競技生活の振り返りの本。競技の選択のしかたから、引退との向き合い方まで、幅広く語られている。 全体を通して、競技にまつわるアドバイスをするような内容になっている。本書が対象として想定しているのは著者と同じようなアスリートたちだと思うけ...
400mHのメダリストである著者による、自身の競技生活の振り返りの本。競技の選択のしかたから、引退との向き合い方まで、幅広く語られている。 全体を通して、競技にまつわるアドバイスをするような内容になっている。本書が対象として想定しているのは著者と同じようなアスリートたちだと思うけれど、それだけではもったいないと感じた。自分を成長させたいと思う人や、なにか突き抜けた成果を上げたいと思う人にとって、共通して参考になるものが書かれているのではないか。例えばなにかに継続して取り組むことの功罪。例えばロールモデルの上手な選び方。あくまでアスリートとしての視点から語られてはいるものの、もっと普遍的なことに通じるものがあるような気がした。トップクラスにいた人が自身の体験に基づいて書いているし、失敗談も明かしてくれているので、説得力がある。 個人的に印象的だったのは、トップの選手にとって、科学には限界があるということ。多くの人で検証して共通する傾向を見出すのが科学だから、統計的には例外の存在であるトップアスリートは、科学的な理論の先を行かなければならない領域がある。とはいえなんでも闇雲にやるのではなく、自分の体を観察して、試行錯誤しながらやっていく。いろいろな技術が発達して、スポーツにも科学的な視点がたくさん入り込んでいると思うけど、トップアスリートは時にその埒外に踏み出さないといけない。勇気が必要だし、自分の体を理解していないと正しい方向には進めないのだろうなと思った。 終始、淡々とした語り口で、文章も分かりやすく読みやすい。体の使い方を説明するところなどでは比喩も多く、イメージがわきやすかった。 自分も高校時代は陸上部で400mHをやっていた。本書を読んでから当時を思い返すと、勝つためというより、練習することそのものが目的になってしまっていたと気づいた。そもそも全然勝てる選手じゃなかったけれど、それでも、当時この本に出会えていたら、部活への取り組み方が変わっていたと思うし、それ以外の生活全般で過ごしかたが変わっていた気がする。 今回、本書を読んで初めて知ったけれど、著者の著作はほかにもけっこうあるようだ。文章がうまく分かりやすいのも何だか納得。他にも読んでみたい。 「はじめに」に東京オリンピックをきっかけに本書を執筆したとある。そして「おわりに」で新型コロナウイルスによるオリンピックの延期について触れ、「この夏」に向けて準備してきたアスリートの辛さに寄り添うとともに1年後に向けたエールが送られている。トップアスリートだけでなく部活などの成果を発揮しようとしていた学生など、全てのアスリートが、練習の成果を発揮して勝負ができる場が、一日も早く復活することを祈っています。 (NetGalleyで閲覧、その後購入)
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