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いますぐ彼を解きなさい の商品レビュー

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2020/08/22

ジョバンナ・デル・ジューディチェ著、岡村正幸監訳、小村絹恵訳『いますぐ彼を解きなさい』(ミネルヴァ書房、2020年)はイタリアの精神医療の改革の取り組みをまとめた書籍。患者を拘束しない精神医療を進めた。患者の拘束は多くの場合、鎮静剤など薬物とセットである(46頁)。患者を拘束しな...

ジョバンナ・デル・ジューディチェ著、岡村正幸監訳、小村絹恵訳『いますぐ彼を解きなさい』(ミネルヴァ書房、2020年)はイタリアの精神医療の改革の取り組みをまとめた書籍。患者を拘束しない精神医療を進めた。患者の拘束は多くの場合、鎮静剤など薬物とセットである(46頁)。患者を拘束しない医療は薬物に頼らない医療でもある。暴力と薬物乱用は同じ問題である。 拘束や薬物で管理する日本との落差は大きい。監訳者の「刊行によせて」では落差を「一九六〇年代のいわゆる『政治の季節』といわれた時代が、その後にどのように引き継がれたのかということによって大きな違いを見せている」と分析する。これはどうだろうか。 日本の社会運動界隈に「昭和は良かった。新自由主義が入ってきて駄目になった」という感覚が根強いことは知っている。その問題意識で患者の拘束を論じることは、本質をつかめなくなるのではないか。患者の拘束は昭和からの所産である。 私は1960年代に生まれておらず、60年代を実際に体験していない。それは限界であるが、ニュートラルに評価できる立場である。そこからすると昭和ノスタルジーが有害ではないかと感じている。60年代の問題意識は多様化する21世紀の問題意識に対応できていないのではないか。 現実にイタリアで改善されたきっかけもゼロ年代に起きた拘束患者の死である。20世紀末からの改革ムーブメントの成果と言えないか。21世紀の個人主義や権利意識の深まりが変革の原動力と見るべきではないか。日本の停滞は60年代の所産を活かせないことよりも20世紀末からの改革ムーブメントを活かせないことではないか。 イタリアの改革は官僚的な受付とは正反対の姿勢で対応した(33頁)。これは公務員感覚と真逆の民間感覚である。新自由主義的改革と親和性を感じる。 ケアに対して「歓待」という言葉が用いられている。これは「過剰にお客としてもてなすというより、その家の一員のようにくつろぐことを指している。例えば、自分の家に他者を歓待するということは、家にあるものは何でも食べていいし、冷蔵庫も自由に開けていいということである」(63頁)。これもコミュニティー重視とは真逆の個人主義と親和性がある。 一方でヨーロッパ理解を北型知と南型知に分ける視点は斬新である。日本のヨーロッパ理解は効率化や均一化の北型知に偏っていた。脱中心や感覚を大事にする南型知への理解が欠落していたとする。 日本ではアングロサクソン型と大陸型の分類が主流である。この枠組みではアングロサクソン型の市場主義を批判したい立場は大陸型を持ち上げることになる。それは官僚主導の中央集権型管理主義に帰着しかねない。 北型知と南型知の分類軸ではスローフードは南型知になるだろう。スローフードはアメリカ型資本主義のアンチテーゼと位置付けられがちである。経済成長優先へのアンチテーゼという意味では正しいだろう。しかし、市場主義も個人の選択を重視する分散型のシステムである。官僚的な管理主義をまず問題視すべきだろう。

Posted byブクログ