ラディカル・ミュゼオロジー の商品レビュー
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現代美術の批評家として第一線を走るクレア・ビショップの論考。「コンテンポラニアティ(contemporaneity)=現代性/同時代性/共時間制」という概念を示し、3つの美術館をその概念を実践する具体例として取り上げている。この概念とは、美術館が所有するコレクションを使用するなどして、過去から現在を理解し、また未来に引き継ぐこと(本書で示されている言葉で言えば、ベンヤミンの星座的布置)を意味している。ビショップが目指すのは、この概念を使用することによって、現代美術作品が今日晒されている経済価値=作品価値というシステムを打破しようとするところにあると言えると思う。美術館がこれから先、一体どのような対処をとっていくのか(またはとらないのか)に私自身も興味があり、楽しく読ませて頂いた。しかしながら、これから先、ビショップだけの実践方法だけで乗り越えられるのか、は甚だ疑問である。鑑賞者は不満を抱くのではないかとも思った(私たちの思考をアップデートする必要があるのかもしれないが)。訳者による、解説も面白かった。美術館を取り巻く問題を示しながら、最後には「今の多くの現代美術館に欠如しているのは、何のために、誰のために我々は学び、美術館を社会に位置づけようとしているのかという、大前提であるように思えた」という言葉には胸を打たれたし、根本的な見直しは喫緊の課題である。
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・“Antagonism and Relational Aesthetics(敵対と関係性の美学)”(2004)など若くして国際的に現代芸術シーンを牽引する論客となった著者ならではの視点で説かれる美術館展示論といったところ。章によっては議論を十全に理解するために事前知識が必要なところもあるが、翻訳は総じて明瞭だと感じた。 ・現代美術について、ではなく、美術館で作品展示をする際にいかにそこに現代性を引き込むか、あるいは美術館のコレクション自体を化石化させず、いかに同時代的な鑑賞の枠組みを提示するか、といった問いが全体を貫いている。こうした問いの前提には、「美術作品は複数の時に現前するためにそもそもアナクロニスティックな存在なのだ」という見方があることがポイント。 ・contemporaryのcon-は同時的であり共時的な美術作品特有の時間性を示すものだと強調し、ファン・アッべミュージアム、ソフィア王妃芸術センター、メテルコヴァ現代美術館を三者三様の例として提示するなかで、コレクション展示のアクチュアルなあり方を問う。 ・取り上げる展示の意味や意義の所在を確認するなか、特にそれを政治性に求めていこうとするのは筆者のスタンスによるものだとして看過すれば、今後の美術館のコレクション展示を考えていく上で非常に示唆的だった。特に日本ではまだまだ常設展の工夫が足りていない、あるいは展示において旧来の規範に囚われすぎているきらいがあると感じるので、その現状を打破するために本書は一つの理論的支柱となるように思えた。
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