富嶽(上巻) の商品レビュー
太平洋戦争の後半、日本はアメリカのB29による空襲で都市や工場に著しい被害が出ました。当時、戦局を打開するためにB29を上回る規模の超大型爆撃機が計画されており、それが「富嶽」と名付けられていました。計画を進めていたのは当時の日本の航空機生産を担っていた中島飛行機。日本を飛び立ち...
太平洋戦争の後半、日本はアメリカのB29による空襲で都市や工場に著しい被害が出ました。当時、戦局を打開するためにB29を上回る規模の超大型爆撃機が計画されており、それが「富嶽」と名付けられていました。計画を進めていたのは当時の日本の航空機生産を担っていた中島飛行機。日本を飛び立ち、太平洋を無着陸で横断してアメリカ本土の軍事施設や主要都市を爆撃し、そのまま大西洋を横断してドイツ占領下のヨーロッパに着陸するという途方もない計画で、想定された機体の規模は航続距離17000km、エンジンは5000馬力が6機で計30000馬力、高度1万メートル以上を巡行して最高速度は680km/時という性能を全幅65m、総重量160tの機体に収めるという物でした。これは現在の大型旅客機B777に匹敵する大きさです。 当時日本の航空機は世界的な水準にかなり肉薄したとは言え、エンジンは2000馬力がせいぜいで、双発(1機の機体にエンジンが2基)機までしか実用化されておらず、4発機でさえ実用段階には達していない状況でした。 このとてつもない計画を立案したのが中島飛行機の設立者である中島知久平です。全編で400ページ超の上下巻というボリュームのうち、上巻では中島知久平が中島飛行機を設立し、戦時の社会情勢から主要メーカーへと発展させるまでの経緯を数多くの元設計者などの証言や文献を元にたどります。 単なる兵器もの、戦記物ではなく、航空機産業の歴史をたどりつつ、航空機産業が発展するにはどのような歴史的背景があって、何が必要であったのかを丹念に辿っています。本書の著者はかつて某大手重工業メーカーに勤務してジェットエンジンの設計にも携わっており、航空機だけでなく船舶や車などあらゆる分野の産業史に造詣が深く、それだけに本書も技術的な裏付けや記述が非常に正確かつ読みやすく書かれています。本書は1990年代に発刊された後に絶版になっていたのですが、ようやく草思社文庫から復刊となり、すぐに購入して読みました。期待を裏切らない情報の量と深さに400ページを一気に読んでしまいました。
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