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未知の鳥類がやってくるまで の商品レビュー

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8件のお客様レビュー

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2024/05/17

朱入りの原稿を紛失した校正係があてどなく町を彷徨う表題作ほか、日常と地続きな常温の幻想を描く短篇集。 西崎さんの小説は『世界の果ての庭』『蕃東国年代記』『本の幽霊』を読んできたが、どれも好みにハマる一歩手前でチューニングが合わないという感想だった。 だが、今回はフィクションを...

朱入りの原稿を紛失した校正係があてどなく町を彷徨う表題作ほか、日常と地続きな常温の幻想を描く短篇集。 西崎さんの小説は『世界の果ての庭』『蕃東国年代記』『本の幽霊』を読んできたが、どれも好みにハマる一歩手前でチューニングが合わないという感想だった。 だが、今回はフィクションを読む気が起きないけれどフィクションを読みたい気がするというこちら側のふあふあしたコンディションがちょうどよかったのか、本書の収録作は馴染むというか、気分にしっくりきて浸透してくる感じがあった。 なんというか、散歩をしているような感じだ。他愛ないものを凝視してみたり、一瞬通り過ぎたものを追いかけても何も見つけられなかったり、ボーッと見た景色のなかに啓示を見つけてみたり。こういう「考えながら町を歩いているときの気分」を再生してくれるような本は好きだし、今求めていたものだったと思う。 以下、気に入った作品の感想。 ◆「行列」 青空を横切っていく異形のものたちを見上げているだけの話。まさに散歩している気分になる小説だと思う。行列をなすものたちは黄道十二宮と対応しているわけではないが、獣帯という呼び方を思いだすような面々だ。「誰も見ていない」というわりに気付いた人間は何人もいて、けれど大パニックになったりはしない。日常はそれほどに強固で、人は啓示に気づかぬふりをする。 ◆「おまえ知ってるか、東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七星になるって」 タイトルが一番素敵だ。舞台は首都直下型地震が起きたあとの東京だけど、ポストアポカリプスってほどじゃない。足穂オマージュ? 魔術師のヒムカくんは飛ぶ力を持っているのに、紀伊國屋の北斗七星の先にある北極星へは電車で行く。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』には、語り手が廃墟化した図書館で本が価値を失ったと悟るシーンがあったなぁなどと思いつつ。 ◆「箱」 これは個人的に澁澤龍彦「箱の中の虫について」を連想せずにいられない。ただ、あの官能的な秘密の共有感はないので、あくまでホラー寄りの幻想小説って感じ。虫が嫌いなので本当にゾッとした。鈴木其一の屏風絵を思いだしたり。 ◆「未知の鳥類がやってくるまで」 これ!これが素晴らしい。校正係の彷徨と啓示の物語。「間違いを正す」校正の仕事と語り手の頑なさがリンクして、酷い目にあっていながら体調より原稿を優先させてしまうあたりの悲しさとおかしさがクラリッセ・リスペクトルの『星の時』みたいでもある。レストランもカフェも幻想的な空間として描かれているわけではないのだが、必要としているときに押し付けがましくないかたちでそこにあってくれる、ということが一つの奇跡だと感じる日はある。 ◆「スターマン」 語り手とスターマンの関係性がなんかよかった。 ◆「一生に二度」 『世界の果ての庭』タイプの話。西崎さんにとって本を読むってこういう体験なんだろうな。

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2021/06/25

幻想小説または奇想小説というべきか。不思議な世界を描いた短編集。既視感がある文体やストーリー展開と感じたのだが、何が原因だろうか。大きなカタルシスを感じることがなく、とはいえもう少しで気持ちがいい領域に行きそうなところまでは感じた。私にとっては苦手な部類に入る作品である。だが、も...

幻想小説または奇想小説というべきか。不思議な世界を描いた短編集。既視感がある文体やストーリー展開と感じたのだが、何が原因だろうか。大きなカタルシスを感じることがなく、とはいえもう少しで気持ちがいい領域に行きそうなところまでは感じた。私にとっては苦手な部類に入る作品である。だが、もう少し読んでいけば癖になる可能性もある。好みだったのは、「行列」と「箱」。「行列」には美しさを感じたし、「箱」では田舎で代々伝わる習わしのような怖さを感じた。

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2021/05/14

何の情報もなく読み始めたので(恥ずかしながら著者のお名前さえも知らなかった)、まだ発見されていない鳥の話だと思っていた。 わたしは鳥が大好きなのだ。 でもこの本は違う。 最初の『行列』を読んだとき「あぁ、こういう感じか」と思った。とても感覚的な文章。ストーリーではなく、言葉の美...

何の情報もなく読み始めたので(恥ずかしながら著者のお名前さえも知らなかった)、まだ発見されていない鳥の話だと思っていた。 わたしは鳥が大好きなのだ。 でもこの本は違う。 最初の『行列』を読んだとき「あぁ、こういう感じか」と思った。とても感覚的な文章。ストーリーではなく、言葉の美しさや行間の静けさ、ここから受け取ったイメージを自分の心に投影して、それを眺めるような。 わたしには難解過ぎるのではないだろうかと思ったが、読み進めてみるとなかなか面白く、『箱』『東京の鈴木』『開閉式』「一生に二度」など楽しく読めた。 とはいえ、ストーリー性を重視する傾向が強い最近のわたしには、少し不向きな短編集だったかなと思う。

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2021/03/13

不思議な読後感。ページを捲ると、ひゅん、と一瞬で別の世界に連れていかれるような感覚。別の世界というか、日常と非日常の隙間にストンと落ちる感じかも。 表題作と「おまえ知ってるか、東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七星になるって」が好きだった。

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2021/01/01

ひとつひとつの長さも、言葉も、 なにがではなくいい。 静かで青く霞んで、寂しくて、ちょっと優しい。 ちょっと小難しく振る舞うのも好き。 並んでほしい漢字や言葉があるのも好き。 10個のおいしい飴 . 行列(プロセッション) おまえ知ってるか、東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七...

ひとつひとつの長さも、言葉も、 なにがではなくいい。 静かで青く霞んで、寂しくて、ちょっと優しい。 ちょっと小難しく振る舞うのも好き。 並んでほしい漢字や言葉があるのも好き。 10個のおいしい飴 . 行列(プロセッション) おまえ知ってるか、東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七星になるって 箱 未知の鳥類がやってくるまで 東京の鈴木 ことわざ戦争 廃園の昼餐 スターマン 開閉式 一生に二度

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2020/05/28

未知の鳥類がやってくるまで 西崎憲氏 幻想と日常のはざま描く 2020/5/16付 日本経済新聞 朝刊 翻訳家や音楽家など多彩な顔を持ち、8年ぶりとなる小説作品集を刊行した。「日常と何かが違う『気配』や『感触』を書きたい」。現実と非現実が溶け合う幻想的な短編を10作収める。「...

未知の鳥類がやってくるまで 西崎憲氏 幻想と日常のはざま描く 2020/5/16付 日本経済新聞 朝刊 翻訳家や音楽家など多彩な顔を持ち、8年ぶりとなる小説作品集を刊行した。「日常と何かが違う『気配』や『感触』を書きたい」。現実と非現実が溶け合う幻想的な短編を10作収める。「人間の想像力や夢を核にした」短編集だ。  にしざき・けん 55年青森県生まれ。作家、翻訳家、音楽家。文学ムック「たべるのがおそい」の編集長を務めた。著書に『世界の果ての庭』『全ロック史』など。 「みんな理屈がわかった顔をして生きているけど、実際は世界の9割ぐらいのことは分かっていない」「不思議なことや解釈できないことの裏にも暗号やコードが隠れている。そのコードが分からないように書くと、こういう小説になる」 現実に似ているようで、どこかねじれた奇想の世界をつづった。「不思議なことを作為的ではなく淡々と書ければ」との思いでつづった文章は、大げさでなく静かで美しい。 書き下ろしの表題作は、出版社に勤める主人公が校正刷りを無くしてしまうところから始まる。台風の日の深夜に開いているレストランや、早朝から上映する映画館など、現実と夢の境のような場所を描く。「執筆の2週間前に台風が来た。誰もいない駅などの非日常感が強く頭に残っていた」という。 「春と夏、昼と夜の境はいつなんだろうとよく考える。人間も友達と話すときや会社にいるときなど、いくつも人格を持っていて、そのボーダーにこそ人間の状態が表れている」。ものごとの「境界」が溶け合う空間を表現した。 物語のプロットは「朝起きたら頭の中にある」。日中に考えていたことが、明け方に夢うつつで形になるのだと明かす。「相反するものを結びつける詩的な考え方」が発想のベースにあるという。 どの作品も、幻想に酔っているうちに終わりを迎え、狐(きつね)につままれたような余韻が残る。「繰り返し読める重層的な作品」をめざしたという通り、ページをめくるたび新しい印象を受ける。これからも「『すごい』としか言えなかったり、言葉を失ってしまったりする」小説を書いていきたい。(筑摩書房・1700円)

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2020/04/29

とてもすきだった。 不穏で不可解。ときどきぎくりとさせられる。でも思いがけぬユーモアや、やさしさとしかいいようのない感覚にも包まれる。 ・表題作「未知の鳥類がやってくるまで」は、そのやさしさに触れて、ちょっと涙がにじんだ作品。タイトルもすごく好きだけど、鳥は、出てこない。 ・...

とてもすきだった。 不穏で不可解。ときどきぎくりとさせられる。でも思いがけぬユーモアや、やさしさとしかいいようのない感覚にも包まれる。 ・表題作「未知の鳥類がやってくるまで」は、そのやさしさに触れて、ちょっと涙がにじんだ作品。タイトルもすごく好きだけど、鳥は、出てこない。 ・冒頭の「行列」は、不可解がきわまってユーモアを感じる作品。長新太の絵本『ちへいせんのみえるところ』を思い出した。 ・「おまえ知ってるか、東京の紀伊國屋を大きい順に結ぶと北斗七星になるって」なんでこういうすてきなタイトルが浮かぶのかな。雑誌「たべるのがおそい」もそうだったけど、命名のセンスが絶妙。西崎作品に出てくる少年たちって、子どもっぽさと妙に悟りすましたような大人びたところが同居していて好き。少年の冒険談。 ・「箱」と「開閉式」は不気味さを存分に味わう作品。意味わからんといえばそうなんだけど、「開閉式」なんか、比喩というよりももっと生々しく直感的に「こういう扉ってあるかも」と思わせられる。 さまざまな彩りの作品をあつめた充実の短編集でした。

Posted byブクログ

2020/04/04
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

西崎憲の最新作。 丸善ではSFの棚にあったが、幻想小説の棚でも良いような気がする。読んでいる最中の酩酊感が非常にキモチイイ。

Posted byブクログ