世界経済史から見た日本の成長と停滞 の商品レビュー
これはこれで非常に貴重な研究であるとは思うが、やはり限界は感じる。資料の制約があるとはいえ、もっと突っ込んだ研究があってしかるべきではないかと思う。そのせいか、著者の主張する日本経済への提言は今一つと言わざるを得ない。
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超長期の世界経済史のデータを用いながら、日本の経済成長および停滞の要因を分析した数量経済史の成果である。 序章では14世紀から19世紀末の近代的経済成長の本格化までの時期が、世界各国との比較に基づき分析されている。14-15世紀にはアジアでもとくに貧しかった日本が17世紀にはイ...
超長期の世界経済史のデータを用いながら、日本の経済成長および停滞の要因を分析した数量経済史の成果である。 序章では14世紀から19世紀末の近代的経済成長の本格化までの時期が、世界各国との比較に基づき分析されている。14-15世紀にはアジアでもとくに貧しかった日本が17世紀にはインドを、18世紀には中国を1人当たりGDPで抜く。ポメランツの「大分岐」になぞらえてアジアにおける「小分岐」が起こった。この理由については、本書のpp.37-38に簡潔にまとめられているが、地方分権的な競争、非農業の発展を促すような制度的枠組み、幕藩体制下での統治の安定、知識の普及などが挙げられている。一方、西欧諸国に遅れた理由としては、「鎖国」による財や人の国際間移動の制限が主たる要因として考えられるとしている。 序章で概観された近代的経済成長の本格的な開始以前の状況を踏まえて、第1章ではまず1885〜2018年までのおよそ150年間における成長の源泉について成長会計分析がおこなわれている。成長会計分析そのものはなじみ深いものなので、学部学生でも容易に理解できるだろう。ここでは主に英米との比較がおこなわれている。 第2章〜第5章までは日本の近代的経済成長の時期を4つに区切り、明治維新から第1次大戦まで、第1次大戦から戦時期まで、戦後の高度経済成長期、そして1970年代から現在までの時期に分けて、分析されている。概ね今まで言われてきたことがあらためて確認されているという感じがするが、とくに地域間格差の分析を詳細におこなっている点が新しい。また第5章の最後では近年の停滞原因の一つである全要素生産性(TFP)の停滞について、製造業と非製造業に分けて分析がなされている。一般に高度成長期に解消されたとされる「二重構造」の問題が近年ひときわ高まっているとの指摘は重要だと思う。 終章は「停滞脱出への方策」として労働生産性引き上げの余地がもっとも大きい4つの分野について、①非正規雇用と働き方改革、②二重構造、③貯蓄超過問題、④対外経済政策が提示されている。
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