良き統治 の商品レビュー
原著2015年刊。 私があまり手を出すことのない政治学の著作だが、内容がたいへん充実しており様々な示唆を与えてくれる良書だった。タイトルが古めかしいのは良くない。 母国フランスの政治史について詳しく書かれているのは必然ながら、イギリス、アメリカ、ドイツなど、他国の「民主主義...
原著2015年刊。 私があまり手を出すことのない政治学の著作だが、内容がたいへん充実しており様々な示唆を与えてくれる良書だった。タイトルが古めかしいのは良くない。 母国フランスの政治史について詳しく書かれているのは必然ながら、イギリス、アメリカ、ドイツなど、他国の「民主主義」体制についても多く記述してある。 もともと私も「政治には関心がない」クチであったが、第2次安倍政権という悪辣極まりない政治を目撃し、大衆の無関心や投票権の放棄それ自体が、悪政を支えているのであって、自分は政治には関係ないというスタンスそのものが政治システムの一環であり、誰もが例外なく巻き込まれていると同時に、それぞれに責任があるのだと痛感した。安倍政権はまず人事権を悪辣にふりかざすことによって、内閣人事局で官僚を家来のように服従させ、内閣法制局を骨抜きにし、警察や検察を意のままに操り、最高裁の裁判官でさえ好みの人間に総入れ替えして司法をも蝕み、マスコミには激しく圧力をかけ、NHKは人事を介して完全に政権の広報機関へと化けさせた。 このような悪政が日本で可能であったことに私は驚愕した。日本の民主主義は、全然民主主義ではなかった。 本書によると、フランス革命の頃に政治の非人格化が図られ、議会による「立法」を通して「民主主義」の要とした。しかし、立法ではなく「執行権」の方がどんどん強力になっていき、フランスでもしばしば権力の「人格化」が復活してくる。さらに「執行権」は増強され、各国ともに現在は権力の「大統領化」が進んでいるという。冷徹な知性による、法による統治がいつの間にか恣意的な、人格的な支配へと変質してしまうのだ。「民主主義」の痕跡は、こんにちの日本がそうであるように、「選挙」のみに限定されてしまうと、政党は選挙のためだけにキャンペーンを張り、いわば私欲のために動くだけのシステムになってしまう。 フランスでは19世紀前半において既に、このような「選挙だけの民主主義」は批判されていたらしいが、日本は現在このレベルであるに過ぎない。 著者は執行権に基づく権力は透明性をもって諸事を公開し、民衆の要求に応答しなければならない、と強調している。権力を監視することそのものが民主主義には必要になる。権力は絶えず裁かれなければならない。 日本の安倍政権はマスコミ各社のトップを「会食」を繰り返して彼らをペット化したのだが、このようにして公開すべきことを公開せず、大衆を無知のままにし、大衆側もテレビのバラエティなんかで痴愚化され、20世紀末頃からは労働組合も度重なる弾圧で無力化されたこんにち、ひどい貧困状態に陥りながらも、愚かな大衆は「他に選択肢がないから自民党に投票する」という罪を繰り返すだけだった。 日本の民主主義はあまりにも幼稚だ。本書に記されているような、権力を弾劾するシステムをもっと確実に作っていなかったのは致命的だった。憲法を改正したいというなら、そのような権力監視機関の確保、情報公開、あくどい権力者をただちにリコールする装置を制定するべきで或る。 そもそも、本書のような、ラジカルで広く深い学識に基づいた「政治学」は、日本に存在するのかどうか、怪しいと思う。 こんなに有意義な本なら、私も政治学の本を更に読んでみたいと思う。
Posted by
- 1