テロルはどこから到来したか の商品レビュー
著者の1980年代から2010年代のエッセイ・評論のうち、フランスを主な舞台とした暴力と抵抗、テロル、イスラームに関する文章をまとめた書籍。巻頭には2015年のシャルリ・エブド事件とパリ同時テロ事件を受けて書かれたエッセイが置かれているが、上記の編集方針自体がひとつの歴史的パー...
著者の1980年代から2010年代のエッセイ・評論のうち、フランスを主な舞台とした暴力と抵抗、テロル、イスラームに関する文章をまとめた書籍。巻頭には2015年のシャルリ・エブド事件とパリ同時テロ事件を受けて書かれたエッセイが置かれているが、上記の編集方針自体がひとつの歴史的パースペクティブを示すものとなっている。 フランスを舞台としたテロルだけではない。抵抗と暴力、戦争という観点から見ていくと、いかに世界の複数の出来事がつながっているのか――「事件」は孤立して起きているわけではない――が深く実感される。著者は、アーレントの全体主義にかんする洞察を引きながら、第二次世界大戦後の国際秩序が「嘘と欺瞞」を土台にして出来上がっていること、南アフリカのアパルトヘイトとイスラエルのナショナリズム・国家暴力が強い「被包囲幻想」に裏打ちされていることなど、「いま・ここ」を考える上でもきわめて重要な示唆が書き込まれている。その伝で云えば、戦時末期の日本の国民共同体も「被包囲幻想」によって駆動されていたことは否定できない。
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