潜伏賢者は潜めない ~若返り隠者の学院戦記~ の商品レビュー
「人狼への転生、魔王の副官」シリーズの漂月さんが始めた、ちょっと癖のある魔法学院物である。 オーソドックスな学院内で完結する物語ではなく、その学院に求められている能力があまりに一律化されていることに疑念を持ち、探りを入れていくことで物語が転がっていき、最終的には「学院戦記」と...
「人狼への転生、魔王の副官」シリーズの漂月さんが始めた、ちょっと癖のある魔法学院物である。 オーソドックスな学院内で完結する物語ではなく、その学院に求められている能力があまりに一律化されていることに疑念を持ち、探りを入れていくことで物語が転がっていき、最終的には「学院戦記」という副題が二重の意味で描かれていくことになっている。 この作品は少し評価が難しいというか、評価が分かれるところがあるように思える。 というのも、おそらく主題は 「学院というものは社会の一環であり、特に資源の限られる中世ファンタジー的世界観では明確な目的があって設立・運営されるものである」 といったものだろうと思われるからだ。 その視点から、牧歌的である種現代的な典型的学院物語に別視点を導入しているのが今作の特徴だろう。 破壊魔法を教えることに特化した学園、それも国立の学園である以上は、当然ながら「破壊に特化した魔術師」を育成することが目的であり、その背後にあるものは明確だ。 また、社会制度が未発達な状況では汚職が生まれやすく、学園の運営そのものも現代日本的な優良性は望みがたい。 そうした「現実的な異世界ファンタジー世界の学園」を生々しく、それでいて漂月さんらしく簡素に描いた作品である。 ただ、それだけに「ファンタジーの学園物を読みたかった読者」に対して、ある種の肩透かしを食らわせてしまう側面も否めない。 なおかつ、潜伏賢者は潜めないというタイトルのわりに、主人公のシュバルディンにはあまり潜む気がなく、性格的にも好戦的である。そこはギャップを感じやすいところだ。 漂月さんらしい緻密な世界観構築がある一方で、物語はタイトルからギャップを感じやすく、舞台設計に対する読者の期待にズレが生じやすい物語でもある。 主人公の好戦的な態度も、ある種、典型的ななろう小説の主人公っぽくも見えて、その辺は好き嫌いが分かれそうだ。 その辺の癖を理解した上での購入をお勧めしつつ、ここでは星四つ相当と評価したい。
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