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岩井克人「欲望の貨幣論」を語る の商品レビュー

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18件のお客様レビュー

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2020/12/11

『私たちは、自由が増えれば安定性が減り、安定性を増やすと自由が減ってしまうという、「自由と安定との二律背反」の中で生きて行かざるをえません』―『第1章 「ビットコイン」は究極の貨幣か』 「欲望の資本主義」シリーズは観るのを楽しみにしている番組の一つだ。主に経済学の立場から現在進...

『私たちは、自由が増えれば安定性が減り、安定性を増やすと自由が減ってしまうという、「自由と安定との二律背反」の中で生きて行かざるをえません』―『第1章 「ビットコイン」は究極の貨幣か』 「欲望の資本主義」シリーズは観るのを楽しみにしている番組の一つだ。主に経済学の立場から現在進行形で起きている汎世界的な金融経済問題の本質に迫ろうとする取り組みだが、追いかける主題は、資本主義を成立させる売買が結局は人間の欲望に根差したものであって、その欲望には際限がないものだ、という事に毎回行きついているように思う。であればどうすれば良いのか、ということもまた番組では経済学以外の分野の知性の言葉を紹介しつつ探っていく。しかし何故欲望には際限がないのかという問いの立て方はこれまでされていなかったように思う。 2019年7月に放映された「欲望の資本主義」シリーズのスピンオフとなる「欲望の貨幣論」はその問題の本質に迫るものだった。中でも岩井克人氏の言はとても判り易く画面を通してその人柄にも惹かれた。このシリーズでは、哲学者であるマルクス・ガブリエルもまたその根源的な問題を解決するための新たな哲学を模索し続ける一人として登場するが、岩井氏は拙速に「解」を探るのではなく問題の本質がどこから来るのかを判り易い言葉で紐解いていく。本書は、放映されたインタビューのみならず、その言説の背景にある広範な知識のエッセンスを更に丁寧に順序立てて解説しようという試みだ。 経済学での主流派である新古典派と不均衡動学派の違いを簡明な言葉で説明し、何故「自由と安定」は二律背反なのかをギリシャのポリス哲学者アリストテレスの考えにまで遡って説く。自説の箔付けの為に古典に依拠する例は枚挙に遑(いとま)がないが、岩井氏の論の展開は、そこに必然を認めてのものであるところがとても興味深い。何故ポリスで貨幣が生まれたのか、という問いに対するアリストテレスの考察。それこそが何故欲望に際限がないのかという問いに対する一つの答えであるからだ。 そんなこと判っても今の現実の問題には何の役にも立たない、という声もあるかも知れない。しかし岩井氏は聖書の文言を引いてこうも言う「太陽の下、この世には何も新しいものはありません」。まさに過去から学ぶことは未来に対する備えの要諦だ。言葉遊びのようだが当然「未来から学ぶ」ことは出来ず、「今、この瞬間」の状況だけ(つまり時間経過がなく、原因と結果の関係が見えない状況)に学ぶことも出来ない。しかも、人間の行動は環境に大きく左右されるとはいえ時代を越えて不思議と繰り返し同じような行動パターンとなって表れてくることもまた事実だ。その似たような行動様式の背景にあるものは、恐らく、本質的に普遍なものなのだろう。岩井氏はその普遍なものを見抜いているように見える。であればこそ、2020年の感染症拡大下の汎世界の状況を予言したような言葉が岩井氏から出て来るのだと思う。 『貨幣は人間に「自由」を与えました。だが、貨幣を基礎とする資本主義社会は、本質的に不安定です。その不安定性を放置しておくと、資本主義社会自体を危機におとしいれてしまいます。その行き着く先は、ポピュリズムか全体主義です』―『第3章 貨幣は投機である』 本書で書き尽くせなかったとする「人間が倫理的な存在になることを可能にする言語について」の著作の出版を熱望する。

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2020/11/29

「貨幣は、本来人間を匿名にするんです。これが貨幣のもっとも重要なところなんですね。匿名ということは、人間が、ほかの人に評価されない領域を自分でちゃんともっているということ。これが重要なんですよ。」 例えば、住まいを間借りしているとする。するとその家のルールに従わないとダメだし、...

「貨幣は、本来人間を匿名にするんです。これが貨幣のもっとも重要なところなんですね。匿名ということは、人間が、ほかの人に評価されない領域を自分でちゃんともっているということ。これが重要なんですよ。」 例えば、住まいを間借りしているとする。するとその家のルールに従わないとダメだし、突然出て行けと言われても抗うことができない。 でも、家賃を払っていれば借家の中は自分の私的空間になる。借家よりも持ち家の方がより私的空間になる。つながりの希求は貨幣化の次のステップであり、村などの地域共同体への後退ではない。 ジェイン・ジェイコブスは市場での商習慣の中で「契約」という概念が生まれ、それが法に組み入れられたと述べていた。このような商習慣の先行は、本書に書かれていた、カネの下の平等が法の下の平等を生み出したのと共通している。個人(法人)という人格単位による社会の形成は商習慣やカネによって作りだされたものである。 人権は法によってではなく経済によって維持されている事実を左翼はどう受け止めるんだろうか。 自由を獲得するための手段としてのカネだったはずなのに、いつからかカネ自体が目的化してしまったことは、人間は自由に耐えられないし求めてもいないということでもある。自由は最終目的にはならない。自由があったところで目的や役割がないと幸福を感じられないというのは、福田恒存の言う「劇的な人間」そのもので滑稽である。

Posted byブクログ

2021/08/24

1)「貨幣とは何か」という問いに対する考察。金銀など「貨幣は価値が高いものだから貨幣である」とする「貨幣商品説」は、かならず[カネの価値]>[カネのモノとしての価値]となるところから棄却される。究極のところ「貨幣は他の人が貨幣として受け取ってくれるから貨幣である」ということになる...

1)「貨幣とは何か」という問いに対する考察。金銀など「貨幣は価値が高いものだから貨幣である」とする「貨幣商品説」は、かならず[カネの価値]>[カネのモノとしての価値]となるところから棄却される。究極のところ「貨幣は他の人が貨幣として受け取ってくれるから貨幣である」ということになる。 2)ビットコインは投機商品となって[貨幣としての価値]よりも[投機対象の商品としての価値]のほうが上回ってしまったので、貨幣に対する基本定理に沿わなくなってしまった。カネの価値がモノの価値より低くなってしまっては誰も手放さない、交換しない、つまり流通しないから、カネとしては機能しない。 3)しかしさらに突き詰めて言えば、カネが価値を失わないことを信じて使いつづけるということがすなわち「投機」に他ならない。投機はバブルと恐慌を生む。そのコントロールのために中央銀行がいる。貨幣は「自由」を与えてくれるが、貨幣を基礎とする資本主義社会は本質的に不安定だ。自由を守るためには、自由放任主義思想とは決別しなくてはならない。 4)貨幣は人々を共同体的なきずなから解き放ち、「個人」を「市民」にし、人々に自由を与えた。しかしグローバル資本主義=自由放任主義的な資本主義が、不安定・不平等を顕在化させつつある。この逆説に立ち向かうには、アリストテレスが言う「他者との関係における善」にもう一度立ち返って考えてみる必要がある。それにはカントの道徳律が手がかりになる。 1)2)のところは、考え方の整理としても気持ちいい。3)のところもこの人の経済観がよく表れていると思う。4)はかなり駆け足。こういう展開もあるぞというか、もっと根っこのところの考え方なのかもしれない。

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2020/08/10

ビットコインは新しい発想ではない、というところから興味を持って読んだ本書。面白かった。 お金の価値は、お金を発行している国家の信頼があるから、と思ってたけどそうではなくて社会全体の信頼による、というのは驚き。

Posted byブクログ

2020/06/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「おカネのおカネとしての価値>おカネのモノとしての価値」(p.34) 「貨幣の価値は社会が与える」 この命題の重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはありません。事実、古今東西、貨幣に関して少しでも意味のある研究をした人は、すべてこの命題に達しています。たとえば、カール・マルクス。マルクスの『資本論』の冒頭の部分に「価値形態または交換価値」と題された一節があります。俗に「価値形態論」と呼ばれるこの節は、マルクスが書いたもっとも重要な文章の一つです。そして、その「価値形態論」が最終的に達した結論は、まさに上の命題なのです。(p.42) 「貨幣はレヴェラーズ」です。貨幣は人間に「自由」を与えました。だが、貨幣を基礎とする資本主義社会は、本質的に不安定です。その不安定性を放置しておくと、資本主義社会は、本質的に不安定です。その不安定性を放置しておくと、資本主義社会自体を聞きにおとしいれてしまいます。その行き着く先は、ポピュリズムか全体主義です。(p.118)  ポリスと資本主義という、全面的に対立しているはずの二つのシステムの間に必然的に存在する「逆説的」な相互依存関係を見いだしてしまったのです。貨幣という媒介物は最高の共同体としてのポリスを維持するために不可欠です。だが、その貨幣が無限の増殖を求める資本主義を必然的に生み出し、ポリスはそれ自体の自足性を内部から掘り崩してしまう。ポリスの存立の可能性を生み出す貨幣それ自体が、ポリスそれ自体を崩壊させる可能性を生み出してしまうという逆説――アリストテレスは、この根源的な逆説から決して目をそらさなかったのです。私は、この「逆説」の発見こそ、人類史上最大の発見の一つだと思っています。(p.141)  「ロックの貨幣感は知らぬ間に私たちに染み付いているのです。彼が行っていたことは非常にありふれた本能を用いることでした。その本能とは、“貨幣”とは人々の間の取り決めではなく物理的なモノであると簡単に間違えることです。」  貨幣の本質はモノではなく「取り決め」であるにもかかわらず、人々はどうしても無意識のうちに、手にできる「モノ」の裏付けを求めてしまう……、そうでないと貨幣の根拠を実感できないというわけです。「社会契約説」を考えたロックは、言わば市場における「契約」の根拠をゴールドというモノに求めました。そのロックの示した考え方が、現代の仮想通貨開発者たちにも「呪い」のように暗示をかけ、彼らは無意識のうちに仮想通貨の発行総量を決めてしまったのかもしれない、というわけです。貨幣に対する本質の取り違え……、その不思議さ。(pp.175-176)

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2020/06/11

貨幣とは、を歴史から考察する お金とは、空虚なものですね。なのに人間の命を奪い、救う。神なのか、ただの紙なのか

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2020/05/22

NHKの「欲望の資本主義」に出ていた岩井克人の『欲望の貨幣論』である。「貨幣とは貨幣であるから貨幣である」と見極めて、貨幣の定義は自己循環論法に求められるとの結論に到達する。ビットコインとは何ぞやとか、今流行りのMMTなどにも言及しており、難しい主題ながら、分かりやすい説明がなさ...

NHKの「欲望の資本主義」に出ていた岩井克人の『欲望の貨幣論』である。「貨幣とは貨幣であるから貨幣である」と見極めて、貨幣の定義は自己循環論法に求められるとの結論に到達する。ビットコインとは何ぞやとか、今流行りのMMTなどにも言及しており、難しい主題ながら、分かりやすい説明がなされていて、分かった様な気にさせてくれる。

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2020/05/03

現代の経済学を二分して解説 画期的であり判りやすい 革命的過激さ ①不均衡経済動学・・・資本主義経済の本質 ケインズ・宇沢弘文など ②均衡経済学  ・・・主流派経済学シカゴ学派など 資本主義経済の本質は不均衡動学だが、周期的に経済危機を起こし、財政・金融の支援を必要とするので、そ...

現代の経済学を二分して解説 画期的であり判りやすい 革命的過激さ ①不均衡経済動学・・・資本主義経済の本質 ケインズ・宇沢弘文など ②均衡経済学  ・・・主流派経済学シカゴ学派など 資本主義経済の本質は不均衡動学だが、周期的に経済危機を起こし、財政・金融の支援を必要とするので、そのままでは受け入れにくい 体制の経済学としては「平時の均衡」を前面に出して理論体系を組むのが方便だが、これは反正義の在り方。本家の米国以外では衰退しつつある。 宇沢弘文氏、岩井克人氏とも「正当経済学の不正義」に耐えられず趣旨替えを表明し、経済学会を追われてしまった。「破門」である。 cf「資本主義と戦った男 宇沢弘文と経済学の世界」佐々木実と読み合わせるべき

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