CIA裏面史 の商品レビュー
目次 第一章 もっとやりがいのある仕事に就きたかった 第二章 汚い仕事 第三章 自発的被験者とそうでない被験者 第四章 宇宙の扉を開ける秘密 第五章 意識を破壊する 第六章 《MKウルトラ》に干渉する行為は一切禁ずる 第七章 落ちたか、飛び降りたかして 第八章 真夜中の絶頂作戦 ...
目次 第一章 もっとやりがいのある仕事に就きたかった 第二章 汚い仕事 第三章 自発的被験者とそうでない被験者 第四章 宇宙の扉を開ける秘密 第五章 意識を破壊する 第六章 《MKウルトラ》に干渉する行為は一切禁ずる 第七章 落ちたか、飛び降りたかして 第八章 真夜中の絶頂作戦 第九章 神々しいキノコ 第一〇章 健康改変委員会 第一一章 LSDをありがとう 第一二章 秘密は墓場まで 第一三章 あの頃、私どものなかにも無茶をする者がおりまして 第一四章 私は生け贄にされた気がして 第一五章 もしゴットリーブが有罪になったら 第一六章 彼がどういう人だったか、誰にも理解できないでしょう 謝辞 原注 概要 CIAのマインド・コントロールと暗殺の技術のために尽力したユダヤ人の生物学者、シドニー・ゴットリーブ博士の伝記的事実と《MKウルトラ》作戦を軸に、戦後CIA史の恥部を描く。ゴットリーブが目を付けたLSDがCIAの市民向け実験の中から流出し、ティモシー・リアリーを経てカウンタカルチャーに流れ込んだという事実が印象深かった(259-262頁)。 本書の主題である《MKウルトラ》の前史を辿ることにする。最初にLSDを敵国民に対するマインド・コントロールのために利用することを訴えたのは米陸軍のL・ウィルソン・グリーンであり、概ね1949年-1950年にかけてのことだった(50-51頁)。この薬物を用いたマインド・コントロールのための計画はすぐに軍に承認され、トルーマン大統領の同意を得て、1950年にはCIAによる《ブルーバード》計画として研究が始まっている(51-54頁、63-65頁)。この《ブルーバード》計画を発展するためにアレン・ダレスがCIAに雇い入れたのが本書の主役、シドニー・ゴットリーブであり、ゴットリーブの1951年7月13日の初出勤後、同1951年8月20日に《ブルーバード》計画は《アーティチョーク》計画にコードネームを改められている(66-71頁)。ただし、《アーティチョーク》計画では、ゴットリーブが目をつけるまでLSDは用いられなかった(81-84頁)。《アーティチョーク》計画はさらにゴットリーブの予算と権限を強化する形で、1953年4月13日に《MKウルトラ》にコードネームを改めた(100頁)。 本書は、この《アーティチョーク》計画やそれに続く《MKウルトラ》にてマインド・コントロールの方法を発見するために行った非人道的な人体実験を行ったCIAの体質がメインテーマとなっている。また、ゴットリーブが《MKウルトラ》の研究の結果、結局のところマインド・コントロールを行うことは不可能だとの結論に達した後にも、アメリカ合衆国のポピュラー・カルチャーや社会一般に与えた《MKウルトラ》の影響の余波について。そして、非人道的な人体実験を行いながらもよき家庭人としての姿を保ち続けたゴットリーブとその家族の姿についての考察がサブテーマとなっている。 私個人が本書で最も興味深かったのは、「洗脳」言説をアメリカ合衆国社会が受容した経緯について触れた部分であった。私は本書を読むまで、朝鮮戦争時のアメリカ兵の捕虜に対して、中国共産党による「洗脳」が行われたという話を漠然と信じていた。しかし、本書では中国共産党による「洗脳」については否定されており、反共ジャーナリストのエドワード・ハンターが1950年9月20日付の『マイアミ・ニュース』紙に発表した「洗脳」に関する論説が大衆の想像力の中で独り歩きした結果、アメリカ合衆国について都合の悪い現象がすべて「洗脳」によって説明されるようになったと論じている(73-74頁)。そして、CIAが自国民向けに共産主義者による「洗脳」についてプロパガンダを行っていたことに自らが囚われた結果、「洗脳」の脅威は《アーティチョーク》計画のようなCIA自身によるマインド・コントロール研究を正当化する材料になっていたとのことである(74-75頁)。朝鮮戦争終結後に、解放された7,200人のアメリカ兵の捕虜の中に、共産主義を礼賛する者や、自身の戦争犯罪を告白するものがいたことも、「洗脳」という文脈でアメリカ合衆国社会には捉えられたが、実際には共産主義者が「洗脳」を行ったという証拠は何も存在しなかった(112-117頁)。むしろ、本書で描かれた《アーティチョーク》計画や、《MKウルトラ》などのCIA自身によるマインド・コントロールを目的にした人体実験こそが、共産圏に存在するとセンセーショナルに噂された「洗脳」そのものであった。
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