興行師列伝 の商品レビュー
近代日本の芸能史を興行師に視点をあてて、「興行師」のカネと力とそれぞれの大志が入り乱れた清濁併せ持つ物語がコンパクトに新書1冊で堪能できて面白かった。 取り扱っているのはこの5名 ・十二代目守田勘弥(守田座~歌舞伎の近代化) ・大谷竹次郎(松竹) ・吉本せい(吉本興業) ・永田雅...
近代日本の芸能史を興行師に視点をあてて、「興行師」のカネと力とそれぞれの大志が入り乱れた清濁併せ持つ物語がコンパクトに新書1冊で堪能できて面白かった。 取り扱っているのはこの5名 ・十二代目守田勘弥(守田座~歌舞伎の近代化) ・大谷竹次郎(松竹) ・吉本せい(吉本興業) ・永田雅一(大映) ・小林一三(東宝・宝塚) これからこういった芸能史を詳しく調べたい人向けに、巻末には「参考文献&ブックガイド」がついていて、著者から一冊毎にコメント註釈がついてるのもありがたい。(どれを手に取れば良いのかの判断がつけやすい)
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興行はほぼ博打とイコールなくらい当たるか当たらないかわからないのに、勝てると信じて、いや、その勝ちを確実にするために、あらゆる手腕を発揮するプロデューサー。プロデューサーよりこの本で言う「興行師」の方が山っ気があっていい表現だ。「安定した事業」のふりをするところ、扱ってるのが「不...
興行はほぼ博打とイコールなくらい当たるか当たらないかわからないのに、勝てると信じて、いや、その勝ちを確実にするために、あらゆる手腕を発揮するプロデューサー。プロデューサーよりこの本で言う「興行師」の方が山っ気があっていい表現だ。「安定した事業」のふりをするところ、扱ってるのが「不要不急」なものではないってところ、良い悪いじゃなくて好きか嫌いかってところ、浮ついたものでちゃんとビジネスやってる感出す感じが、賭博師よりよほどたちが悪い。幕末から昭和後半までに活躍した5人の興行師たちを取り上げるが、彼ら自身が時代順に鎖のように絡み合って、日本の芸能界の栄枯盛衰を辿っていく。 守田勘弥。幕末に早くも、芝居小屋が幕府による免許制がなくなることで自由競争になること、また政府の不平等条約改正には日本が近代化した証拠を諸外国に示すことと察して、一介の芝居小屋の近代化を進めたそのセンス。しかし根っからの興行師(博打打ち)魂の方が強かったか、中小企業のワンマンオヤジレベルだったか、自身が近代化した芝居小屋新富座はやがて人手にわたり、明治の興行の中心は国の支援をバックにした歌舞伎座とそれに関わる田村成義に移っていく。 次の松竹の大谷竹次郎は双子の兄・白井松次郎とともに、関西から東京に進出し、歌舞伎座を手に入れ歌舞伎を守ってきた。さすが関西出身というべきか、複数の劇場経営や、年間通しの興行、幅広いジャンルに手を広げるなど、興行に経営の視点を取り入れた。興行師田村成義から歌舞伎座を手に入れるまでのエピソードが新たに帝国劇場も絡んで手に汗握る面白さ。守田勘弥→田村成義→大谷竹次郎と興行師が順に代替わりしていくのは、やはり勢いやセンスが重要な業界だからなのかな。 吉本せい。ここではやはり山口組とのつながり、人気浪曲師を巡り起きた浅草浪花家での襲撃事件に痺れる。あと、息子と笠置シヅ子との大恋愛の話!「わろてんか」より全然面白いじゃないの。 永田雅一。ちらちら名前は見聞きしたことあったがあまり詳しいことは知らなかった。千本組という京都のヤクザに出入りしてたチンピラが大映を率いる大社長になるが、そこに至るまで、引き抜き、裏切りとエピソード満載でまぁ映画みたいに面白い。ほんと翌日には寝首掻かれるからおっかない世界。長谷川一夫とのやり取りも興味深い。この本に役者はあまり深くは関わらないが、長谷川一夫は表の世界だけじゃなくて裏の世界にもよく顔を出す。興行師らと同類ということではなく、興行師たちを狂わせたり、救ったりもする、ただいるだけで人を狂わせる純粋すぎるほどのスター性がある。 小林一三。中で最も経営者的な観点で興行の世界を変えていったが、宝塚、そして国民劇への愛着は変わらなかった。国民劇に何度もトライしてその度失敗するエピソードが微笑ましい。 あっという間に一気読みの面白さだった。著者の笹山啓輔さん、読ませるのが上手い。
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面白く読んだ。 大衆に夢を売る仕事の裏にはドロドロの世界が存在することがよくわかった。 令和の今も、多分…
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明治、大正、昭和の時代に活躍あるいは暗躍した有名興行師の栄枯盛衰を簡単に記した本。近代芸能史の入門本と言える。 紹介されている興行師たちは、十二代目守田勘弥、大谷竹次郎(松竹)、吉本せい(吉本興業)、永田雅一(大映)、小林一三(東宝)の5人。 大映を除いては、現在もトップクラ...
明治、大正、昭和の時代に活躍あるいは暗躍した有名興行師の栄枯盛衰を簡単に記した本。近代芸能史の入門本と言える。 紹介されている興行師たちは、十二代目守田勘弥、大谷竹次郎(松竹)、吉本せい(吉本興業)、永田雅一(大映)、小林一三(東宝)の5人。 大映を除いては、現在もトップクラスのエンタメ企業として営業を続ける企業の立ち上げから現在に至るまでのストーリーは強烈でかつ、魅力的。 私は本書でなぜ松竹が歌舞伎座を所有し、かつ歌舞伎興行を行っているのかを初めて知った。 その他、上記企業、興行師にまつわるドラマチックなエピソード満載。 巻末には参考文献&ブックガイドとして、さらに興味がある人のための、本書執筆時に使用された文献と、著者おすすめの本が、著者の一言コメント付きで紹介されているのも新設でありがたい。
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著者は79年生まれで、この手の本の書き手としては格段に若いという印象があるが、その分、登場する5人の興行師についても等距離で書いている。 で、若さを象徴するのがチャプタータイトル。 例えば、 東宝vs松竹 三大劇場 興行界最大の決戦 リアルで観てもいない怪獣映画のタイトルを...
著者は79年生まれで、この手の本の書き手としては格段に若いという印象があるが、その分、登場する5人の興行師についても等距離で書いている。 で、若さを象徴するのがチャプタータイトル。 例えば、 東宝vs松竹 三大劇場 興行界最大の決戦 リアルで観てもいない怪獣映画のタイトルをパロってしまうあたりが、全てが等価値のサブカル世代、ってことですかね。 まぁ、「すべからく」が出てこないだけでも、著者の真っ当さは十分に評価できますが。
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ネット配信が当たり前になる前のメディアの王さまはテレビだった。しかし、その前には映画の時代があり、さらには舞台の時代があった。 歌舞伎座、松竹、吉本、大映、東宝、宝塚の始まり。それぞれ新旧の激しい戦い、かつての開拓者はいつしか慢心し既得権益を守ろうと新しい可能性を排除しようとする...
ネット配信が当たり前になる前のメディアの王さまはテレビだった。しかし、その前には映画の時代があり、さらには舞台の時代があった。 歌舞伎座、松竹、吉本、大映、東宝、宝塚の始まり。それぞれ新旧の激しい戦い、かつての開拓者はいつしか慢心し既得権益を守ろうと新しい可能性を排除しようとする。その繰り返し、興行と任侠の不可避な関係性、演劇だけではなく映画なんかのメディアに従事する人たちも知らないような、かつての歴史。 当然ながら興行師たちは死んでいき、意志は引き継がれず、大きな組織はもはや先達のような興行師を必要とはしなくなる。 ただ、彼や彼女たちが作り上げた文化から派生したものが続いてる。例えば宝塚がなければ阪神間モダニズムはなく、手塚治虫はマンガの神様にはならなかったかもしれない、などなど。 既得権益を持つと新興を潰そうとするか懐柔しようとするのは仕方ないんだろう。しかし、どんだけ人生で華開こうが、ただただ諸行無常の響きだけが誰にも鳴り響くのだけは避けられない。それでも人は夢を見て、願望を叶えるために四苦八苦していく。
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華やかな舞台での熱演、鳴り止まぬ大歓声……しかしその裏では、血と汗と金にまみれた争いがあった――。情熱と野望で大衆芸能の発展に貢献した、松竹・吉本・大映・東宝の創業者たち。その波瀾万丈の人生やライバルとの仁義なき戦いを、膨大な資料からドラマチックに描く。ヤクザや官との癒着、札束攻...
華やかな舞台での熱演、鳴り止まぬ大歓声……しかしその裏では、血と汗と金にまみれた争いがあった――。情熱と野望で大衆芸能の発展に貢献した、松竹・吉本・大映・東宝の創業者たち。その波瀾万丈の人生やライバルとの仁義なき戦いを、膨大な資料からドラマチックに描く。ヤクザや官との癒着、札束攻撃、二枚舌……昔も今も芸能界は、グレーゾーンだらけの弱肉強食の世界。注目の演劇研究者による、おもろうてやがて哀しき興行師たちの物語。 それぞれについて、もっと掘り下げて読んでみたい。今後の課題。
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